━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<7>, 2000.12.31

□□□ □□□ ★彡  ■■■ ■■■ ■■■ ■ ■■■ ■ ■■■
□ □  □  ■   ■ ■ ■    ■  ■  ■  ■ ■ ■
□□□  □  ■   ■■■ ■■■  ■  ■  ■  ■ ■■■
□ □  □  ■   ■ ■ ■    ■  ■  ■  ■ ■ ■
□ □  □  ■■■ ■ ■ ■■■  ■  ■  ■  ■ ■ ★彡

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


  _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
  _/
  _/ ■■■■■■■■■■■ 祝受賞! ■■■■■■■■■■■
  _/
  _/ メンバーの小林信也さんが、第12回歌壇賞を受賞されました。
  _/
  _/ 受賞作「千里丘陵」30首および選考座談会が、
  _/ 「歌壇」2001年2月号誌上に掲載される予定です。
  _/
  _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 「@ラエティティア」第7号・目次
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ ●キーワードと短詩型[5]少年
┃  ○作品
┃   斎藤千恵子(詩人、歌人) ◇詩「異化プディング」
┃   今川由紀子(俳人)    ◇俳句「陽画」
┃   秋山弘(歌人)      ◇短歌「みどりの夜」
┃   吾妻利秋(歌人)     ◇短歌「折々の中学生」
┃   生沼義朗(歌人)     ◇短歌「逃げ水」
┃   日下淳(歌人)      ◇短歌「エクリプス」
┃   朋千絵(歌人)      ◇短歌「風の音」
┃  ○エッセー 少年の歌・この一首
┃   石井史緒(歌人)
┃   江村彩(歌人)
┃   小林信也(歌人)
┃  ○エッセー 少年の句・この一句
┃   岡田幸生(俳人)
┃ ●第6号感想
┃   柳沢美晴(歌人、小説家)
┃ ●編集後記
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ■■■ キーワードと短詩型[5]少年 ■■■

 昨今、少年の凶悪な犯罪が取りざたされる中、少年というものをどのように
思うことができるのでしょうか。詩、俳句、短歌作品と、短歌と俳句のエッセ
ーを寄せていただきました。少年の輝きや陰のようなものがそれぞれに感じら
れるのではないでしょうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 詩
│ 斎藤千恵子(詩人、歌人)  ├──────────────────
└───────────────┘ http://www1.akira.ne.jp/~uzura/

   異化プディング

いらんかえぇ いらんかえぇと売り声が耳と平行に
干上がった海から年寄りひとり
塩粒をパラパラこぼしミギへヒダリへ

こんちわおひとついかがで オカイドクネ
老人の指が下腹をまさぐりするりと
取り上げられる。金230円也
仕方ないねと 窓にたてかける

「立っているとハラが減る!
昼食の上に響く怒り 生き物らしい
キノコのシチューを分けると ひとくちでペロリ
にゅっと皿をつきだし あさっての分まで食べたので
いい加減にしてくれと頼むと最初の夫のまなざしで
「きみを幸せにしてみせる
と。
三日がすぎ 五日がすぎ 一週間もが過ぎ
しだいに記念の品や思い出の品が消えてゆく
問いつめれば ちょっと痛い表情を見せ
「きみが求めている家を作るよ
と。二番目の夫の声色で

−−いつしか失踪

そうして見慣れぬ樹が家から空へ
伸び上がりまみどりの葉がきつい
日射しを遮断して心地よい昼寝の
位置になったのだけれど。

  すき?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 俳句
│ 今川由紀子(俳人)     ├──────────────────
└───────────────┘

    陽画

 金のボタンもフェルトの帽子もセピア色

 海を背におどけたポーズの上半身だけ

 ヘッドロックかけられた一枚と同じ笑顔で笑っている

 グラバー邸前の集合写真のきみを見つけた

 そんな写真あったんだと見なれた手の伸びてくる

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 短歌
│ 秋山弘(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.asahi-net.or.jp/~fp7h-akym/

    みどりの夜

 少年はなにを描くべき夏空のかなしみはらふ画板はしろし

 持ちおもる鞄おろせば岐れ路のほとけの前のひとりかなかな

 ちちははをいだくがごとく林間のみどりの夜を目覚めてゐたり

 知恵の木の影淡くして昏るるころあをきあかりの街に帰り来

 じやうとうな牛のいろなる飴色の鐘もしぐるる冬の放課後

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 短歌
│ 吾妻利秋(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www2.gol.com/users/plotter/

    折々の中学生

 自転車にのってぼくらは恋してた桜の花びら踏みつけながら

 「やっちゃんと逢えたらいいな」と思いつつ一人で見上げた打ち上げ花火

 秋の夜「田口くんのことが好き」って言ってたやっちゃんの ばか!

