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E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<6>, 2000.12.27

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┃ 「@ラエティティア」第6号・目次
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┃ ●キーワードと短詩型[4]階段
┃  ○作品
┃   持田亮(詩人)     ◇詩 「階段」
┃   丸山進(川柳作家)   ◇川柳「ピラミッド ミステリー」
┃   益田潤子(俳人)    ◇俳句「階段」
┃   秋月祐一(歌人)    ◇短歌「でたらめな星座」
┃   川野里子(歌人)    ◇短歌「階段の少年たち」
┃   小林久美子(歌人)   ◇短歌「名刺を受けとって」
┃   武下奈々子(歌人)   ◇短歌「階段」
┃  ○エッセー 階段の歌・この一首
┃   五十嵐きよみ(歌人)
┃   川本千栄(歌人)
┃   村上きわみ(歌人)
┃  ○エッセー 階段の俳句・この一句
┃   田村元(歌人、俳人)
┃ ●第5号感想
┃   水須ゆき子(歌人)
┃ ●編集後記
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 ■■■ キーワードと短詩型[4]階段 ■■■

 「キーワードと短詩型」の4回目は、ふだん何気なく上り下りしている「階
段」をキーワードに選びました。いろいろな形の階段がありますが、個人の大
切な想いと、ときには親しいのではないかな、と。

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┌───────────────┐ 詩
│ 持田亮(詩人)       ├──────────────────
└───────────────┘ http://cgi.din.or.jp/~ijs/p/index.cgi

    階段

押し出されるように見た空
息苦しい包み込む雨の匂い
回転するこの小さな世界には
   過去も未来もなかった

蛍光灯が歌う
閉じ込めた心が涙を流す
リノリウムの廊下にスリッパが鳴り
右の人の吸う息と左の人の吐く息
際限なく繰り返されることで
    終わるということが分からなくなる

細い首に掛かるくすんだ鎖の冷たさが嘘を暴き立て
白い手首に絡み付く錆の肌触りが幻を押し潰す

瞼に被さる暗闇は何かを狂ったように駆り立てて
歩み続ける足はもうどこかへと消えてしまった

引き延ばされた時間は閉じることの出来ない瞳の中で
どこまでも爆発的に膨れていく真っ暗な痼り

いくら爪を立てようとも曇りもしない壁に
微かに香る憎しみだけが感じられる体温だった

足の下の小さな段差
抜けてしまいそうなスリッパ
短すぎるズボン
糊の利きすぎた服もまた
声にならない嗚咽を繰り返していた

白く発光したトンネルを引きずり回され
幾つものドアを何度も潜り抜ける

同情にすがり
悲しみにしがみつく


何もかも忘れた頃
階段の途中の穴に
   途中まで落ちる

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┌───────────────┐ 川柳
│ 丸山進(川柳作家)     ├──────────────────
└───────────────┘

    ピラミッド ミステリー

 階段の上から垂れているロープ

 てっぺんに生け贄置いて笛太鼓

 階段の真ん中辺に拉致疑惑

 ジパングが丙午から崩れ出す

 踏ん張って一歩上がれば4人死ぬ

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┌───────────────┐ 俳句
│ 益田潤子(俳人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.asahi-net.or.jp/~rd3j-msd/

    階段

 母を待つ三階の尻だけぬくもっている

 二段とびに追い越されて始業ベルが鳴る

 飛行機雲途切れている踊り場のひとやすみ

 石段のあなたが踏んだところを踏んであがる

 大吉の階段踏みはずしてしまった

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┌───────────────┐ 短歌
│ 秋月祐一(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    でたらめな星座

 逆立ちを最後にしたの何時だつけ 地上をはしる地下鉄にのる

 のぼれども階段おりられぬ犬のやうに待つてた高架の駅で

 杏仁豆腐を食べ終はるころ昔みた地層のことを語りはじめる

 下りのエスカレーターに乗る時くつと立ち止まるくせ今も変はらず

 こつそりとのぼる屋上でたらめな星座の名前つぎつぎに言ふ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 川野里子(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    階段の少年たち

 階段の下の物置たいくつな刃物となりて少年籠もる

 英語教師のスリッパの音、国語教師の立ち止まる音、花虻の羽音のやうな恋
 のさびしさ

 スロープに沿ふ階段に腰おろし少年が見せたがる兵士の眼

 踊り場に至福仰ぎしムイシュキン冬の陽は射し君のみ老いず

 迅速にひとり子は育ちひとりなり階段を傘で叩いて昇る

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┌───────────────┐ 短歌
│ 小林久美子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/

    名刺を受けとって

 いつからか名刺を持たなくなっていた あなたからのを受けとるだけで

 最上の階に見おろす丘陵は湾をはなれてうすく澄みおり

 あたたかい指を想えりそのひとの撮りし胡椒のあかい実よりも

 階段を下りるときそっと手すり持つひとにしたがう渓雨のように

 連絡をとるにはあまりにたやすくて 段をふかめて静まる湖(うみ)よ

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 武下奈々子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://www5a.biglobe.ne.jp/~nana7/

