風にゆれる黄色い花がすっかり日本の秋の風景になれたのはなぜだろうか
-セイタカアワダチソウの繁殖戦略-

はじめに
日本の秋の色といえば,何といっても大勢の人が見物に出かける落葉樹の紅葉でしょう。でも私には,通学の途中に道端で見かける黄色が気になってなりません。それは教員になって以来のつきあいになる,セイタカアワダチソウという植物の小さな花が集まって咲いている色です。帰化植物であるセイタカアワダチソウは,第二次大戦後数十年の間に日本各地に分布域を広げ,それぞれの場所で大きな群落を形成するようになりました。何がこのような急速な分布域の拡大と,各地での群落の定着を可能にしたのでしょうか。植物は種子を作ったり(種子繁殖),株で増えたり(栄養繁殖)して子孫を増やし,分布域を広げたりその場所で定着したりします。しかし一言で「種子をつくる」といっても,どんな種子を,どれくらい,どうやって作るかは植物の種類によってさまざまです。株で増える増え方もまた同様です。そこで,セイタカアワダチソウがどんな繁殖の仕方をしているのかを詳しく調べることで,表題の答えに近づくことができるのではないかと考えました。内地留学の機会を得た私は,留学先の上越市で,1995年からの2年間にわたりセイタカアワダチソウと向き合い,会話し,あるときは乱闘を繰り広げました。これから,そこで目の当たりにしたこの植物の,巧妙ですばらしい繁殖の様子を紹介したいと思います。セイタカアワダチソウは「雑草」です。が,たとえ「雑草」でもそれぞれさまざまな努力で変わりゆく世の中(環境)を生き抜いています。この文を読んだ人が道端の雑草を見て,その雑草が自らの子孫を残すためにどのような努力しているかに思いをはせたなら,これほどうれしいことはありません。

セイタカアワダチソウのキャラクター
セイタカアワダチソウは北アメリカ原産のキク科の多年草です。日本にもアキノキリンウと呼ばれる同じグループに属する花が野山に咲きますが,体も小振りで群れることはありません。アメリカではこの仲間がアラバマ州などの州の花に指定されておりvery hand-some flower として,人々に愛されているそうです。日本には明治時代に観賞用に少し輸入されましたが,そのときには日本各地に広がるようなことはありませんでした。日本中に広がるきっかけになったのは,第二次世界大戦後アメリカからの大量の物資に混じって,種子や植物体が各地に陸揚げされたことだといわれています。分布調査の報告書や大学院へ来ている人(青森から沖縄まで)にインタビューの結果,1980年代の前半には日本のすべての都道府県で生育していたことがわかりました。
セイタカアワダチソウは春に茎を伸ばして夏の間成長し,秋になると黄色い花をたくさん咲かせます。ふつう,花の季節までは枝分かれしないで,一本の茎がまっすぐ伸びます。花のころには高さが2mを越え,その先の細かく枝分かれした茎に小さい花がたくさん咲くので,よく目立ちます。アメリカでは黄色い花の集まりが風に揺れる様子からTall-Goldenrod(金色のむち)と呼ばれています。花の後にはタンポポのような綿毛のついた種子(このような種子を痩果といい,小さく,栄養をあまりたくわえていません)をたくさん作って,枯れてしまいます。日本では白い綿毛が高い茎の先に泡立つように集まってみえるので「背高泡立ち草」と名付けられました。たくさんの種子は風に運ばれ,落ちた先が新たな生活の場所になります。これが種子による繁殖です。また,冬に地上の茎や葉は枯れますが,地下の茎(地下茎:根ではありません)が残っており,本格的な冬が来る前には,次の年の芽が地面から顔を出しています。翌年春が来るとその芽が伸び出し,その年の体になります。これがもう一つの繁殖の方法である栄養繁殖です。栄養繁殖によってできた体は元の親の体と同じ遺伝子を持っています。そうやってできた子は,親やきょうだいと全く同じ遺伝子を持っており,お互いに「クローン」であるといいます(図2)。地上だけを見ていると独立しているように見えますが,地下で前の年の枯れた株とつながっている可能性があるのです。こうやってできた子は7月ころに地下茎が腐っていき,お互い独立します。生物はふつう「個体」で生活しているのですが,このような植物の場合どれを個体とするかははっきりしません。そこでこのように生活している一本一本の体を,地下でつながっていようがいまいが「ラメット」と(「ラミート」とも)呼びます。

