おねがいねって渡されているこの鍵をわたしは失くしてしまう気がする
夕ぐれに夢をみました処女だったころのわたしと彼女のけんか
冬の陽のそれも朝焼け階段にあたしたちってやさぐれていた
ひやしんす条約交わししゃがむ野辺あかむらさきの空になるまで
たった一つの希いを容れた胸蒼くかたかたと飲むアーモンド・オ・レ
花灯かりにまみれてしまう指先が少ししめった便せんちぎる
さっきまでいた人の香のうすやみにほのかになじむハルセミの森
廃村を告げる活字に桃の皮ふれればにじみゆくばかり 来て
そぼそぼと降る雨音のおだやかさ 愛した人の悪口を言う
ゆうだちの生まれ損ねた空は抱くうっすらすいかの匂いのシャツを
(歌集『春原さんのリコーダー』より)