直江が目覚めたとき、倫子は横にいなかった。
『どこにいったんだろう?』
そう思いながら、直江はなかなか起き上がる気になれなかった。
起きる気になれないのは、久しぶりに何もかも忘れて眠れたからだろう。
「先生? おはようございます」
「ん」
「コーヒーでいいですか?」
「ん」
「待っててくださいね」
「ちょっと。。。」
「はい?」
「今何時だ」
「え?」
「。。。もうしばらくこうしててもいいかな」
「起きないんですか?」
「ん」
『そばにいてくれ』 昨日の直江の言葉が蘇った。
「じゃあ、何時ごろ起こしましょうか?」
「君は。。。帰らなくていいのか」
「私も今日はお休みですし、ご迷惑じゃなかったらここにいたいです」
「すまない」
「いえ、じゃあ9時ごろ起こしましょうか」
「10時にしてくれ」
「そんなに寝てるんですか」
「今日はしばらくこうしていたい」
「じゃあ10時に」
「。。。君も一緒に休まないか」
「はい? なんですか?」
「いや、こんなにぐっすり眠れたのは久しぶりだ」
そう言いながら、直江は目を閉じた。
『君も一緒に休まないか』 その声は倫子にも聞こえていた。
『私だって先生の横にいたいけれど。。。』 と倫子は思った。
昨夜の先生はどこか変だったけど、よく眠れたって。。。
私がいたからだと思いたい。
だったら。。。私がそばにいてゆっくり眠らせてあげたい。
レントゲンのことは気がかりだった。でも。。。
倫子はベッドサイドに座り込み、軽い寝息を立て始めた直江の寝顔をずっと見つめていた。
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