第十三話 PL法に対応するには?
Hajime5 PL法をうまくかわすようなマニュアルの書き方ってあるの?
Boss1 ないな キッパリ
PL法のために特別な「対応する書き方」などない、と考えた方いい。
Hajime2a1a2a1 え〜、そ、そんな無責任な...。
マニュアル作りの本に「PL法に対応するにはどう書くか」といった解説があって、よく見たら「PL法に対応する場合は、統一した書き方や箇条書きにする」などいくつかの書き方スタイルを例を挙げていたんですが。
Eiko1b1a2a1a でも、それらをすべて満たしても、PL法でいう「適切な表示」といえないわ。統一や箇条書きなど表現上の小細工でPL法に対応するというのは的外れなのよね。
Boss1 そもそも、作る側で「PL法に対応する場合は〜、しない場合は〜」と区別するの意識が間違っとる。これを裏返せば「PL法に該当しない製品だから大丈夫」という意識の現れと言えるからな。このような意識では、気がつかないうちにマニュアルに必要な要件に対して無頓着になっているんだ。
Eiko1 必須項目の記載漏れがないようにして、内容が正しくわかりやすいマニュアルを作る、というあたりまえのことを心がければ自動的にPL法に対応するのね。
PL法があるなしに関わらず「ユーザーに正しい情報をわかりやすく伝える」というマニュアル本来の目的を見失ってはならないわ。
Boss1 ホントのことを言うと、PL法に対応するために基本的なポイントはいくつかあるがな。
Hajime2a1a2a1 基本的なポイントって?
Boss1 PL法とマニュアルと聞いて連想するのが警告文や注意文の存在だよな。当たり前のことだが必要な注意や警告は必ず記載していなければならない。つまり、わかっている製品のリスクが説明されていないのでは、とてもPL法に対応しているとは言えないからな。
Eiko1 それと、「要らない注意や警告は記載しない」ということね。
Hajime4a1 でも、PL法に対応するってことは、注意や警告をバンバン入れたらいいんじゃないの?そしたら訴訟が減るんじゃないですか。
Eiko1 確かに製品の欠陥を判断する上で警告文などは重要な要素ね。でも警告は多けりゃいいものではないのよ。不必要な警告は、かえって本当の危険な部分の説明が見えにくくなるデメリットがあるの。
Boss2 米国にこういうジョークがある。「ハシゴを買った男が、ハシゴの下から上までびっしり貼られている警告文を読みながら登っていたら、うっかり足を滑らせてハシゴから転落した。そしたら、ハシゴの一番下に『よそ見をして登らないでください』と書いたラベルが貼られていたとさ」(笑)
Eiko1 そのジョークって、警告が多すぎると本当に何が危険なのか見えなくなる、という逆の意味での危険性が生まれることを示唆しているのね。「とにかく書いてあるからいいだろう?」というのではユーザーを向いた姿勢ではないということね。下手なマニュアルほど無用な警告が多くなるのよ。
Hajime3 そうか、多すぎる警告はかえって逆効果になるですかぁ。
Boss2 そりゃそうだ。警告だ注意だっていうワリに実際そうでもないことがわかったら警告や注意が信用されなくなる。「オオカミと少年」という逸話を知っているだろ?「オオカミが出た」といつもウソ言ってたらホントにオオカミが出ても誰も信用しなくなるからな。
Eiko1 それと警告や注意事項を整理・区分して表示することもポイントね。たとえ人命にかかわらなくても、製品を壊したり人がケガすることに対する注意などさまざまな種類があるの。わかりやすさためにも、警告や注意文の定義をきっちり示すことを忘れてはいけないわ。前に出ていたけどこういう感じね。
 警告 :このマークは、説明を守らないと人の死亡や重大な傷害を受ける危険があることを示します。
Boss1 つけ加えると、ANSI(米国規格協会)では次のように警告文や注意文の種類を規定している。日本のPL法ではANSIの定義に準拠しなければならない....ということではないが、参考にすべきだろう。
・避けられない危険(DANGER)潜在的な危険(WARNING):人の生命、人体に重大な傷害を与えるような人身事故、または火災などで財産に損害を与えるような危険を示す。
・軽度の傷害や製品に損傷を与えるような注意事項(CAUTION)
・便利なことの説明などヒント事項(NOTE)
Eiko1 これらの定義は絶対的なもので、相対的に変わるものではないのね。たとえば、電動丸ノコや芝刈り機などは動く刃物があるため「避けられない危険」が存在する製品だけど、ソフトウェアは「避けられない危険」や「潜在的な危険」というランクは存在しないはずよ。
Hajime3 う〜ん、警告や注意を区別するのが難しいですねぇ。
Eiko1 そうね。よく問題になるのは「潜在的な危険」よ。潜在的な危険とは、普通は危険がなくても扱い方を誤ったり、一定の条件で危険になる「可能性がある」ことをいうの。でも「風が吹けば桶屋が儲かる」式に考えると、際限なく警告が増えてしまうことになるわ。また、判断が難しい場合もあるわね。
Boss1 こういう事例がある。自動車のドライバーが運転席の位置を調節したとき、車内に落としたタバコ用の電子ライターの着火ボタンが押されて運悪く発火し、車両火災につながったケースがある。このケースを受けて「車内に電子ライターを落とさないでください」と警告を与えるのが正しいと思うか?
