━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<12>, 2001.8.19 □□□ □□□ ★彡 ■■■ ■■■ ■■■ ■ ■■■ ■ ■■■ □ □ □ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ □□□ □ ■ ■■■ ■■■ ■ ■ ■ ■ ■■■ □ □ □ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ □ □ □ ■■■ ■ ■ ■■■ ■ ■ ■ ■ ■ ★彡 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ _/ _/ ■■■■■■■■■■■ 祝受賞! ■■■■■■■■■■■ _/ _/ メンバーの木戸京子さんが、 _/ 第16回短歌現代新人賞を受賞されました。 _/ _/ 受賞作「春の日差し」30首および選考座談会が、 _/「短歌現代」2001年8月号誌上に掲載されています。 _/ _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ 「@ラエティティア」第12号・目次 ┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┃ ●作品 ┃ 千葉聡(歌人) ◇「吹奏楽部・風雲録」 ┃ 沼谷香澄(歌人) ◇「器(うつわ)」 ┃ 松島綾子(歌人) ◇「石榴」 ┃ ┃ ●オンデマンド出版記念特集2 ┃ 村上きわみ著『キマイラ』×勝野かおり著『Br 臭素』 ┃ 荻原裕幸(歌人) ◇エッセイ ┃ ◆『キマイラ』(歌葉) ┃ 村上きわみ(歌人) ◇自選5首 ┃ なかはられいこ(川柳作家)◇書評「きたないはきれい」 ┃ 中沢直人(歌人) ◇1首評 ┃ 文屋亮(歌人) ◇1首評 ┃ ◆『Br 臭素』(歌葉) ┃ 勝野かおり(歌人) ◇自選5首 ┃ 江戸雪(歌人) ◇書評「勝野つらいつらいかおり」 ┃ 錦見映理子(歌人) ◇1首評 ┃ 吉浦玲子(歌人) ◇1首評 ┃ ┃ ●編集後記 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 短歌5首 │ 千葉聡(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ 吹奏楽部・風雲録 七時過ぎ職員室へ朝練のメニューを聞きに来るまるい耳 楽器庫の鍵がなくなり吹奏楽部員全員校内探検 フォルテとは遠く離れてゆく友に「またね」と叫ぶくらいの強さ 神様は小さな球をつくられた トランペットにたまる滴とか コンクールは「銅」に終わって月あかり街のあかりの隅で泣く子ら ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 短歌5首 │ 沼谷香澄(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ http://homepage2.nifty.com/swampland/ 器(うつわ) 既にわが一部ではない、違う、これは始めからわが一部ではない 抱けないまだ異化できていない。この器の中の、器の中の 水に浮かぶ子に子守唄聴かす。子は私と違う夢を見るのだ やわらかな水の器の毀れゆくときを思いつ破水ではなく 生温い黄色い風を受け入れて満つるべし生くるべし器なり ※( )内はルビ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 短歌5首 │ 松島綾子(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ 石榴 継ぐほどの家あらなくに長子たることさむざむと木に冷ゆ石榴 そのかみの墓所の在り処わたくしの左眼ほどの確かさならむ また今日も人が死んだよ死に遠き母をのこして蜻蛉ひらく 母に両親(おや)揃ひてゐたり誰そ彼に主のわからぬ足が漂ふ 父ひとり母ひとりなり蒼白き食卓ひとつのこされた家 ※( )内はルビ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ∬オンデマンド出版記念特集2∬ ◆村上きわみ著『キマイラ』×勝野かおり著『Br 臭素』◆ 特集する2冊は、コンテンツワークスとエスツー・プロジェクトの共同企画に より、史上初のオンデマンド歌集として、2001年1月にリリースされたも のです。入手方法、出版システムの紹介等は、以下のURLでご覧下さい。 http://www.bookpark.ne.jp/utanoha/ ┌───────────────┐ エッセイ │ 荻原裕幸(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ http://www.ne.jp/asahi/digital/biscuit/ 昨夏、まだ「妄想」めいていたオンデマンド歌集出版が、徐々に「構想」と なり、やがて「システム」にまで成長したものの、何かが欠如している気がし て、迷いがふっきれないでいたとき、初回参加者として、勝野かおり、村上き わみ等の名前を聞いた。同じ街に住んで、何度も酒を酌みかわしていた勝野が、 第一歌集にかける意欲は痛いほどに伝わってきていたし、未見ながらも、村上 が本づくりの企画をしていることは聞き及んでいた(実際に村上はプロだった のだ!)。彼女たちのそれぞれの選択は、ただの無機質なシステムに「生命」 を吹きこんでくれたと思う。