黒い豆

 

小林久美子


ブラジル、サンパウロ

※小径を愛おしむようにゆっくり歩きながら長い散歩に出るお年寄り(サンパウロ)

illustration:kumiko kobayashi


大腿にてのひらはさんでまちわびるアニャンガバウの坂はつめたく

黒い豆をあなたは立って食べているすさまじい眼で夢を見ながら

髯をそる人とそられている人と黙して午後の幻想のなか

年下の女性(ひと)の煙草に火をつける信号はすぐ青にかわった

五カ月をかけてようやく初めての挨拶をするいつも会う子と

輪かくを失いそうにふくらんでうすむらさきの樹の花空に

あたたかな食事と静かな会話とをわたしにもつぐ古風な家族

できたての鏡面モビールあでやかにブラジル産の菊といい感じ

祝日に毒ヘビ研究所をあるく毒づくことがすきなあなたと

冷えのこる白い素焼きの一壺の胴体だけば春はふかまる

おじさんとおじいさんと父さんと兄さんとぼうや教会へいく

南米の鳥のスライドくるくるとかわる あなたの睫は空色(アズール)

   1994サッカーワールドカップブラジル優勝

優勝に旗ふるひとたち乗せていくトラックは民芸玩具のように


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