コート

倫子は、抱えてきた上着を椅子にかけた。

『先生が脱ぎ捨てたままだったから、ちょっとしわになっちゃってるわ。。。』
直江が来てすぐに脱ぎ捨てたコートも置いてある。
倫子はそのコートを手にとった。黒いコート。。。タバコの香りがする。

倫子はタバコの香りが嫌いだった。
こうやって服にまでタバコの香りが染み付くのは好きではなかった。
でも。。。これが直江の香りなんだなと思う。
屋上でタバコを吸っている姿が目に浮かぶ。
吸いすぎだと注意したこともあるが、まったく気にしていない。
体にいいわけはないのに。。。

『先生は、あそこでいつも何を考えているんだろう。。。』
青空を見て、雲を見て。時間があるといつもあそこでタバコを吸っている。

『何ふくれた顔してるんだ』
『大人じゃないってことだ』
直江の声が蘇ってきた。

『先生の涙は忘れられません』
倫子は、小さくつぶやいてみた。
あのときから、私は。。。

あのコート、タバコの香りがするよ、きっと。