本屋

かれこれ1時間は経っているだろうか。
食事をしようと外に出て、行く途中でこの本屋に入った。
新しくできたばかりの大きな本屋。
あちこちに座り心地のいいソファや椅子が置いてある。

はじめのうち、倫子は直江の後ろについて本を見ていた。
しかし、真剣に見て回る直江についてまわるのは邪魔かなと、倫子は一人で本を見て回ることにした。
それから1時間は経っている。
倫子は探していた本も、読んでみたい本も、一通り手にとった。
本屋は好きだけど。。。でも。
う〜ん。。。そろそろ先生のそばにいってもいいかな。。。

直江は確かあのあたりにいるはずだ。
中二階を見上げると、直江は手すりの近くのソファに座っていた。
もともと本屋は静かな場所だが、直江のまわりはさらに静寂に包まれている感じがした。
その本をずっと読んでいたのだろうか。
黒いコートは脱いで脇に置いていた。
手を頬に当てている。
タバコでも吸えたら、きっともっと落ち着いて読んでいたりするんだろう。
倫子はその姿を見て、ちょっと飽きてきていた気持ちを忘れる感じがした。
『ここで先生をずーっと見ててもいいかなぁ。。。』
そんなことも思い始めた。
『私は先生のどんな顔が好きなんだろう』
そう考えたとき、あの手術のときの横顔が思い出された。
そして。。。あそこで本を読んでいる先生の横顔。
。。。きれいだった。

『いけない、いけない』
倫子は思い直して、直江のそばに近寄って言った。
「先生?」
「ん? ああ、すまない。大分待たせたんじゃないかな」
「どうですか?」
「この本をずっと読んでいたんだ」
「ここで、ですか」
「このソファも座り心地がいい」
「ほんとだ」
「寄り道が長くなってしまったな。行こうか」
「はい」

本屋に入る前はまだ明るかったが、今はすっかり日も暮れていた。
直江が笑って言った。
「君がいなかったらいつまでいたかわからない」
「。。。すみません。もっといたかったんですよね」
「いや、僕のほうこそすまない。夢中になってしまって」
「いえ。私は先生といられればどこでもいいんです」
「そうか」
「先生がいやじゃなかったら、このままいてもいいんですよ」
「うーん、ここは勘弁してもらいたいかな」
「そうですよね」
「本は一人で読むものだろう」
「じゃあ、本を読んでる先生を見てます」
「横で?」
「はい」
「それは。。。困るな」

直江が笑った。
その顔に、さっき見たあの横顔の面影はない。
少し悲しげだった、先生の横顔。
それも好きだけど、でも、やっぱり私を見て笑ってくれる先生の顔が一番好きだと倫子は思った。

なんか、私が作るのはオチがワンパターンで申し訳ありません。
どーしても倫子の話に乗る直江先生の図しか思い浮かびません。
彼から話題をふることは、そんなに多くなかったのだと、それを根拠に。