写真

「いい天気ですよね」
午前の仕事が一段落したところで、小橋が誰にともなくつぶやいた。

「もう春ですものね!」 高木がすかさず返事をした。

「皆で写真、撮りませんか?」
小橋は数日前から考えていたことを口にした。

「写真ですか?」
「いや、別に理由はないんですが、この外科のメンバーで一緒に写真撮りませんか。
 お天気もいいし、屋上でどうでしょう?」
「写真ですか」
カルテを見ていた直江が珍しく小橋の意見に反応した。

「そう。僕はここでの写真がないから、どうかなと思って」
「そういえば、僕もないですね」
「でしょう? せっかくのお天気だし。どうでしょうね」
「でも、カメラなんてあるんですか?」
「三脚まで持ってきましたよ」
「小橋先生って用意がいいんですね!」

高木はすっかりその気になっていた。
小橋と一緒に写真が撮れるなんてチャンスはそうない。

「志村さんもいいでしょ?」
「え? うん。そうね。せっかくだし」
倫子はちらっと直江を見た。直江も嫌がってはいないらしい。

「じゃあ、仕事の区切りもいいし、ちょっと行きませんか?」
「しかし、ここを空けるのはよくないな」 直江が冷静につぶやいた。
「あ、そうでした。じゃあここにしますか。とってきますからちょっと待っててください」

「どうしたの? 皆さんおそろいで」
「あ、三樹子さん。小橋先生が写真を撮ろうって言い出して、ここで撮ることになったんです」
「小橋先生が?」
「先生ったら、カメラも用意されてるみたいで」

『珍しいわね』
三樹子は不思議に思ったが、その場に全員がいることを知って、小橋の気遣いがわかるような気がした。
『もしかしたら、小橋先生』

「おまたせしました」 小橋が走って戻ってきた。
「先生、病院内では走らないでください」
「あ、三樹子さん、すみません」
「写真撮るんですって?」
「ええ。許可していただけますか?」
「そうですね。ちょうどお昼休みですし、患者さんの迷惑にならないようにすばやくね」
「ありがとうございます」
「私が撮りましょうか?」
「それはありがたい。お願いできますか」
「ええ。じゃあ、そこのカウンターをバックに皆さん並んでくださいな」

神崎たちががーっと陣取る。小橋の横は高木がすかさずキープした。
その横に倫子が立ち、最後に直江が倫子の横に立った。
直江が横に立ったことで、倫子の頬が上気している。

『幸せそうな顔。。。』 三樹子はファインダー越しにうらやましく思った。
「じゃあ、撮りますよ」
「は〜い」

三樹子は撮り終わるとカメラを小橋に渡した。
「先生がこんなこと思いつくとは思いませんでしたわ」
「僕だって忘れたくないんですよ」
「え?」
「いえ、医者はやっぱり白衣姿でしょう」

「そうですね」
倫子に指示している直江を見ながら、三樹子はうなづいた。

いつのことなのかを考えるとちょっとムリがあるのは承知の上。三樹子さんがこんなに冷静にいられる時期はなかったような気がする。
「僕の生きる道」のみどり先生の言葉をきいて、写真というキーワードでどうしても考えたくなったのだ。
倫子さんに、直江先生の写真をプレゼント。持っといてください。やっぱり。