 泣きながら帰った道に雪つもる 中学校まで足あとつけよう

 屋上に地雷を埋めてきみを待つ二月末日梅花ざかり

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 短歌
│ 生沼義朗(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    逃げ水

 血と汗にうるおいたりき平原に葉を戦がせる巴旦杏の樹

 通学路を歩める朝にそれぞれは肩甲骨を軋ませおらむ

 晩秋のみどりの部屋に天球儀を廻しているは女男(めお)にあらぬ手

 光の中に育まれゆく肉体は泡立ちやまぬ銀を飼いおり

 くれないのわずかに点る表情はそう、逃げ水のようにはしゃいで

  ※( )内はルビ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 短歌
│ 日下淳(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘

    エクリプス

 群なして雌雄分かたぬ水鳥の羽毛にあそぶ無数のひかり

 不機嫌な風吹き抜けて残しゆく少年という蝕の季節を

 仄暗き試写室の隅あらかじめ追いつめられた未来が映る

 老い人のような微笑で新しい記憶の煉瓦を積み上げるだけ

 涼しかる少年僧の手の中に香り立つべしジャスミンの蘂

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 短歌
│ 朋千絵(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘

    風の音

 いら草をかき分くるごと無造作にわが手をほどき、少年は夏

 小さき背に西日を溜めて君の曳く自転車はつか風の音して

 掌(て)の中でくしやくしやにせし言の葉を線路にそつと並べつ君は

 足元の土ひたぶるに蹴り上ぐる君の向かうに黄金の銀杏

 椰子の実のたくましさもつ少年が記憶の水の海原をゆく

  ※( )内はルビ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 少年の歌・この一首
│ 石井史緒(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

 かなしみに包まれしごとく新しき黒詰襟に少年笑ふ       島田修二

 体は大きくっても、青年期にはまだ間があり、表情にあどけなさの残る頃。
何の屈託もなく夢は叶うと思っている頃。(今時の少年は違うかな?)少年自
身は思ってもいないような困難が待ち受けているかもしれない将来、それを知
る作者だからこそ、少年の黒詰襟が「かなしみに包まれしごとく」と表現され
るのだろう。あの頃一緒にはしゃいでいた仲間も、今は様々な荷物をその肩に
しっかりと背負っているのだろうか?

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 少年の歌・この一首
│ 江村彩(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘

 掌のとどくはるかな距離に黒曜の髪の澄みつつ少年のあり

                         大塚寅彦『刺青天使』
                       (1985年、短歌研究社)

 この少年はすでに老いというものの本質を感じ取っている。
 少年の魂は自らの肉体を離脱してその姿を俯瞰している。今まさにその真っ
只中にあるというのに、黒曜石のような髪に象徴されるうるわしい若さが、一
生のうちのほんのわずかな時間しか持続しないことを悟っている。「掌のとど
くはるかな距離」という形容に、醒めた目と羨望のまなざし、虚無感と自己愛
とが交錯し、心にせつなく反響する。そして少年は、一瞬毎に確実に老いてゆ
く。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 少年の歌・この一首
│ 小林信也(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://homepage1.nifty.com/kobayss/

 あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまでおれの少年

                      永田和宏『メビウスの地平』

 「岬」という比喩が鮮明である。岬の風景を描くとき、それはいつも遠景で
あるように思う。はっきりと見えているのに辿りつけないもの、それが岬だ。
 作者はもちろん少年ではない。が、愛する人を抱きしめたいという切実な欲
求があるにもかかわらず、自分の中の少年の逡巡がそれを阻んでしまうのだ。
その成熟と未成熟との葛藤が「畜生!」という叫びとして噴出する。自分の裡
に潜む少年、その未成熟性はいつまでも詩の源泉でありつづけるのだろう。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 少年の句・この一句
│ 岡田幸生(俳人)      ├──────────────────
└───────────────┘

