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E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<5>, 2000.11.17

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┃ 「@ラエティティア」第5号・目次
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┃ ●キーワードと短詩型[3]民族
┃  ○作品
┃   兵庫ユカ(詩人、歌人) ◇詩「海を撒いて」
┃   石部明(川柳作家)   ◇川柳「螺子の群れ」
┃   丁田杵子(俳人)    ◇俳句「すすき野やニツポニアニツポンふ
┃                   たたび殖ゆ」
┃   大松達知(歌人)    ◇短歌「スイル」
┃   合田千鶴(歌人)    ◇短歌「椅子取りゲーム」
┃   椎木英輔(歌人)    ◇短歌「無蓋車」
┃   正岡豊(歌人、俳人)  ◇短歌「京都駅ルゲンシウス」
┃  ○エッセー 民族の歌・この一首
┃   木村草弥(歌人)
┃   高木孝(歌人)
┃   横井紀世江(歌人)
┃ ●第4号感想
┃   杉山えつこ(歌人)
┃ ●編集後記
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 ■■■ キーワードと短詩型[3]民族 ■■■

 今世紀もいよいよ残すところ二ヶ月をきりました。「キーワードと短詩型」
の3回目は次世紀を目前に「民族」をテーマに考えてみたいと思います。それ
ぞれの思いが込められた作品とエッセーが集まりました。

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┌───────────────┐ 詩
│ 兵庫ユカ(詩人、歌人)   ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.d3.dion.ne.jp/~y_hyogo/

   海を撒いて

初詣の階段で振り返ると
様々な頭がぎっしりと視界を埋めている

連れの男はこの
人の数だけの願いごとがあるのだと思っている

参道を挟んで
緑・オレンジ・白 等の
発光する屋根
そのしたで何を焼いているのかは
さっぱりわからない

表面を錆びさせて空は
とおくへと細い根を伸ばしていきます

四角い石と石の間に
踵を詰める女と
女を支える娘がいて
行列はずれて進む

あの青いダウンジャケットの老人は
あの青いダウンジャケットの老人と
横並びだった
さっきまで

どちらかには
この秋に捌け切らなかった
赤い羽が使われています
って、どう

きょうはわたし
流行と供給と法のゆるすかぎりあかい
くちびるで在る
硬貨を太股であたためて在る

そして海を撒いた安堵で
饒舌なえびのようです

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┌───────────────┐ 川柳
│ 石部明(川柳作家)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://ww3.tiki.ne.jp/~akuru/

    螺子の群れ

 あかんべえしてするすると脱ぐ国家

 日の丸に包まれて泣く酢蓮根

 歯ブラシはコップに賑やかなアジア

 空は戦争もようファミリ−レストラン

 国境の辺をただよう螺子の群れ

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┌───────────────┐ 俳句
│ 丁田杵子(俳人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://homepage1.nifty.com/teida/e/

    すすき野やニツポニアニツポンふたたび殖ゆ

 劫初より新米うまし夫抱かむ

 登れさうな下腹あふぐ夜長かな

 「おとなりの奥さん酔ってた」(俺も俺)

 指二本熟柿に入れてひろげけり

 不能なる日やひつじ田にひつじ居り

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┌───────────────┐ 短歌
│ 大松達知(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    スイル

   日本。

 李秀一君を呼ぶときつねにイ・スイルと呼びをり彼の望みを容れて

 民族は黒ビール飲むケルト人ハーンの吐息ほどのなまぐささ

   中国。民族文化トランプ。

 ジョーカーとして独龍族、居住在雲南、人口約五千八百

   アメリカ。わが名「たつはる」。

 わが名無し みやげもの屋の名前付きキーホルダーのAからZ(ジー)に

 タチューは良しテチューも可とす呼び名などなんでもいいと思はざれども

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 合田千鶴(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    椅子取りゲーム

 塩入れの覆されて日はしづみ流れねばならず殺めねばならず

 神様のゲームはつづく椅子ひとついつも足りない Middle East

 混血のすすむあさあさおはやうはいろんないろの音響かせる

 ひえびえと金木犀のかをる夢わすれたはずの血に触れてくる

 はろばろと遊星ひとつめぐりゐるさうして誰もゐなくなつても

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┌───────────────┐ 短歌
│ 椎木英輔(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www3.justnet.ne.jp/~shiiki/

    無蓋車

 李香蘭(りかうらん)に抱き上げられしとふ友の頭髪薄く額(ひたひ)秀でぬ

 主客転倒の二民族をりわれら住む土砂降りの街長春郊外

 治安維持は八路軍(パーロ)がずつと優るると市街戦後にわれは思ひき

 異民族のつくりし港葫蘆島(ころとう)へ幾日もかけ走る無蓋車

 黄色(わうしよく)に塗らるる地図の上(へ)なほ走る亜細亜号とふ巨大機関車

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 正岡豊(歌人、俳人)    ├──────────────────
└───────────────┘ http://www3.justnet.ne.jp/~masa-0606/

