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E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<11>, 2001.7.31

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┃ 「@ラエティティア」第11号・目次
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┃ ●作品
┃   大野道夫(歌人)    ◇「風の時間」
┃   春畑茜(歌人)     ◇「夢みる金魚」
┃   三原由起子(歌人)   ◇「梅雨の明けかた」

┃ ●オンデマンド出版記念特集1
┃  飯田有子著『林檎貫通式』×玲はる名著『たった今覚えたものを』
┃   加藤治郎(歌人)    ◇エッセイ
┃   ◆『林檎貫通式』(歌葉)
┃   飯田有子(歌人)    ◇自選5首
┃   清水良典(文芸評論家) ◇書評「おかっぱとみつあみのあいだ」
┃   高見里香(歌人)    ◇1首評
┃   土橋磨由未(歌人)   ◇1首評
┃   ◆『たった今覚えたものを』(歌葉)
┃   玲はる名(歌人)    ◇自選5首
┃   村井康司(俳人)    ◇書評「「おぞましいもの」たちに赦され
┃                   て・・・玲はる名『たった今覚え
┃                   たものを』をめぐって」
┃   杉山理紀(歌人)    ◇1首評
┃   水須ゆき子(歌人)   ◇1首評

┃ ●編集後記
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┌───────────────┐ 短歌5首
│ 大野道夫(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

   風の時間

 立食や陣あれば積めず崩されることばことばが散る光りつつ

 同窓会海風吹けばそれぞれの青にじみだす口もとに声に

 引っ越しは一生(ひとよ)の区切り水に漬け燃えないごみで出す燧火箱

 組み替えて組み替えられて素裸の子がコンビニの棚にひしめく

 間接音高鳴る炎天さいくりんぐ少女百人倒れそめれば

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌5首
│ 春畑茜(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘ http://homepage2.nifty.com/castanea/

   夢みる金魚

 おさなごの手に握られしクレヨンが金魚を青く青く塗りゆく

 「きんにょ」とも「おとと」とも呼び自らが青く塗りしを幾度も指す

 クレヨンの青染み付きし手のひらよ閉じては開く所作いとけなし

 青ふかき金魚の吐くはももいろのあぶくぶくぶく画用紙に殖ゆ

 画用紙に青き金魚を閉じ込めておさなは眠る夏の日の暮れ

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┌───────────────┐ 短歌5首
│ 三原由起子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

   梅雨の明けかた

 傘のぶん離れて歩く並木道(ひたすら)雨が止みますように

 洞窟の出口を探し当てたくて脱ぎ捨ててやる水玉ソックス

 つゆぞらのわたし道路の真ん中をTIFFANYの袋振り回し行く

 銀色の新型車両が通過して梅雨が明けゆく京王沿線

 わたしだけのサラブレッドに出逢うまで華原朋美になりきれぬ夏

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∬オンデマンド出版記念特集1∬

 ◆飯田有子著『林檎貫通式』×玲はる名著『たった今覚えたものを』◆

特集する2冊は、コンテンツワークスとエスツー・プロジェクトの共同企画に
より、史上初のオンデマンド歌集として、2001年1月にリリースされたも
のです。入手方法、出版システムの紹介等は、以下のURLでご覧下さい。
http://www.bookpark.ne.jp/utanoha/


┌───────────────┐ エッセイ
│ 加藤治郎(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.people.or.jp/~jiro/

 去年の手帳を開いてみると、出版の打ち合わせで飯田有子さんに会ったのは、
2000年の9月30日だった。渋谷のカフェ・ラ・ミル。ぼくは、オンデマンド出
版の資料の詰まったいわゆるアプローチブックとサンプルとして村上龍の『希
望の国のエクソダス』を用意した。喫茶店でとうとうと説明する様子は、教材
のセールスのようで変な感じだった。飯田さんは、すでにくっきりと自分の歌
集のイメージをもっていた。玲はる名さんに会ったのは10月18日。ちょうど
「うたう」のセッションの後で、彼女は上昇気流に乗っていた。その勢いで書
き下ろし作品を創った。伝説の千本ノックである。実際のところは、ぼくはた
だ壁であって、彼女はありったけの力でボールをぶつけてきたのであった。果
実のようにまぶしい日々だった。

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┌───────────────┐ 『林檎貫通式』自選5首
│ 飯田有子(歌人)      |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
└───────────────┘ http://www.hi-ho.ne.jp/arico/tanka/