どんどん群れを大きくすることができるのは?
栄養繁殖について調べてわかったこと
地上部の成長 河原や大学の空き地に,観察のために1m×1mの枠(方形区といい,生態学では方形区を設けて観察することが基本になっています。)をいくつか設けて,年間を通した背の高さや葉の数などの量の変化を観察しました。その年に成長する芽は気温の高くなる春には既に地上に出ているので,他の種子から成長する植物よりも早く伸び出します。その後の成長も早く,花が咲くまで背を伸ばし続けます。競合するほかの種類がいても,より高い位置で光を受けることができるのです。地上に出る芽は,はじめは多いのですが,成長するにつれ枯れてなくなるものが増えてきます。季節がすすむとラメットの間で競争がおき,より大きく成長できるラメットが生き残り,成長の遅れたものが枯れてなくなることが分かりました(図3)。小さいうちはお互い支えあい,大きくなると小さいものは十分に光にあたることができないで死んでいくのです。一見非情なようですが,そこにあるラメットが全部クローンだとしたら,どうでしょうか。

地下茎の数や長さ やはり方形区を設けて定期的に地面を掘り起こして,地下茎の様子を観察しました。この場合は掘り起こしたものを埋め戻すわけにはいきませんので,毎月同じ群落に出かけてはどんどん新しい場所を掘っていくわけです。秋にはそのあたりのセイタカアワダチソウは全部なくなってしまいましたが,「雑草」ですからだれにも文句を言われません。その結果から,来年のための地下茎の形成は,地上部がどんどん成長している7月に始まることが分かりました。7月以降,地下茎は数と長さを増やします。地上部が枯れるころには地下茎の先も地上に出て冬を越します。地下茎の数は平均すると3〜4本で最低1本から10本を上回るものも見られました。長さは数cmから1mを越えるものもありましたが,平均は20〜40cmくらいです。地上部が大きく成長したものほど多くの長い地下茎を作ることが分かりました。また,長くて重い地下茎の先にできたラメットほど大きく成長していることが分かりました。つまり,地下茎を作った前年のラメットからより遠くに離れたところに出た芽が,より大きなラメットに成長するということです。

地下茎の伸びる方向 地下茎の伸びる方向を調べたら,そのラメットを作った地下茎の,さらに先のほうへ伸びる傾向が見られました。「傾向が見られました」という表現は,「そうなっているものが多いのだけど統計学に基づいた検定によって明らかな差(有意差といいます)があるかどうかは確認していない」と,いうことを現します。また,複数の地下茎を伸ばす場合には約60度の分岐角度になる傾向があることも分かりました。60度を基本の分岐角度として毎年新しいラメットができると,とても効率よく,数年後にはセイタカアワダチソウだらけになるということが予想されます。

繁殖へのエネルギーの投資 生物は生きていく,あるいは子孫を残すために,必ずエネルギーが必要です。植物はエネルギー源になる物質を光合成で作り,我々動物は食物を食べることで体に貯えます。セイタカアワダチソウは地下茎による栄養繁殖と同時に,花を咲かせて種子を作る種子繁殖にも,光合成でたくわえたエネルギーを使います。大きなラメットではたくさんのエネルギーをたくわえますから,多くの地下茎を伸ばし,たくさんの種子を作ることができます。ところがいろいろな場所のラメットを比べてみると,ある場所のものはより多くの地下茎を作り,他の場所ではより多くの種子を作っているという可能性があることに気がつきました。つまり,限られたエネルギーを,種子と地下茎のどちらに多く振り分けるか(投資するか)を使い分けている可能性が出てきたわけです。そこで,生育する場所ごとに,どちらにより多くのエネルギーを投資しているかを比較してみました。その結果,新たに進出して間もない場所では,早くその場所に大きな群落を作ろうと,より多くの長い地下茎を伸ばし,何年も前から群落が作られていた場所では,地下茎よりもより多くの種子を作ろうとする傾向があることが分かりました。この辺りが「戦略」と言われるゆえんです。単純に「何%が種子に,残りが地下茎に振り分けられる」というものではなく,このような場合は何%というふうに,時と場所に応じて投資比率を変えている(戦術をかえている)ということなのです。