    階段

 古き古き記憶のなかの黒光りあれは確かに階段だつた

 西日差す蔵の二階の泣き声が母でありしも禁忌のひとつ

 居ずまひのいつも正しき祖母の座す部屋は階段下りてすぐ右

 階段は梯子ではない手をつくな、坐るなそこには神様がゐる

 真夜中の階段下に待ちゐしはのつぺら坊のくれくれ乞食

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┌───────────────┐ 階段の歌・この一首
│ 五十嵐きよみ(歌人)    ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.parkcity.ne.jp/~noma-iga/

 階段をかたむき曲がり柩くだり長すぎるものは運び出されぬ
                                小池光

 数年前、分譲マンションに住み始めた頃、友人に教えられてはじめて知った
ことがある。マンションのエレベーターは、ストレッチャーや柩を運ぶために、
正面の壁が奥に向かって開く仕組みなっているという。いわれてみると、自分
のマンションもそれらしい構造になっていた。小池光作品は一九八一年のもの
であり、二十年の間に不都合さが解決されたのだろう。しかし、都市における
死を描いたこの一首の衝撃性が損なわれるものではない。

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┌───────────────┐ 階段の歌・この一首
│ 川本千栄(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

 雨の階のぼりゆく君 咽喉(のみど)から海がきこえそうなほど無口な

                                江戸雪

作者は「君」と並んで階段をのぼっている。君は何も話さない。戸外には静
かな雨が降っている。雨の音が、君の中にある海と呼応する。君の中の海も無
音ではない。が、無口なのだ。並んで歩きながら、時には彼の背を追いながら、
その無口を聞く作者。言葉を交わさなくても二人の間には繋がりが感じられる。
しかし同時に軽い不安感もある。下句の区跨り・字余りの不安定さと、その不
安感がよく合っている。

  ※引用作品の( )内はルビ

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┌───────────────┐ 階段の歌・この一首
│ 村上きわみ(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘
             http://www.geocities.co.jp/Bookend-Kenji/9606/

 くわいだんの多き階段のぼりつついつしか主となるもまたよし

                               仙波龍英 

 最近になって読み返した歌集の中に、この一首を見つけてドキッとした。墓
地へと続くいわくのありそうな階段を、ゆっくりと半ば愉快そうに登っている
のは仙波龍英氏その人だろうか。明るすぎて気だるいような午後の空気を感じ
る。世界への強烈な違和感をとなえながら一人きりで歩いていた仙波氏の、孤
高の後ろ姿が見えてくるようだ。『墓地裏の花屋』(マガジンハウス)所収。

  ※引用作品中の「くわいだん」は、原典では傍点有

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┌───────────────┐ 階段の俳句・この一句
│ 田村元(歌人、俳人)    ├──────────────────
└───────────────┘

 階段が無くて海鼠(なまこ)の日暮かな             橋間石

 一見ほのぼのとした冬の夕暮れといった感じの一句ですが、「階段が無くて」
というフレーズには深い欠落感が込められているように思います。階段が無い
ために、上の階にも下の階にも逃げていくことはできなくて、今立っている地
平に踏みとどまるしかないわけです。古事記の上巻に、神の使いの命令に従わ
なかったために口を刀で切り裂かれた海鼠の話が出てきますが、この句の海鼠
もきっと無頼漢。時流に迎合しない力強さを感じますね。

  ※引用作品の( )内はルビ
  ※橋間石の「間」は、門がまえに月

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┌───────────────┐ 第5号感想
│ 水須ゆき子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.diary.ne.jp/user/51709/

 第5号のテーマは「民族」。この手強いテーマはどのように処理されて作品
となるのか。

 あかんべえしてするすると脱ぐ国家              石部 明
 すすき野やニツポニアニツポンふたたび殖ゆ          丁田杵子
 民族は黒ビール飲むケルト人ハーンの吐息ほどのなまぐささ   大松達知
 神様のゲームはつづく椅子ひとついつも足りない Middle East  合田千鶴
 外事二課 カルシウム不足のきみが越境をしたぼくの国土よ   正岡 豊

野暮にならない程度に、正面から取り組んだ作品が多いと思った。冷笑だけで
逃げていない。そこが意外だったし、また頼もしく私には感じられた。

  ※引用中の丁田杵子のテキストは、作品表題

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│ メールマガジン「@ラエティティア」第6号
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│∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂  編集後記  ∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂∂

│▽劇団万有引力による寺山修司の作品「レミング―世界の涯まで連れてって」
│の舞台を観た。梯子が高い天井から吊され宙に浮いていた。世界の涯は、自
│分の立つ位置から水平の彼方にあるような気がしていたが、はるか高みの天
│涯にあるのかも知れない。(久)

│▽街にクリスマス・ソングが流れだして、そろそろそわそわしてきました。
│はじめて地下鉄に乗るために地下に続く階段を降りたときは、ぞくぞくしま
│した。降りそこねて足首をねじったこともあります。階段は、くれぐれも慎
│重に、ね。(直)

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│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
│ 発行所  ss@imagenet.co.jp
│ 配信所  laetitia@ml.asahi-net.or.jp
│ 発行日  2000年12月27日
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