『どうしよう。こんなに食べきれないわ』
「先生もいかがですか」
「僕はいい」
「でも、飲んでばかりじゃ」
「気にするな」
「でも。。。」
直江はまた川を見ている。倫子はため息をつき、しかたなく食べ始める。
「ビールは?」
「いえ、もう。。。ジュースにしていいですか」
直江はビールとオレンジジュースを注文した。
「おいしいですよ」
会話も弾まず、直江はビールを飲んでばかりいる。
話が続いたのはさっきの川の話題だけだ。
「あの。。。教授から直々にお電話があるなんて、すごいですね」
「?」
「あ、あの、宇佐美さんの処置の。。。」
「ああ。。。」
直江は特に説明する様子もなく、またビールを飲んだ。
「直江先生じゃないとだめだってことでしたし」
「。。。」
「あ、すいません。余計なことでした」
「個人病院で目立たないようにしたかったんだろう」
「そうですね。。。」
『ご指名だったんだから、教授からも信頼されているんだよね。。。
高木さんもこんなところにいるような先生じゃないって言ってたし。
やることメチャクチャだと思ったんだけど、やっぱりすごい人なのかな』
倫子は一生懸命別の話題を考えた。
なんとか直江の興味を引く話題はないか、そればかり考えた。でも、なかなか思い浮かばない。
『先生。。。私を労ってくれようとしたんだろうな。。。うれしいけど、ちょっとこの雰囲気はつらいな』
直江は相変わらず黙ってビールを飲んでいる。
倫子はやっとの思いで食べ終えた。
「もういいのか?」
「はい、もうおなかいっぱいです」
倫子は注文された料理をなんとかほとんど平らげた。残すのはあまり好きではなかった。
「よく食べたな」
「え?」
「いや、なんでもない」
「だって、先生の分まで食べたんですよ」
「そうだったな」
直江が少し笑ったように見えたのは気のせいだったのだろうか。。。
|