再生力 春に少し成長したセイタカアワダチソウを掘り起こすと,それがどこにもつながっていない地下茎の切れ端から芽を出したものであることがよくあります。そこで,ラメットから切り離された地下茎や地上の茎の一部からもラメットが作られることがあるのかを,水を入れたシャーレの中に茎の一部を置いて試してみました。その結果,ほんの数センチの切り離された茎からでも,数日で根や芽を出すことができたのです。このことは,生育地がブルドーザーによって踏み荒らされても,すぐに群落を再生することできることを示すばかりか,工事や埋立てなどで土が運ばれることにより,種子だけでなく,体の一部によっても新たな場所に生育地を広げることがある,という可能性を示します。

日本の至る所にどんどん進出できたのは?
種子繁殖について調べてわかったこと
花序の形 キク科の植物は,個々の小さな花が集合した頭花という花のかたまりを作ります。例えばヒマワリは,大きな1枚の花弁をもった舌状花がたくさんならんで周囲を縁取り,5枚の花弁が筒状にくっついた小さな筒状花が中心にたくさん集まっています。ヒマワリの場合,舌状花は飾りの役目しかなく,雌しべや(雌ずい)雄しべ(雄ずい)を備えているのは筒状花です。舌状花と筒状花の数や役割は,キク科の中でも種類によってさまざまです。セイタカアワダチソウの頭花は雌ずいだけを持った舌状花が10個ぐらいの周囲に,雌ずいも雄ずいも備えた筒状花が,舌状花より少し少なく中心に集まっています。頭花は数個かたまりになっていて,そのかたまりが数十個,一本の細い枝に連なってつきます。この細い枝のことを小花序と呼ぶことにしました。そして,その細い枝は一本の軸にらせん状に十数本から数十本つき,全体で大きな円すい形の花の集まり,つまり「花序」を作ります。一本のラメットにはふつう1,000〜5,000個の頭花,個々の花に直すと一万数千から十万個の花がつくことになります。

開花のようす 花が開くようすを何日にもわたって観察したところ,はじめに雌ずいだけの舌状花が開いて,その後4〜5日経ってから雌ずいも雄ずいもある筒状花が開くことが分かりました。先に開く舌状花のめしべには,同じ頭花の筒状花が作った花粉がつかないようになっているのです。また,筒状花にも自分の雌ずいの先端(柱頭といい,ここに花粉がつきます)に自分の作った花粉がつかないような巧妙なしくみがあることが分かりました。筒状花の柱頭は,初めは折り畳まれていて,その外側で雄ずいで作られた花粉を高く押し出すのです。その後で折り畳まれていた柱頭が少しだけ開き,花粉を受け入れる準備が整います。このようなしくみを自家不和合成と呼びますが,なぜそのようなしくみをわざわざ持たなくてはならないのでしょうか。
種子による繁殖は有性生殖といい,ある花でできた花粉が別の個体の花の柱頭につくというように,違う個体同士の間で生殖細胞をやり取りして次の世代を作ります。このことで遺伝子の混合がおき,同じ種類でも持っている遺伝子の違い,つまり,遺伝的多様性が生じるのです。全ての生物は有性生殖によって遺伝的多様性が保たれているために,大きな環境の変化などにも全部が一斉に絶滅せず,いくらかの個体は耐えて生き残ることができます。逆に,同じ個体内での花粉のやり取りは「自家受粉」と言い,これを繰り返すと有害な遺伝子が実際に働く可能性が高まり,あたり一帯の仲間の個体がだんだん少なくなるなどの「近交弱勢」と言われる現象が起きます。このような理由から,生物はなるべくほかの個体同士で,できればなるべく縁の遠いものどうしの間で生殖が起こるような,さまざまな巧妙なしくみを持っているのです。というよりは,そのような巧妙なしくみを持っているからこそ生き残り,しくみを持たない種類は,近交弱勢によってとっくに滅びてしまったのです。横道にそれてしまったのでセイタカアワダチソウに話を戻します。
頭花の中の個々の花は2〜4日咲き続け,1個の頭花の中でも少し日にちをずらして咲きます。秋には昆虫が活動できないような寒い日もありますが,昆虫が来なければだれも花粉を運んでくれないので有性生殖ができません。そうなることを防ぐため何日間か花を開くのです。それならなるべく長い間花を開いておけばいいと思いますが,それにはエネルギーが必要です。2〜4日間というのがちょうど投資したエネルギー(コスト)に見あった,花粉を運んでもらうという利益(ベネフィット)が得られる日数だと思われますが,これが本当なのかどうかは,今後調べてみたいと思っています。
クローンと予想される(観察が終わってから掘り起こしたら確かに前年の古株と地下茎でつながっていました。)3つのラメットの開花の様子を記録しました(図4)。最初の花が咲いてから,すべて咲き終わるまで1カ月以上にも及びます。これは,ある場所に生育するセイタカアワダチソウ全体が,長期間にわたって花粉を運ぶ昆虫を引き付けておく有効な方法です。なぜなら,花粉を運ぶ昆虫は,たくさん蜜が得られるような花を訪れます。また,その場所や,花を覚えておいていつもそこを訪れる(学習する)ということが,これまでの研究で明らかにされています。セイタカアワダチソウにとっては自分の花粉は同じ種類の花に運んでもらわなければ意味がありませんから,同じ昆虫を浮気させないようにずーっと自分と自分の仲間に引き付けておきたいわけです。長くだらだらと咲くというのは,まさにそのための作戦(戦略)なのです。