 はたけのうえはぜんぶとんぼ                 風見浩介

 かつて「さがみの句会」にいた風見洋子の、こどもの手になる自由律。当時
六歳。ひらめきは論理とは無関係におとずれる。理に遠いほうがひらめきとは
近しいかもしれない。畑の上をおびただしい数のとんぼが漂っている、ぜんぶ
とんぼだ――ここに無条件のひらめきがある。はたけのうえは/ぜんぶ/とん
ぼ、と三句で読みたい。ひらめきが三句の最短距離で点綴され、音楽がうまれ
た。とんぼという音が、いよいよとんぼになった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 第6号感想
│ 柳沢美晴(歌人、小説家)  ├──────────────────
└───────────────┘

 第6号の作品は、階段を生の象徴とする作品と描写を積み上げることで事象
を階段にしたてた作品との大きく2種に分けられる。前者の代表は「踏ん張っ
て一歩上がれば4人死ぬ 丸山進」である。また、後者の代表は「杏仁豆腐を
食べ終はるころ昔みた地層のことを語りはじめる 秋月祐一」である。そして、
何より階段とは、様々な形で階段を表現した各人の創作者としての信念の積み
重ねであるように見えた。作品を、己を問うてきた姿であると。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────────────────────────────
│ メールマガジン「@ラエティティア」第7号
├──────────────────────────────────
│∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝  編集後記  ∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝

│▽先月、少年法が改正され少年の刑事罰対象年齢が14歳以上に引き下げら
│れることになりました。作品やエッセーにはまっすぐに少年を見つめようと
│する姿勢が感じられました。
│ 今年は本誌創刊の年でした。来年もよろしくお願いいたします。(久)

│▽少年でいられる時は、ほんとうに短くて、そして、永いんだな、と少年を
│そばで見ていて思います。萩尾望都の「エッグ・スタンド」(漫画)の中で、
│殺し屋となった13歳の少年がつぶやいた「ぼくは多分なにか忘れて生まれ
│てきたんだね」という言葉を反芻しています。とうとう21世紀、ですね。
│しあわせな新年でありますように。(直)
├──────────────────────────────────
│▼ご意見募集!
│面白かった作品、ご意見、ご希望、その他、「@ラエティティア」について、
│あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。

│▼読者をご紹介下さい!
│「@ラエティティア」の読者をご紹介ください。お名前とメールアドレスを
│お知らせくだされば、最新号のバックナンバーを配信して、ご本人に許諾を
│確認したのち、配信リストに追加させていただきます。

│▼転送でご覧の方へ
│購読希望の旨をメールでお知らせいただけば、メールの発信元へ、最新号か
│らオリジナルをお届けします。最新号以外のバックナンバーは、
│ http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/framepage1.htm
│に掲載しています。ご覧ください。

│▼すべてのメールはこちらへどうぞ
│ mailto:ss@imagenet.co.jp
├──────────────────────────────────
│ 発行頻度 不定期刊
│ 購読料  無料
│ 本文形式 テキスト形式
│ サイズ  40KB以下
├──────────────────────────────────
│ 発行人  荻原裕幸 加藤治郎 穂村弘
|      (SS-PROJECT http://www.imagenet.co.jp/~ss/ss.html )
│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
│ 発行所  ss@imagenet.co.jp
│ 配信所  laetitia@ml.asahi-net.or.jp
│ 発行日  2000年12月31日
├──────────────────────────────────
│(C)2000 LAETITIA & SS-PROJECT
│※著作権については一般の印刷物と同様の扱いにてお願いします。
│※転送は自由にどうぞ。ただし編集および改竄は一切ご遠慮ください。
│※メーリングリストへの転送は管理者の承諾を得た上でお願いします。
│※ウェブへの全誌面転載はご遠慮ください。
|※掲載したURLは2000年12月31日現在のものです。
| 変更される可能性があります。
└──────────────────────────────────