ランチ

今日のランチは、以前2人で来たことがあるレストランだった。
2人で初めて来たレストラン。あのときは夜だった。
「気持ちいいですね」
「そうだな」
窓際のテーブルに案内された。あのときと同じテーブルだろうか。
まだ寒い日が続いているので窓は開いていないが、大きなガラス窓から
暖かい日差しが心地よかった。

「ここ、また来たかったんです」
「どうして?」
「あのときは。。。あまりおいしく食べた記憶がなかったので。。。
 だって、先生はビールばかりで、私一人が食べることになって。。。」
「もともと夜はあまり食べない」
「いきなり先生に誘われて緊張してたのもあったし」
「そうか」
「ああ、その緊張で最初にビールをぐいっと一気にいっちゃった酔いもあったんですよね」
「一生懸命、話してた」
「そうでしたか」
「あのときの話はよく覚えているよ」
「え?」
「川の話」

暖かい日差しの中、直江を見つめながら、あのときのことを思い出した。
『川の話ばかりしてたな。。。』

「それもそうですけど、先生とはよく川で会いましたよね」
「そうだな」
「川とボートと。。。そういう話ばかり」
「僕も何かあると川に行くから」
「ここも川の近くだし」
「そう」

「お決まりですか?」
「あ、いや、もうちょっと。。。」
「決まりましたらお呼びください」
「先生、何にしますか?」
「そうだな、君は決まったのか」
「先生は?」
「君は」
「先生と同じものにします」
「ん?」
「先生と同じものが食べたいです」
「おかしいな」

直江が笑った。

「そうだな。。。」
迷っている直江を見て、倫子は思った。
『先生はすぐに決められない性質らしい』
くすっと笑って倫子が言った。
「決まりましたか?」
「ん。。。君が決めてくれないかな」
「え?」
「君と同じものが食べたい」

びっくりして、でも、笑顔で倫子が言った。
「じゃあ、これにしましょうか」
「なんだ、決まってたのか」
「先生は食べたいものとかないんですか」
「君と同じなら」
「そんな調子のいいこと、先生が言うなんて思いませんでした」
「そうかな」
「そうですよ」

「じゃあそれにしよう」
メニューを閉じ振り返って手を上げた直江を見ながら、
そんな姿をこの場所で見ていられる自分の幸せを、倫子はかみ締めていた。

オセアノートはランチでも気持ちよく食事ができる。ランチしてる時間、あるよね。