迷い

直江の部屋から出てきた倫子は、外に止めてあったスクーターのところまできた。

『先生、なんだか別人みたい。。。あんなこと言われるなんて』
とりつくしまもなかった。

『君は僕の何を知ってるっていうんだ』
ショックだった。私は先生のこと、何も知らないかもしれない。
教わることが多くて知った気になってるだけで、ほんとうは何を考えてるのか、
どんな人なのかちっとも知らないのかもしれない。。。
三樹子のことまで言ってしまった自分が情けなくなった。

先生、何かあったんじゃないかしら。あんなこと言うなんて、どうかしてる。
謹慎だけであんなにお酒を飲むなんてこと、ないような気がする。
窓辺で夕日に染まっていた直江の横顔は、今にも儚く消えてしまいそうな感じがした。
。。。さっき見たばかりなのに、よく思い出せない。

倫子は部屋の前まで戻った。直江のことが心配だった。
何を考えてるかわからない。あんな難しい人、と思う。
でも、確かに医者としてすごい人なんだとも思い始めていた。
優しいかと思えば冷たく、厳しいと思えば温かい人。
なんでこんなに気になるんだろう。
なんで、こんなに心配なんだろう。

ドアに手をかけた。。。 鍵はかかっていない。
どうしよう。。。勝手に入ってまた怒られるかな。。。 でも。。。

倫子は強いなぁと思った。あの難しい人に立ち向かえる強さ。