ケーキ

「先生、ケーキ食べなくちゃ。ちょっと待っててくださいね」
倫子がキッチンに行くと、直江はコーヒーの準備にとりかかった。

「おいしそうですよ。二人で食べるにはちょっと大きいですけどね」
キッチンから倫子が話しかける。

「僕はそんなに食べられない」
「わかってますって。私にまかせてください」
「まかせるって?」
「私、いくらでも食べられますから」
「しかし、そんなに食べるとよくないんじゃないかな」
「え? 何か言いましたか?」
倫子がキッチンから顔を出す。

「食べたものは体に吸収されるんだぞ」
「そうですね」
「君の場合はここじゃないかな」
「ここって?」
倫子が見ると、直江が頬を指差した。

「頬っぺたにつくって言いたいんですか」
「多分」
「ひどい。石倉さんにも飴玉しゃぶってるんじゃないかって言われたことがあります」
「飴玉?」
「ぷく〜っとふくれてるって」

直江が笑った。

「笑うことないじゃないですか」
「飴玉か」
「そんなにふくれていませんよ!」

「そこが君のいいところだろうな」
倫子に聞こえないような小さな声で、直江がつぶやいた。

あのケーキどうなったんだろうっていうのがすごく気になる。食べなかったってことはないと思うんだけど。