海の椅子
 

東直子


椅子の背のもように風がしみてゆく海をうつせばつめたきまぶた

こすれあうものみな白し谷の抱く海にしずかに足さしいれる

あなうらに海の内臓たしかめる意志あるごとき月にてらされ

もういくの、もういくのってきいている縮んだ海に椅子をうかべて

波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい

ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよね

洋梨にナイフを刺せば抱擁の名残りのように芯あたたかし

煙立つ終点の駅我がドアを砂にまみれしゆびで開きぬ 

(歌集『青卵』より)

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