夏のロビンソン
 

東直子


ハラショーの意味も分からず児が笑う雫している簡易ベッドに

精神のなき庭に咲く向日葵を見上げる 何もかもいらないの

思ったよりも傷が深くて草笛を吹きつつしたたるものはぬぐわず

ホッチキスで止めた傷口まもりつつ今年の夏の忙しいこと

怒りつつ洗うお茶わんことごとく割れてさびしい ごめんさびしい

質問に答えてくれるおだやかさ あなたの娘であればよかった

あのときはやさしかったし吹く風になにか千切ってやまないこころ

アナ・タガ・スキ・ダ アナ・タガ・スキ・ダ ムネ・サケ・ル 夏のロビンソン

(歌集『青卵』より)

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