Hajime5 車両火災につながるなら「車内に電子ライターを落とさないでください」って警告を与えるべきじゃないの?
Boss1 このようなケースは、通常製品の使用において合理的に予見することは難しく、極めて偶発的に起きる事故といえる。この事故は年間数件起きているらしいが、少ないとはいえ無視できるものでもない。このような確率が低く予測が難しい危険に対して警告を与えるのは現実的ではないだろうな。マニュアルで対応するよりハードウエアでの対策、つまり電子ライターが挟まれないような構造に車を直すべきだろう。
Eiko1 そうよ。偶発的に起きる事故は、警告で危険を回避できないことも多いわ。
それと、書いてあるとおりにすれば危険にならない場合もわざわざ警告を与える必要はないのね。この観点で見直すとずいぶん無用な警告が多いのに気がつくと思うわ。まあ、ケースによってはよく考えないといけないけど。
Hajime1 なんだ、PL法に対応するって警告やら注意文を多く入れるのかと思ったらそうでもないんですね。
Boss1 警告は「量より質」なんだが、警告すべき所に適切な警告を与えることを忘れてはいかんな。重要な警告事項があるのに全然関係がない位置に記載した場合、警告されていなかった、と見なされることがある。記載位置についても充分配慮すべきなんだ。
Eiko1 もうひとつポイントがあるわ。警告や注意文は本文から区別して目立つように記載する必要がある。本文の説明に埋もれてしまったり、注意や警告であることがわかりにくいスタイルではダメということね。
Boss1 警告文や注意文は、書体や大きさ・色・配置などを工夫し、本文から視覚的に区別するように強調することが一般的だな。
Eiko1b1a2a1a でも、ある取扱説明書で見たけど、1ページまるまる警告文章で埋められていて、しかも全部赤文字なのよ。目がチカチカするし、読もうという気にならなかったわ。目立つといってもこれじゃぁねぇ。センスの問題なのよね。
Boss1 強調ってのは、まばらにあるときに効果的だが、“全ページ強調”じゃ強調の意味がなくなるからな。よくあるのが警告や注意文を集中的に並べたスタイル。これでは読まれないな。
Hajime4a1 PL法に対応する方法って「無い」って言いながらけっこうあるじゃないスか。
Boss1 まだある。よく見かけるが「所定の用途」を明記していないマニュアルが多い。誰が使っても用途が限られる場合はいいが、誤用・代用で危険になる場合もある。何のために使用するのかという製品本来の用途をきちんと説明しておくことも忘れてはいけないぞ。
Hajime1 でも、警告や注意文章の書き方って普通どおりでいいんですか?
Eiko1 警告や注意文章が読みにくい、誤解する、意味フメーな文章だったら訴訟になって、最悪ン十億の損害になるかもしれないわよ。
Hajime3 そ、それだけはご勘弁ですね。か、書き方を教えてくださいよぉ。
Eiko1 じゃ、次のページで見てね。
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