 女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて

 雪まみれの頭をふってきみはもう絶対泣かない機械となりぬ

 たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔

 婦人用トイレの表示がきらいきらいあたしはケンカ強い強い

 なぜ涙が砂糖味に設定されなかったかそんなの知ってる蟻がたかるからよ

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┌───────────────┐ 『林檎貫通式』書評
│ 清水良典(文芸評論家)   ├──────────────────
└───────────────┘

   おかっぱとみつあみのあいだ

 これだけ魅力的なタイトルが滅多にあるものではない。短歌にとどまらず、
小説でも音楽CDでも映画でも、このタイトルなら人の心をくすぐり、思わず
手を出させてしまうだろう。

 もちろん椎名林檎を連想するのは自由だが、この「林檎」はそんなに浅い言
葉ではない。私がこのタイトルと、セーラー服の女の子が三つ編みをリボンで
括っている表紙のイラストから受け取ったのは、シニカルな思春期のイメージ
と、それを突破するちょっとアブなくエロティックな通過儀礼のイメージであ
る。
 エドガー・アラン・ポーは人類に三種類あると書いた。男と女と、女の子だ、
と。その「女の子」性に、この歌集は染まっている。

  女子だけが集められた日パラシュート部隊のように膝を抱えて
  にせものかもしれないわたし放尿はするどく長く陶器叩けり
  負けたとは思ってないわシャツはだけかさぶたみたいな乳首曝しても
  天才嘘つきのおまえのみつあみは王冠よりもゆたかに編まれ

 身体の性的記号に否応なく包まれながら、擦りつけられたジェンダーへの反
逆と、同時に甘い発見が同居している。「女の子」を装う「嘘」と、それを装
わせる社会のシステムに彼女は挟まれている。それゆえに彼女は「わたし」で
あると同時に「おまえ」である。そういう両義的な領域に立ち留まり続けて、
「精神的おかっぱ」でありつづける「女の子」性とは、きわめて戦略的である。

  カナリアの風切り羽ひとつおきに抜くミセスO・J・シンプソン忌よ

 この一首に窺える成熟した強面を、あえて潜めたチャーミングなお転婆短歌
だ。

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┌───────────────┐ 『林檎貫通式』1首評
│ 高見里香(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

 なりたくないなりたくないと背泳に見上げるかみなり雲の蜂起を

 蜂起とは蜂が巣から一斉に飛び立つように大勢の人が一斉に立ち上がって実
力行使の挙にでることである。むくむくと変わり続ける雲に一波乱起きそうな
そんな胸騒ぎを感じている。背泳ぎというところにここから逃げたいと願う気
持ちが表れている。何になりたくないかはここでは具体的に示してないが、世
を知り尽くした大人にはなりたくない、というところだろうか。少年時代、少
女時代を思い起こさせる一首である。

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┌───────────────┐ 『林檎貫通式』1首評
│ 土橋磨由未(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

 なにもかも何かにとって代わられるこの星で起こることはそれだけ

 微妙なことを的確に捉えた視線の歌だと思った。上の句のなにもかもはひら
がなで、何かは漢字である。なにもかもとひらがなで書けば全部ひっくるめた
ようにみえてしまうし、そのあとに何かと限定してしまえば、あきらめてゆく
しかないことがこの世界には多くて悲しくなってしまう。自分一人の力ではど
うにもならない事や誰かを救いたくて救えない時、私は傍観しているしか手だ
てのない時にこの歌を思い出すだろう。

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┌───────────────┐ 『たった今覚えたものを』自選5首
│ 玲はる名(歌人)      |⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
└───────────────┘ http://homepage2.nifty.com/tanka/

 朝になれば縦書きになるわたしたち「愛愛」より添っていたいの

 戦後、最大級の飢餓――来いと線路が胸を叩いた。

 便器から赤ペン拾う。たった今覚えたものを手に記すため

 鍵係体育係給食(めし)係「テンパな俺は大仏係」

 力ある葉は夜の闇に濃さを増しわが過ぎる間を漲りゆけり

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 『たった今覚えたものを』書評
│ 村井康司(俳人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www2.diary.ne.jp/user/59129/

