「どうしていつもその曲ばかりなんですか」
「春を待ちたいんだよなぁ」
「ほかのレパートリーも聞かせてくださいよ」
「いや、やっぱりこれが一番さ」
「この人、ほかのはからっきりなんですよ」
「余計なこというな」
「はいはい、まったくねぇ」
「いいじゃねえか、春がくれば元気になれそうな気がするんだからちょうどいいだろ」
「早く元気になってもらわないとねぇ」
「そうですよ」
「直江先生に聞いてもらいてぇな」
「え?」
「いや、なんか直江先生に聞いてもらいたいんだよ」
「どうしてですか」
「あの先生、最近疲れてるような気がするのさ。だから」
「疲れてる?」
「そう。最近なんかいろいろあったみたいだし、今だって出張行ってるんだろ?」
「そうですね。。。」
謹慎中の直江のことを思った。
「ハーモニカって心が休まるような感じがしないかい?」
「はい、落ち着きますよね」
「だろ? だからさ まずはこの曲を聞かせるとして、あの先生はほかにどんなの喜ぶかな」
「さあ、直江先生の好みはちょっと。。。」
「志村さん、聞いといてくんないかね」
「え〜、私がですか」
「いいじゃねえか、話のついでにでも」
「直江先生の好きな曲を?」
「そうそう。それで内緒で練習して驚かすのさ」
「直江先生の好みって想像できませんよね」
「そうだねぇ」
「ロックとかお好きだったらどうします?」
「そりゃハーモニカじゃ無理だな」
「じゃあ、決めうちで聞いてみましょうか。この曲は好きですかって」
「ああ、そりゃいいや。例えばどんな曲かい?」
「え、男の人が好きそうな曲でハーモニカで吹けそうなやつでしょう。。。
例えば、『夜空ノムコウ』とか」
「なんだって?」
「SMAPの『夜空ノムコウ』ですよ」
「それって有名なのかい?」
「そりゃ有名ですよ。知らないんですか」
「聞けばわかるかもしれないがね」
「大丈夫、きっと聞いたことありますよ」
そういいながら、倫子は考えた。
『石倉さんだけじゃなくて直江先生も夜空ノムコウを知らなかったらどうしよう。。。
そういうの聴きそうもないものな。カラオケに行くような感じでもないし。
あれ? そういえば直江先生って中居くんに似てない? 気のせいか』
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