「どうした?」
「いえ、先生歩くの速くないですか?」
「速いかな」
「ええ、かなり」
「そうか?」

並んで歩き出しても、しばらく歩くとまた倫子が遅れ始める。

「先生。。。」
「ん? ああ、すまない」
「そもそも足の長さが違うんですから」
「そのせいじゃないだろう」
「でも、どうしても置いていかれちゃうんですもの」
「君がもう少しスピードをあげたらいいんじゃないのか?」
「これでもかなり一生懸命歩いてるつもりなんですけど」
「そうかな」
「これ以上速くしたら、ランニングになっちゃいますよ」
「ランニングか」
「大体、先生ったらそんなに勢いよく鞄を振って歩かなくてもいいんじゃありませんか?」
「鞄?」
「なんか、ブンブン振って歩いてますよ。そんなに振って歩くから速くなるんですよ!」

直江は自分が鞄を振りながら歩いていることに気づいていなかった。

「子供みたいだな」
「え? 何か言いました?」
「いや。きっと。。。」
「何ですか?」
「なんでもない」

『うれしいからだ』 という言葉を直江は口に出さなかった。

「こんなに歩くのは久しぶりだ」
「あまり歩かないんですか」
「ん」
「たまには歩かれたらどうですか」
「。。。そうだな」
「今度、朝一緒に歩きませんか?」
「歩いて病院に行くのか?」
「そうですよ。たまには健康のために」
「冬は寒くてかなわない」
「先生ったら。じゃあもう少し暖かくなったら」
「そうだな」

そんなことができたらどんなにいいだろう。
でも、それは無理だった。
。。。また一つ彼女に嘘をついてしまったな、と直江は思った。

鞄を振って歩く直江先生。最初見たとき中居くんが出たなと思ったけど、実は直江先生もブンブン振って歩く人だったんだってことで。