第十二話 PL法とマニュアル
Hajime1 マニュアルって雑誌などと違う点ってあるんですか?
Boss1 何といっても「PL法」と直結している点だろうな。
Hajime5 「ぴ〜える」って何スか?高校野球の常連校なの?
Eiko1 「PL法」とは英語のProduct Liabilityの省略形で、正しくは「製造物責任法」と言うの。製造物の欠陥によって生命または財産に損害を被った場合、「製品メーカー」(製造、加工、輸入した業者)などに対して損害賠償を求めることができる法律よ。詳しくはここに説明されているわ。
Hajime3 う〜んよくわからないなぁ。
マニュアルはどうかかわっているの?
Boss1 マニュアルの記述ミスで、最悪ン百億の損害賠償金を支払わなきゃいけなくなるケースもある。
Hajime2a1a2a1 え〜!ン百億の賠償金?うっそー。
Boss1 賠償金だけじゃなくて、企業の損害としてン百億になる場合もあるな。
Eiko1 ある自動車メーカーでは、マニュアルの記述ミスで新型車の発売が差し止めになったケースもあるわよ。米国での話だけどね。これは法規で定められていた記述を忘れたというポカミスから莫大な損害になったケースね。
Boss1 自動車ではものすごい金額になるよ。そもそも自動車やバイクは人命にかかわる製品だし、うっかり記述ミスから事故を起こしたら大変なことになる。
Eiko1 だから自動車やバイクは、極めて慎重にマニュアルが製作されているのね。たとえば、ユーザーが理解できる書き方か、誤解を招く表現ではないかなど、社内の各部門に原稿を回して多面的なチェックを受けたり、海外向けのマニュアルでは海外の現地法人で専門家のチェックを受けるなどのイベントを設けているメーカーもあるのよ。
Boss2a そのようなメーカーでは、手間とコストがかかっても人命にかかわることなので省くことができないという意識がある。
だが、それでも訴訟は起きるんだがなぁ。
Hajime5 自動車やバイクって事故で訴訟になったら、莫大な賠償金になって大変ですよね。自動車会社はつぶれないのかな。
Boss1 大きな企業では訴訟に備え、「PL保険」というのを掛けているんだ。
それと、自動車やバイクは本質的に事故が避けられない製品だ。ユーザーはそのリスクを承知で買っているし、リスクがある製品であっても社会的な有益性があるから販売できるんだ。だから、なんでもかんでも事故イコール訴訟になるわけではないんだ。だけどそれは国によって基準が微妙に違うんだ。
Eiko1 そうね。米国って「え〜」と驚くような常識外れな訴訟や高額訴訟が多かったの。だから「訴訟大国」って皮肉を込めて呼ばれていたわ。
Boss1 メーカーが加入するPL保険の保険料は製品原価に含まれているんだ。つまり、消費者がPL保険料を負担している構図なんだな。米国では、相次ぐ高額訴訟が製品価格に転嫁されることに消費者がやっと気がついたという所かな。最近ではけっこう落ち着いていると言われている。
Eiko1 それでも、単に翻訳しただけのマニュアルではPL法を満たすことができないわ。国の事情や法律に応じた書き方でなければいけないのよ。
Hajime5 日本のPL法はどうなの?
Eiko1 日本のPL法は、95年7月1日に改正されているわ。この改正点を大まかにいうと、製品メーカーに過失があってもなくても、ユーザーは製品に欠陥があったことを証明すればよいことになったの。つまり、製品メーカーに過失がないことが証明できなかった場合、製品メーカーは損害を賠償する責任を負うことになるの。つまり消費者の立場が強化されたわけね。
Boss1 ということは、製品メーカーが発行するマニュアルに不備があり、それが原因でユーザーの生命または財産に損害を被った場合は製品に欠陥があったとみなされる可能性が高い、ということだな。
Hajime3 ぞぞぞ。日本でもマニュアルが訴訟のやり玉にあがるのですね。
Eiko1 使用するうえでリスクがある製品で、説明や表示があっても内容が読めないとか理解できない場合も「製品の欠陥」とみなされる可能性もあるわ。
Hajime4a1 意味フメーな説明じゃ「製品の欠陥」に等しいことにもなるわけですね。
Boss1 そう。だから「マニュアルは製品の一部である」と言われているんだ。だけど、そういう認識があっても方法論がバラバラなんだな。
Hajime1 前に起きた食品の不正表示事件なんか誤った情報を表示してたでしょ?これって「製造物責任」が問われていたの?
Eiko1 食品の不正表示事件は「PL法」と関係ないわ。PL法でいう製造物とは「製造または加工された動産(製造物)」が対象になると定めているの。不動産や未加工の農林畜水産物など、あるいは無体物である電気やソフトウェアなどはPL法の対象じゃないの。
Hajime4a1 じゃ、「PL法」の対象じゃないソフトウェアのマニュアルはお気楽でいいスね。車やバイクと違って、間違っても人命には影響ないから訴訟されないしぃ。
Boss1b1a1 ばっかも〜ん
そういう考えがいけないんだ。安易に考えるから安易なモノしか造れないんだそ。
Eiko1b1a2a1a 甘いわねぇ。PL法の対象にならない製造物でも、説明の不備から損害が発生すると民法上の損害賠償責任が問われることがあるのよ。
Boss2a ところがなぁ。多くのソフトウェアでは、使用許諾契約書という事項があって、「ソフトウェアの使用に起因または関連する直接的または間接損害や逸失利益の責任を一切負いません」などという“保証の放棄”という条項が示されている。
Eiko1b1a2a1 簡単に言えば、「この製品を使用して損害が起きても知らないよ」ということよね。多くのソフトではこの条項に同意しないとインストールができないわ。このため、ソフトウェアをインストールすれば、重要なデータを失っても損害が保証されないということになるのねぇ....。
Boss1 ごもっともな面もあるが、考えてみればおかしなハナシでもある。お金を出して買った製品に「欠陥があっても一切知らないよ」というのは無責任じゃないかな?対価を得ないフリーソフトならいざ知らず、対価を得る製品である以上は一定の範囲で義務や責任が伴うべきだろう。
Eiko1b1a2a1a ソフトウェアはPL法が問われないし、損害賠償責任の放棄を認めさせる特殊な製品かもね。権利意識は米国流そのままで、日本ではちと殿様商売のような印象を受けるわ。
Hajime4a1 そっか。賠償責任がない製品って、マニュアル作りに慎重さや緊張感が欠けていても不思議じゃないスよね。だから.....
Boss2a1 シ〜ッ めったなことを口走るんじゃない。誰が聞いているかわからんぞ。
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