五夜

東直子


ゆくところあるかと問えばあるという淡い乳房を底よりあげて

あおあおと主観がくちづけている脱字だらけの記憶のなかで

シンゾウを使いつくして横たわりゼリードリンクふうに眠った

この街はなんどもなんどもこわされて雪のわきだす国になれるね

ほどかれた荷物のようなやわらかい息つぎながらあさをつなげる

(初出:「毎日新聞」2002年10月6日付)


                 ●東直子の短歌へ戻る