萌える野にさみしい父と母がいて重ね合わせるうすいハンカチ 眼を閉じて窪みにふれる早春の道にきらめく水想いつつ 洋服を燃やせば淡い煙たちかさかさと皮膚重ねあう音 ひとびとの靴はそろえてありました剥製のツル待つ玄関に たよりなくカーテンゆれて泣いているらしい人へとうさぎの林檎 ゆうぐれがこどもの頬に満ちてくる いないいないよ鬼はいないよ 海に魚ねむりて遠い声をきく〈わたしの鈴を探してください〉
(初出『歌壇』99年5月号)
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