優れた歌人と情熱的な選択を得て【歌葉】が生ま れた。新しい時間が流れはじめていた。 ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ┌───────────────┐ 『キマイラ』自選5首 │ 村上きわみ(歌人) |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ └───────────────┘ http://www2.ocn.ne.jp/~chimera/ 投げ出したからだに水を聴いているふたりきりふるい記憶のように 真昼間の盥にややを裏返す かみさまはるすかみさまはるす この次はハチドリとハチドリとして会いましょうせわしなく会いましょ 秋津島敷島液化さざれいしの母と子しぼる歯磨きチューブ ぬれやすき尾を持つ僕ら(やさしさは)波打ち際の会釈のように ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『キマイラ』書評 │ なかはられいこ(川柳作家) ├────────────────── └───────────────┘ http://www2u.biglobe.ne.jp/~myu2/ きたないはきれい 村上きわみの『キマイラ』を読むと、おとなはなんにもわかっちゃいなかっ たし、いまだになんにもわかっちゃいないんだと思う。まっとうなおとなの世 界では、価値のあるものと価値のないものは、「大きい/小さい」「遠い/近 い」「きれい/きたない」といった対立項で判断され、どちらか一方は切り捨 てられたりする。そういった価値観から遠く離れた世界に、『キマイラ』はあ る。村上の書く世界では、大きなこととささやかなこと、遙かなものと身近な もの、きれいなものときたないもの、それらすべてが同じ平面の上で語られ、 どちらも簡単に切り捨てられたりはしない。村上はあとがきで、「(短歌を書 くことは)違和を確かめ確かめしながら、世界に触れ直してゆく試み」だと言 う。ときどき匂いを嗅いだり、舌の上で転がしたりしながら、彼女は片っ端か ら素手で世界に触れてゆく。そのように彼女に触れられたのちに世界が見せる 表情は、泣きたくなるほど懐かしい。 この次はハチドリとハチドリとして会いましょうせわしなく会いましょ 市立病院最上階のあの窓の僕らの指紋はどうなったろう ギミックギミックめろん色したぼくたちのここそこあそこつながらなくて どうでもいいようなこと、とるにたらないようなことも、村上はかけがえの ない瞬間として掬い上げる。せわしなく飛び回りながら、せわしなくくちばし をつつきあっているハチドリたちや、四角く区切られた青空のなかほどにうっ すらと浮んでいる指紋のことを考えるとき、読者のわたしは、教室の机に彫ら れた名前や、木漏れ日を浴びながら歩く片目の猫や、刃の欠けた祖父の花鋏の ことなどを同時に想い出して、だれかとやさしい言葉を交わしたくてたまらな くなる。ほんとうに大切なものは、簡単に切り捨てられてしまうようなものの 中にこそある、ということを『キマイラ』は教えてくれる。 じゃあまたと手をあげる時ナオユキはなんだかすごくナオユキになる ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『キマイラ』1首評 │ 中沢直人(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ この次はハチドリとハチドリとして会いましょうせわしなく会いましょ 来世での再会と言えば思い浮かぶ作品は数多いが、ハチドリになって会おう という発想には他をよせつけないユニークさがある。関係に倦み、怠惰に時を 過ごす恋人。出会った頃、彼はいつも作者に関心を集中させていたに違いない。 ハチドリに象徴されるひたむきさは、永遠に戻って来ないものなのである。テ ンションの高さの持続する世界を夢見る作者の思いが伝わる一首であり、結句 の「会いましょ」も、せわしない雰囲気を強めている。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『キマイラ』1首評 │ 文屋亮(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ http://www.d3.dion.ne.jp/~aki_b/ 海を聴く ふたりきり 遠く 別々の 心音 重なり はぐれ 重なる わたしたちは「ふたり」という物語を一生に何度夢見るのだろう。この歌に 描かれた「ふたり」は海辺にいる。心音が聞こえるほど近くで寄り添っている が、ときに互いを見失う。永遠の「ふたり」なんてない、と承知しながら作者 は投げ出したり悲観的になったりしない。「重なり はぐれ 重なる」と締め くくられる結句は、すれ違いつづけてもいつか共鳴する時がある、という肯定 的な思いが托されているように思う。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ** * ┌───────────────┐ 『Br 臭素』自選5首 │ 勝野かおり(歌人) |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒ └───────────────┘ あ 雨の匂い 日暮れの舗装路を閑かに多数派が埋めていく 玄関を三歩出でたる時の間を紋白蝶に舞われてしまう ささくれが小さく蔭をつくる朝南部砂鉄の風鈴が鳴る ひたぶるに熊肉を恋う熊臭き熊たる肉の熊を食いたし 線と棒 グラフは数字に満たされて嘘もつけねばああ、ヒヤシンス ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『Br 臭素』書評 │ 江戸雪(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ 勝野つらいつらいかおり 勝野かおりは、つらい。