花粉媒介者 前にも書きましたがセイタカアワダチソウは昆虫が花粉を運ぶ「虫媒花」です。ちなみにスギなどは風が花粉を運ぶので風媒花と言い,まさに風まかせのため,大量の軽い花粉を作らなくてはなりません。ですからあの忌まわしい(ただしスギには何の責任もありません)花粉症の原因になるのです。ただ,昆虫を呼ぶ必要がないので花は目立たず,蜜も出しません。一時期セイタカアワダチソウが花粉症の原因といわれたこともありましたが,それが濡れ衣であるということはもうお分かりだろうと思います。咲き乱れるセイタカアワダチソウの中で秋のある数日,丸一日観察しました。その結果22種の昆虫が確認されましたが,その中でもミツバチの数が圧倒的に多く,盛んに花序を訪れ,体に花粉をたくさんつけて動き回る様子がみられました。このことから,セイタカアワダチソウの花粉を運ぶ昆虫のその主たるものがミツバチであるということがわかりました。ちなみにミツバチのような昆虫をセイタカアワダチソウにとっての「花粉媒介者」とか「ポリネーター」といいます。つぎに,天気のよい数日,のべ20時間くらい,今度はビデオカメラでセイタカアワダチソウの花序を撮影して,それをスロー再生しながら,ミツバチの来た回数,花を訪れている時間,花序の上での行動を詳しく観察しました。その結果,今度はミツバチの行動が,セイタカアワダチソウの自家受粉を防いでいるということがわかったのです。ふつうミツバチは花序に飛んでくると始めは下のほうの花を訪れ,徐々に歩いて上のほうに移りながら蜜を吸うのです。ミツバチにとって飛んで上へ行くより,歩いて上へ移動するほうが消費するエネルギーが少なくてすみ,えさをとるコストを低く抑えているわけです。ところがセイタカアワダチソウの花は上のほうから咲き下っていき,しかも雌花である舌状花が先に咲きます。ですから,ふつうはだいたい下部の花序では雌花が咲き,上部の花序では雄花が咲いているという状態になるのです。ということは,同じ花序を歩いているミツバチは他のラメットで体につけた花粉を下のほうで咲いている舌状花の雌しべの柱頭につけてから,上部でその花序の花粉を体に付け直すことになるのです。つまりセイタカアワダチソウは,主たるポリネーターであるミツバチの行動にあわせて花の咲く順序を決めているということなのです(図5)。


そのほか,ミツバチは一回花序を訪れるだけで,その時開花しているほとんどの頭花を訪れることが分かりました。筒状花の奥にある蜜腺にストローを伸ばして蜜を吸うと,ミツバチの胸や背中,足には確実に花粉がつき,また,体についた花粉は花から飛び出ているめしべに触れてめしべにつきます。したがって,一個の花が咲いている間に,たった一回ミツバチが訪れるだけで,ほぼ確実に受粉が成立することになります。また,ミツバチの足についた花粉のかたまりや体についた花粉を顕微鏡で観察しても,セイタカアワダチソウ以外の花粉は見当たりませんでした。ミツバチはセイタカアワダチソウにとって忠実で優秀な,願ってもないポリネーターなのです。
でも私はこの観察以来ひとつ気になることがあるのです。セイタカアワダチソウが日本に入ってくる前にはセイタカアワダチソウのようにたくさんの蜜を安定的に生産する植物は日本の秋には見られませんでした。それでも,いくらかの植物,例えば絶滅が危ぐされているオミナエシや,ハギなどがミツバチをポリネーターとして今でも生きています。ところが,セイタカアワダチソウがミツバチを独り占めしてしまったら,一体だれがオミナエシやハギの花粉を運ぶのでしょうか。

