約束

「先生、お昼は何食べますか」
「ん? そばかな」
「おそば、ですか」
「そう」
「お好きなんですね、ほんとに」
「長野のそばはおいしかったから」
「東京は?」
「まずくはないが、信州のほうがやっぱり美味い」
「北海道はどうでしょうね」
「大学で食べたそばはおいしくなかった」
「先生、大学は北海道でした?」
「そう」
「じゃあ大学卒業までずーっと北海道で?」
「そうだ」
「それから長野に?」
「そう」
「で、今は東京ですか。じゃあ、ボートは北海道で」
「大学のときだ」
「あのう、この間連れて行ってくれたカフェには大学時代にきたって言ってましたよね?」
「。。。」
「大学は北海道だったんですよね?」
「。。。」
「ボートの試合かなんかのついでに行かれたことがあったんですか」
「。。。」
「先生?」
「一度きりだ」
「え?」
「あそこには一度しか行ったことがない」
「一度?」
「そう、それも大学生のころに」
「じゃあ、なんで連れて行ってくれたんですか」
「昼間行ける店を知らない」
「え?」
「正直、困った」
「困った?」
「昼間出かけることなんてないからな」
「そうだったんですか。でも、すごーくきれいなところでしたよね」
「気に入った?」
「はい。この間は雨だったから、今度は晴れた日に行きたいです」
「そうだな」
「昼間、ですよ」
「昼間?」
「だって夜行けるお店はたくさん知ってるんでしょう」
「たくさんというほどでもないが」
「だから、昼間は私と出かけてください」

夜の先生のつきあいはわからない。それに、夜なら連れて歩く女性はたくさんいるだろう。
昼間出かけるのが苦手でも、先生が私のために時間を作ってくれるなら。。。
それでいいと倫子は思っていた。

NN病にはカナルカフェは特別な場所だな、と思う。いつになっても。