人形の笑窪

東直子


指で穴あけてゆく土 物語封じ込めたる胸のごとくに

完全なあなたでしたと薬品の並ぶ廊下に抱きとめられる

蜂の巣の密度を思う切り取られ刻まれてゆくモノクロの顔

靴下はさびしいかたち片方がなくなりそうなさびしいかたち

声深くねむる湖ひたひたと細胞の顔あおくあふれて

運ばれることの無心に揺れている花と滴とあなたの鎖骨 

人形は笑窪に水を溜めたまま空を許して踊り続ける

(初出:「読売新聞」1999年10月27日(土)夕刊)


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