愛しい気持ち

ビデオカメラのスイッチを切りながら、直江はため息をついた。
どのくらいしゃべっていただろう? 5分は回していただろうか。
話したいことはすべて言ったつもりだが。。。
直江はビデオレターに収めた倫子への言葉を思い出そうとした。
しかし、よく覚えていない。
まあいい。。。そろそろ行かなくては。

そのとき、電話が鳴った。
「もしもし」
「先生?」
「ああ」
「私、そろそろ空港に行こうと思うんですけど」
「僕も出かけるところだ」
「あのう、一緒に行ってもいいですか?」
「ん?」
「これから、先生のマンションに行きますから」
「どうして?」
「だって。。。先生が本当に来てくれるか不安だから」
「わかった」
「じゃあ、行きますね」

『来てくれるか不安』と言った彼女を、直江は心から愛しいと思った。
この旅行が彼女にとってどういう意味を持つのか、彼女はまだ知らない。
しかし、いつか。。。わかってもらえたら。

直江はビデオテープを窓際のソファの上に置き、石倉の形見のハーモニカをのせた。
直江はしばらくそこに立ちつくし、部屋の中をゆっくりと見回して、ここであったことを思い出していた。

そして。。。テーブルの上のガラスのボートが目にとまった。
何故かわからないが。。。泣きそうになった。
『これくらいは持って行っても許されるだろうか?』
そのとき、チャイムが鳴った。
ガラスのボートをコートのポケットに押し込み、直江は玄関に向かった。

最後に泣かせてあげたかった、と思う。自分の弱みをさらけだして、楽になってもらいたかった。