ポケベル

「ちょっと失礼します」

小夜子の携帯電話が鳴った。小夜子は立ち上がり、テーブルから離れて電話をとった。

「もしもし?」
「私だが」
「あら、直江先生」
「何の用だ」
「今日の歓迎会、先生もいらっしゃるかと思ってセッティングしたのにいらっしゃらないんですね」
「どこからだ」
「歓迎会のお店から」
「そんなところからポケベルを鳴らすな」
「だって、先生の連絡手段、それしかないじゃありませんか。携帯も持ってないし」
「今日は予定があった」
「今どちらなんですか」
「病院だ」
「あら、お仕事なんですか」
「まあ、そんなところだ」
「帰りに寄ってもいいですか?」
「いや、今日はだめだ」

今日は小夜子に会いたくなかった。三樹子とも一緒にいたくなかったくらいなのに。

「あら、フロノスはいつお渡しすれば?」
「明後日なら家にいる」
「わかりました。じゃあ明後日にマンションへ行きます」
「わかった。それじゃ」
「あ、先生、携帯電話持ってくださらないんですか?」
「医者には不要だ」

直江はそう言って電話を切った。
携帯電話などで縛られたらかなわない、そう直江は思った。

おまたせの小夜子編。あの二人の個人的会話、想像するのが難しいような気がする。三樹子のほうが簡単かも。