   「おぞましいもの」たちに赦されて
    ・・・玲はる名『たった今覚えたものを』をめぐって

 『たった今覚えたものを』は、書き下ろし150首からなる1部と、雑誌に
既発表の旧作120首からなる2部によって構成された歌集だ。「連作性」が
強くなって疾走感が強まるかわりに1首ごとの独立性が弱まる、という書き下
ろし作品の通弊から完全には逃れ得てはいない1部に比べて、読者のそれぞれ
が1首ずつを独立したものとして読んでは自分にとっての秀歌や愛誦歌を探す、
という「普通の歌集」的な読み方ができる、という点で、2部の方が安心して
読める、という読者も少なくないだろう。
 しかし、玲はる名という歌人にとっての可能性の中心は、1部の「150首
書き下ろし」にこそ存在するのだということを、僕は声を大にして宣言してお
きたい、ここで玲はる名が「たった今覚えたもの」とは、おそらく自分が否応
なしに抱え込んでいる「おぞましいもの」たちとの付き合い方、おぞましいも
のたちとの赦し、赦される関係の発見だったのではないか。具体的には「血」
「尿」「汗」「泥」「涙」「汁」「生卵」「バリウム」「醤油」「コーンスー
プ」「カレーのルー」などといった粘度の高い液体として作品中に登場する
「おぞましいもの」たちは、玲はる名にとってのオブセッションに違いないだ
ろう。表現者としていつかは直面せざるを得ないオブセッションとの全面的対
峙を、短期間による書き下ろしという手段をとることによってしゃにむに疾走
しつつ実現することによって、彼女は2部の作品群から一段階も二段階も突き
抜けた徹底的な口語文体、という副産物をも生み出したようだ。そしてその文
体的な開き直りこそが、彼女と「おぞましいもの」との自在な関係を可能にす
る唯一無二のツールなのだ。

  合掌をした母は背を向けたまま 「たべたらあらう。だしたらぬぐう。」
  生卵、主食なんです。目・口・足 育ちかけのもたまに食べます。
  「しる……汁」と喘いでチキンの皮を吸う とても虫唾に良い効果です
  給食に失禁パンツ脱いだ後 笑ってコーンスープ捨てるな!

 相対的に優秀な「期待の若手」ではなく、読者を不快にさせたり不安定な気
分にさせたりいらだたせたりもする「過激で過剰なやつ」としてデビューを飾
ったことを、玲はる名と彼女の「おぞましいもの」たちのために祝おう。

  ※文中の「1部」「2部」の数字はそれぞれローマ数字

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┌───────────────┐ 『たった今覚えたものを』1首評
│ 杉山理紀(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://page.freett.com/sugi8ma/

 木の葉ほどちいさいからだを進ませて迷うあなたに出会わなくては

 強い風を受けて立つ意地っぱりの向う側に、いつも可愛らしさが見隠れして
いる。小さな年端もいかない女の子が精一杯に小さな弟を庇うため戦うような
面持ちで「迷うあなた」を探すのだろう。そして探し当ててしまうのだろう。
強くて脆くて危なげなガラスの林檎のようにきらきらきらめきながら、これか
らも弱音の出口を見せまいと全身で堪える姿を見せて向い風に目を開けたまま
レイハルは進んで行くのだろう。

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┌───────────────┐ 『たった今覚えたものを』1首評
│ 水須ゆき子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://homepage2.nifty.com/mizusu/

 パンダとか飼っているから? わたしとは一緒に暮らしてくれないのかな

 彼がパンダとかも連れてくれば良いのにと思った。でも、もしかすると彼女
はペットお断りのアパートかマンションに住んでいるのかも知れない。もちろ
ん、そういう歌ではないことは分かっているのだが。
 彼女は彼が一緒に暮らしてくれない理由を、パンダとかのせいにしておきた
いのか。本当にそう思い込んでいるのか。思い込んだフリをしているのか。さ
て、正解はどれでしょう。私は2番に千点賭けます。

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│ メールマガジン「@ラエティティア」第11号
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│   編集後記

│▽暑中お見舞い申し上げます。今年は気温が40度を超える地域が出るなど
│記録的な猛暑となっています。そんな中で、今回の特集も負けず落とらずの
│熱量の高い2冊の歌集を取り上げました。夏バテなどしてられません。(久)
│▽毎日ほんとうに暑いですね。暑さをものともしない体力が欲しいものです。
│さて、今回は先日出版されましたオンデマンドによる歌集2冊について特集
│しました。みずみずしい書き下ろし作品とともに始まった新しい歌集のかた
│ち、今後の発展がとてもたのしみです。(直)
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│▼感想募集!
│面白かった作品、ご意見、ご希望、その他、「@ラエティティア」について、
│あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。

│▼読者をご紹介下さい!
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│のち、配信リストに追加させていただきます。

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│ 発行人  荻原裕幸 加藤治郎 穂村弘
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│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
│ 発行所  ss@imagenet.co.jp
│ 配信所  laetitia@ml.asahi-net.or.jp
│ 発行日  2001年7月31日
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|※掲載したURLは2001年7月31日現在のものです。
| 変更される可能性があります。
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