決心

「今僕が怖いのは自分の体のことじゃない。彼女の笑顔が消えることが
僕の前で、笑顔が消えることが一番怖いんです」

直江は背を向けたまま、迷いのない口調でそう言いきった。

『もう何を言っても無駄なんだろうか』
小橋はあきらめに似た気持ちを持った。
直江をこのまま死なせたくない。
なんとか少しでも生きていてもらいたい。
そう思っていても、これ以上は何も言えなかった。

「。。。引き継ぎお願いします」
「。。。はい。じゃあ、入院患者から」

直江は何事もなかったかのように、担当患者の引き継ぎを始めた。
いつもどおりの口調で、病状と今後の処置についての方針を説明する。
そんな直江を見て、直江の話にうなずきつつ、小橋はある決心をしていた。

『今度は僕が嘘を突き通そう。石倉さんに対して直江先生がしたと同じように。
この病院にきて2年、彼はいままで一人で病気と向き合ってきた。
最後の最後まで医者であり続ける、そのためだけに。
誰にも病気のことを知られたくなかったに違いない。
しかし、僕は知ってしまった。
彼の決心が変わらない以上、彼の意志を尊重するためには嘘を突き続けるしかない。
。。。最後まで直江先生に付き合おう』

直江のやつれた横顔を見ながら、小橋は闘争心にも似た気持ちが湧き上がるのを感じていた。

小橋先生の気持ちです。
実は例の噂以来、小橋先生をあまり見ていないのです。これはかなり昔に作ってお蔵入りしてたやつ。