彼女の歌を読むと私はとてもつらくなる。だから本 人はもっとつらいはず。何がつらいかというのは次のような歌。事物や出来事 に対する敏感さだ。 悪意なき言葉ひとつがそのものの悪意となれる様 見ておりぬ とにかく、突き詰めて考える。何に対しても。 そして、勝野は「まっとう」に憧れると言う。なら、彼女は「まっとう」で ないのか。 玄関を三歩出でたる時の間を紋白蝶に舞われてしまう 自らの生きる世界で精一杯舞いたい、自分でありたいという欲求が人一倍強 いので、うまくいかない場合が多く「へこむ」時があるみたいだが、現実そし て未来への真直ぐな眼差しを私は勝野の歌のなかに強く感じる。この眼差しは 「まっとう」だ。離婚?相手への愛情を感じないまま結婚生活をしている方が ずっとオカシイ。深酒?他人に迷惑をかけなければよろしい。営業成績?営業 成績のいい人に善人はいない(かな?)。 火のようにさびしい 枝を高く咲くあの赤い花の名をなんという 時々勝野はドンブリ飯のような豪快さを装っているが、この「赤い花」の歌 を読むと繊細なひとりの女性であることがよくわかる。そして私はこのような 歌にうたれる。どうか、自分よりもずっと高い所に咲く花を懸命に見上げる彼 女の背中を想像してみてほしい。 「歌は、わたしだ。」と勝野は繰り返す。その通り。歌は勝野だ。「わたし が作り上げようとしているキャラクターとしてのわたし」とか何とか理屈をつ けても無駄。短歌を詠む者の宿命だ。いかんせん、いかに繊細であっても真直 ぐな眼差しを持っていても事物に対して敏感であっても、歌がいいとは限らな い。だが、勝野の歌はいい。言葉が彼女自身にきちんと寄り添っている。 屋上に出られるビルはまれでありこんなに黒い営業かばん ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『Br 臭素』1首評 │ 錦見映理子(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ http://www.ne.jp/asahi/cafelotus/eliko/ ひと在らぬ閉鎖事務所の扉(と)を開ける埃明るき窓の光よ 集の後半にあるこの歌に立ち止まった。ふっときらめく光が眼前に見えるよ うな歌である。たぶん営業まわりをしていて、たまたま開いた扉の先に、だれ もいないがらんとした空間が広がっていたのだろう。はりつめていたものがふ いにほどけ、呆然とたちつくす作者の視線がそのままに写し取られている。抑 制のきいた表現のなかに、作者の側の思いと、読み手の側の思いを適度に重ね 合わせることのできる秀歌である。 ※引用歌の( )内はルビ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌───────────────┐ 『Br 臭素』1首評 │ 吉浦玲子(歌人) ├────────────────── └───────────────┘ http://homepage1.nifty.com/rei924/ 小吉をこきちと読んでせつなかり蝿取りリボンの灯ともし頃よ 悲しくったって苦しくったって、灯ともし頃ともなれば人間は腹が減る。そ れはせつないこと。せつないがしかし、それはしょせん最大公約数的感慨であ り短歌にすることではない。小吉をこきちと読んでせつない、というのは、最 大公約数的感慨ではなく、短歌にするに充分なせつなさである。集中、一見、 腹が減ってせつない的な大ぐくりな歌が多いように見える。しかし、そう単純 な歌集ではない。<蝿取りリボンの>の<の>も微妙な味。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ┌────────────────────────────────── │ メールマガジン「@ラエティティア」第12号 ├────────────────────────────────── │ 編集後記 │ │▽残暑お見舞い申し上げます。暑かった夏もあっという間に終わりの気配で │す。本誌ではこの夏、オンデマンド歌集第1弾を出した女性たちの競演とな │りましたが、いかがでしたでしょうか。すでに第2弾の準備も進められてい │るとか。今後も注目していきたいと思います。(久) │▽急に涼しくなりました。まだまだ夏は長いはずなのに……。もっと夕立に │出会いたいです。前回に引き続きオンデマンドによる歌集を特集しました。 │前回とあわせて、新しい世界での切実な言葉の世界をお楽しみいただければ │幸いです。(直) ├────────────────────────────────── │▼感想募集! │面白かった作品、ご意見、ご希望、その他、「@ラエティティア」について、 │あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。 │ │▼読者をご紹介下さい! │「@ラエティティア」の読者をご紹介ください。お名前とメールアドレスを │お知らせくだされば、バックナンバーを配信して、ご本人に許諾を確認した 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