土手

「どうしてたんぽぽ探してるの?」
「患者さんがたんぽぽが好きだっていうから、飾ってあげようと思って」
「お姉さん、看護婦さんなの?」
「そう」
「看護婦さんには見えないね」
「え? そうかなぁ」

「たんぽぽ探すの大変じゃない?」
「そんなことないよ。患者さんが喜ぶ顔を見たいから。
 それで患者さんが元気になってくれたらうれしいじゃない?」
「ふうん、患者さんが喜ぶんだー」
「そうよ」

「ほかの花じゃだめなの?」
「冬でも咲いてるたんぽぽって強いなぁと思わない? そういう強さを忘れないでいてほしいから」
「強さ?」
「患者さんは毎日頑張って病気と闘ってるの。それってすごくつらくて大変なことなのよ。
 だから、病気に負けない強さを持っててもらいたいから」
「病気と闘ってる?」

「そう。だからね、もし病院にお見舞いに行くことがあったら、頑張れなんていわないほうがいいね」
「どうして?」
「だって、毎日頑張ってるのに、また『頑張れ』なんて言われるのいやじゃない?
 だからね、お医者さんは患者さんに『頑張れ』とは言わないのよ」

「じゃあなんて言うの?」
「ん? 大丈夫ですよって」
「大丈夫?」
「そう。僕がついてるから大丈夫ですよって。一緒に闘いましょうねってこと」
「ふうん。そうなんだ」
「お医者さんってすごいんだよ」

「あ、お姉さん、見えてきた。あそこだよ」

−そこはたんぽぽの咲く土手−

たんぽぽの土手に行くまでの会話。いまどきの小学生がこんな会話するのかは疑問だけど。