花が集まって咲く効果 あるアメリカのある生態学者が「花が集まって咲くのは,より多くの昆虫を集める効果があるから」という仮説を提唱しました。さっそく,セイタカアワダチソウでも同じ効果があるのか,検証のための実験をしてみました。大きな群落の中で,離れた二個のラメットの花序に来る昆虫の数を一定時間数えました。その後,一方のラメットの周りの花を刈り取ってしまい,一個の花序だけ孤立させ,さらに一定時間二個のラメットの花序に来る昆虫の数を数えました。その結果,孤立させた花序に来る昆虫の数は,孤立させる前や,対照として孤立させないでおいた花序と比べても減少しました。もちろん,「減少しました」と書けるのは統計的に有意の差があったということです(図6)。したがって,セイタカアワダチソウにおいても集まって咲くことでより多くの昆虫を集める効果(誇示効果)があるということが明らかになり,先の仮説は検証されたわけです。

種子の稔実率 花が咲き終わると小さい綿毛をつけた多数の種子が形成されます。種子の数を数えたら平均的な大きさの一個のラメットあたり4万5千個程度になりました。これは,栄養繁殖を行わないで,種子でしか次の世代を残すことに投資しない種類の中でも特に多いといわれている,アレチマツヨイグサやオナモミという植物の生産する種子数を越える数になります。そして,生産された種子が実際に発芽する能力を持つかどうかを調べたところ,70〜80%が発芽することが確かめられました。

かくしてセイタカアワダチソウの繁殖力はすごいということがわかった
(表題の答えとするには,まだまだ確かめなければならないことがたくさんある)
生物は繁殖のために大きく分けて二通りの戦略を持つといわれています。一つは,すでに植物がたくさん生育しているような場所で見られる,他の種類との競争に打ち勝って多くの子どもを作る戦略です。もう一方は,空き地などの不安定な環境の中で,できるだけ多くの子を作り,少しでも多く生き残ろうとする戦略です。セイタカアワダチソウは地下茎による栄養繁殖では前者の戦略をとり,種子繁殖では後者の戦略をとっているということが浮かび上がってきました。栄養をたくわえた長い地下茎の先にいち早く成長を開始する芽をつけ,他の種が成長するよりも早く背を伸ばしてその場所を立体的に占領してしまいます。一方,長い期間よく目立ち,集まって咲くことでポリネーターを引き付ける結果,発芽能力を持った多くの種子を作ることが可能になりました。これらの2つの戦略を同時にとることが,日本における急激な分布の拡大と各地での定着を可能にした一つの原因であるということがいえそうです。また,異国から入ってきたセイタカアワダチソウの強力な競争相手になるような植物が,もともと日本にはなかったこともその原因の一つでしょう。さらに,セイタカアワダチソウが生育できるような土地が日本のあちこちにあったことも忘れるわけにはいきません。 

まだだれも知らないことを知る楽しみ
あとがきにかえて
「なぜセイタカアワダチソウのような雑草の研究をするのですか」とよく人に聞かれます。それは,だれも知らないことを知ることが楽しいからです。生物という科目はたかだか100年ほどの歴史しかない生物学を基礎としています。中でも,分子生物学や生態学,進化生物学は今まさに発展期にある学問だと言えるでしょう。そしてそれらの最新の研究成果は,現在の教科書に書いてあることを裏付ける重要な発見であったり,時には,教科書の内容を覆すような内容であったりします。したがって私たちは常に情報を得て,知識を更新していかなければなりません。そのような過程で得られた知識や方法論は,実際自分で確かめてみたくなります。私にとってのセイタカアワダチソウは,まさに最新の情報を身近でためしてみるという,絶好の材料なのです。そして,まだだれも調べていないことを調べ,それを知る歓びは何物にも代えがたいものがあります。
この文章は上越教育大学大学院学校教育研究科の修士論文「セイタカアワダチソウ(Solidago alltesima L.)の繁殖生態」(1997)の一部を書き換えたものです。詳しい内容についてお知りになりたいかたには上記の論文を差し上げます。最後に,研究の機会を与えて下さった方々,研究に助言をいただいた皆様,研究を後押ししてくれた皆さん(私の家族も含め),そして,最後までこの文章を読んで下さったあなたに,この場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

この文章は武生高校の機関誌「武高評論」(2002年)に掲載されたものを転載しました

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