過去

「先生は、患者さんに告白されたことってあるんですか?」
「ん? いきなり、どうした」
「いえ、そういうことってよくあることみたいだから」
「君はどうなんだ」
「私ですか? 私はない。。。ですかね。うん。深刻なのはないです。
 深刻っていえば、院長の息子に迫られたときは参りましたけど」
「院長の息子?」
「前にいた病院の息子に迫られて、それを知った次郎が殴っちゃって、クビになりました」
「ああ、前に聞いたことがあるな」
「患者さんとどうこうっていうのはないです」
「そう。。。」
「で、先生は?」
「どうして聞きたがる?」
「だって、先生ならいろいろあるんじゃないかと」
「そんなにない」

確かに面と向かって直江に告白する患者はいなかった。。。真琴を除いては。
しかし、あれを告白というのだろうか、と直江は思った。

自分が患者からどう思われているかなどということは、気にしたことがない。

「そんなにないってことは、少しはあるってことですか」
「人の挙げ足を取るな」
「じゃあ、行田病院ではありましたか」
「。。。ないな」
「ほんと?」
「おばあちゃんにわりともてるが」
「え? あ、そうですね。おばあちゃんにはもてますよね。ほんと。
 この間、鈴木さんが先生に手を握られて真っ赤になってました。かわいかったです」
「よく覚えるな」
「一応、女性ですから」
「残念ながら若い女性は寄ってこない」
「嘘ばっかり」
「ん?」
「先生は、基本的に患者さんにはやさしいですよ。特に女性には」
「そうかな」
「気付かないだけですよ〜」

前は高木から直江の噂をいろいろ聞いていたが、
高木も倫子の気持ちを知ってからは、そういう噂話は教えてくれなくなった。
あの方たちのことは気がかりだったが、どうしようもない。
自分から聞いておいてなんだけど、患者さんのことも気にしてたら身が持たないわ、と倫子は思った。

直江先生に若い女性の患者さんは。。。ま、いただろうな。