あかいカフェの実

小林久美子


ブラジル、オーロプレット

※貴金属加工の工房で細工を施す青年(ブラジル、オーロプレット)
illustration:kumiko kobayashi


はつゆきや毛布のしたのかなしみのゆめの泉はあふれてをかし

ひるさがりきいろい毛布をかぶりあい黄泉の国だとよわむしがいう

幾千のあしなが蜂をみなごろし あなたのねがおにあまざけにおう

さーさーとかぜにちぎれるサンパウロ仙台たなばたまつりの笹よ

とてもいいできごとのあとかけだしてなきむしジャネッチ行ってしまった

しあわせはいまのいまかというひとの骨のくぼみでカナリアがなく

たてじわはとぎすまされてはいいろの瞳はいまにもこわれそうで

そばかすの背中に髪をはりつけてあなたは雨の木立ちににげる

おやすみとパラシュートとじひとりずつさってさいごにさよなら(アテロゴ)つげる

錯乱はやまつつじですそばにいるだれかの腰にふりそそぐだけ

かたくなに閉じているのはさびしさのうらがえしだと専門家が説く

くやしくてしかたなさそな童子のせ双子の馬がゆりかごをひく

おとなしいトロリーバスがいきましたゆうがた冬のカメラのなかを

あこがれをつげても眉をひそめられ…発展途上というこえひびく

敷石のほそみちちょっとすきだから走って走って走ってわらう

同胞にうらぎられたときずついて帰国したのははじめのともだち

やけついた屋根にのぼってかくれ鬼うす目のまんまさがしつづける

戦前の移民とゆびをにぎりあう あかいカフェの実しろいワタの実

さしのべてほしいとねがう手は夢のでぐちであおい麦を摘んでる

こなゆきのふぶくを見ればなつかしきひなまつりなど歌ふはあはれ


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