    京都駅ルゲンシウス

 霧であることよりもなお肌寒く帰郷してゆく自衛隊員

 外事二課 カルシウム不足のきみが越境をしたぼくの国土よ

 「あなたの悲しい熱帯でこごえるよりはまだベルマーク集めがましよ」

 「今夜出る人民列車が最後なの、ねえどうしてわたしといかないの」

 <語りえぬものの語りはいかにして可能か> くろぐろと列車の影

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┌───────────────┐ 民族の歌・この一首
│ 木村草弥(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.yamashiroen.com/sohya/

 今もやまぬいずちの飢えと流血と吾ら地上のひとつ民として

                           近藤芳美『希求』

 この歌は<1993年新年詠>のもの。「いずち」=何処の意。もう一首。

 一民族一日本語(いちにほんご)の夏祭 肩車して行けば寂しや

                      岡井隆『マニエリスムの旅』

 岡井作品は「民族」を見事に歌の中に消化して、かつ日本という特殊なあり
方への批判がある。さて私事だが5月に旅して作った<イスラエル紀行70首>
をHP上に載せた。いま騒乱の渦中にあるが、この地の歴史を知れば予想され
たことで、そのことにも触れておいた。ぜひ一読をお願いしたい。

  ※引用作品の( )内はルビ

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┌───────────────┐ 民族の歌・この一首
│ 高木孝(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘

 寝不足のやうな目をして口ごもるちよつぴりシャイな陛下、大好き

                               大辻隆弘

 A・ウォーホールの「毛沢東」という作品を思い出す。シルクスクリーンで
印刷された毛沢東の顔写真を前にして、歴史の授業のおさらいをしなくてもい
いように作られている。ここにはそうした歴史的文脈が一切抜け落ちているの
だった。
 掲出歌にもこれと似た戦略がある。だが、必ずこの「大好き」は既存のイデ
オローグに掠め取られるだろう。発語時の純粋性が民族の純粋性という問題に
取って代わるのだ。

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┌───────────────┐ 民族の歌・この一首
│ 横井紀世江(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

 戦前の移民とゆびをにぎりあう あかいカフェの実しろいワタの実

                              小林久美子

 戦前に移民した日本の方々の多くがコーヒー農園などの農業に従事されたと
いう。数え切れないほどの苦労の果てに残った、節くれ立った手。何に触れて
何を見てきたのかは「あかいカフェの実しろいワタの実」が語っている。とも
すれば、凄まじい移民の半生を匂わせてしまうのを、平仮名で柔らかく表現し
ていて、あたたかな気持ちが湧き起こる。赤と白がぱあっと浮かび、しわしわ
のごつごつの手を感じることができるこの歌を、私は好きだ。

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┌───────────────┐ 第4号感想
│ 杉山えつこ(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.hello.co.jp/~e-tsu/

 頭の中をぱかっと開いて脳みそを見せられたみたいな松井さんの詩ではじま
った4号のテーマは「虫」。虫といえば、お風呂場に1ミリくらいのかたつむ
りが大発生して来る日も来る日も毎日100匹くらいのこかたつむりをシャワ
ーで流したつらい思い出ありなのですが、つくづくひとつひとつの命だったの
だと思い出されました。作品ごとに重なる命のようなものを感じながら特に印
象深かったのは、

 鳴いている数ほどに蝉の死                  菊池典子
 つぎの秋には遠退くひとと ゆれやすき触角としてわが髪はあり 横山未来子

といった二作品で逝く秋を惜しむように読ませていただきました。ありがとう
ございました。

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│ メールマガジン「@ラエティティア」第5号
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│∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝  編集後記  ∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝

│▽シャバンテスというブラジルのインディオは文字のない文化を持つ。ある
│青年に、記録を書いて残さないのかと訊くと「書くことより直に伝える方が
│有意義。滅びるなら、それでいい」との答えが返ってきた。シャバンテスの
│言葉を教わった。「あなた」は「アーハン」、「わたし」は「ワーハン」、
│「わたしたち」は「ワノリーハン」といった。似ている、と思った。(久)

│▽民族と民族の間で民族に関わる個人はとても繊細な存在だと思う。大切に
│しているものはひとりひとり違うから、大切なものを大切にできるようであ
│りたと思うのでした。ずっと。(直)
├──────────────────────────────────
│▼前号訂正
│第4号の目次が間違っていました。お詫びして訂正申し上げます。
│誤 ○エッセー 私の好きなスポーツの歌・この一首
│↓
│正 ○エッセー 私の好きな虫の歌・この一首
│また、文字化けによる誤植があったので、バックナンバーには訂正したもの
│を掲載します。

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│あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。

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│ 発行人  荻原裕幸 加藤治郎 穂村弘
|      (SS-PROJECT http://www.imagenet.co.jp/~ss/ss.html )
│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
│ 発行所  ss@imagenet.co.jp
│ 配信所  laetitia@ml.asahi-net.or.jp
│ 発行日  2000年11月17日
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