微笑み

「そう。。。私は彼女の笑顔に負けたのね」
「勝ち負けの問題じゃないだろう」
「でも、それがあなたの心をつかまえたんだから」
「。。。」
「父がひどいことを言ってごめんなさい」
「いや、当然のことだ」

三樹子は院長が知っていることを直江には言うつもりはなかった。

「明日から休暇をとることにした」
「え? 休暇?」
「休ませてもらうことにした」
「そう」
「ちょっと北海道に」
「帰るの?」
「ああ。。。彼女を連れて行こうと思っている」
「そうなの。。。うらやましいわ」
「え?」
「私がこんなこと言うなんておかしい?」
「いや」
「私、ずいぶん突っ張ってたのよ。あなたに」
「?」
「強がって、生意気でわがままだったでしょう。素直になるってことを忘れてた」
「君は魅力的な人だと思う」
「え?」
「そうでなければつきあったりはしない」

直江がこんなことを言うのは初めてだった。
嬉しいはずなのに、三樹子は言葉が出てこなかった。
直江は穏やかな顔をして微笑んでいる。
『私の前で笑うことなんてなかった。。。』
この人のこんな笑顔も彼女がいるせいなのね、と三樹子は思った。

三樹子シリーズ。あくまで別れのシーンですけどね。