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E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<4>, 2000.10.31

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┃ 「@ラエティティア」第4号・目次
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┃ ●キーワードと短詩型[2]虫
┃  ○作品
┃   松井茂(詩人)     ◇詩「20世紀の記憶に潜む255匹のミミズ」
┃   倉富洋子(川柳作家)  ◇川柳「むしのおんな」
┃   菊池典子(俳人)    ◇俳句「結界」
┃   河野美砂子(歌人)   ◇短歌「十月」
┃   野原亜莉子(歌人)   ◇短歌「羽化前夜」
┃   横山未来子(歌人)   ◇短歌「約束」
┃  ○エッセー 私の好きな虫の歌・この一首
┃   伊津野重美(歌人)
┃   富田睦子(歌人)
┃   西王燦(歌人)
┃   村田馨(歌人)
┃ ●第3号感想
┃   三宅やよい(俳人)
┃ ●編集後記
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 ■■■ キーワードと短詩型[2]虫 ■■■

 「キーワードと短詩型」の2回目のテーマは季節にちなんで「虫」です。前
回同様、詩、川柳、俳句、短歌からなる競作、及びエッセー「私の好きな虫の
歌・この一首」を書いていただきました。さてさて、とりどりの「虫」がぞろ
ぞろと集ってきました。

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┌───────────────┐ 詩
│ 松井茂(詩人)       ├──────────────────
└───────────────┘
             http://www11.u-page.so-net.ne.jp/td5/shigeru/

   20世紀の記憶に潜む255匹のミミズ

子》な》も》キ》リ》わ》せ》し》た》た》カ》オ》ス》果》た》っ》て》
《供《さ《の《マ《‥《喰《ま《ま《。《っ《ブ《。《で《い《し《飼《21
の》小》で》カ》‥》も》し》き》ム》と》ト》功》し》使》亡》を》世》
《こ《は《し《や《八《匹《た《焼《シ《で《ム《成《た《を《く《虫《紀
ろ》れ》た》タ》ヶ》何》‥》い》籠》ー》シ》に》。》力》な》の》を》
《に《そ《。《ッ《岳《を《‥《ぱ《は《ャ《の《と《メ《精《り《尸《ま
生》。》箱》バ》で》ボ》あ》っ》い》チ》幼》こ》ス》は》ま》三》っ》
《き《ね《の《た《捕《ン《た《い《っ《ッ《虫《る《を《ン《し《。《て
物》す》中》っ》ま》ト》ま》で》つ》ャ》を》す》購》ク》た》ん》い》
《を《ま《に《ま《え《ラ《だ《ン《も《キ《「《に《入《検《。《せ《る
飼》り》入》し》た》カ》け》マ》屍》O》秘》虫》す》書》も》ま》の》
《っ《あ《れ《て《オ《オ《。《カ《‥《F《書《成《る《秘《う《し《だ
て》が》た》れ》ニ》シ》ア》ッ》‥》U》検》け》と》に》過》返》か》
《い《と《ま《す《ヤ《に《リ《ャ《数《に《」《付《そ《日《ち《り《ら
た》こ》ま》わ》ン》マ》も》チ》年》前》と》名》の》翌》は》繰》。》

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┌───────────────┐ 川柳
│ 倉富洋子(川柳作家)    ├──────────────────
└───────────────┘

    むしのおんな

 迷宮に誘う蝶の羽音にて

 自傷くりかえして繭を紡ぎゆく

 革命は未遂に終わりたたむ翅

 こころのきずなら蝶のタトゥーのそのあたり

 乱心の姫 鱗粉をふりまきぬ

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┌───────────────┐ 俳句
│ 菊池典子(俳人)      ├──────────────────
└───────────────┘

    結界

 敷石の泥のかたまり動いて蟾(ひき)か

 白い蝶かわらを横切っていく

 ひぐらしとヴーヴクリコに酔っていたのか

 鳴いている数ほどに蝉の死

 結界の石越えていく蟻だ

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 河野美砂子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

    十月                      

 一日づつ柘榴は熟れてまきもどす時間のなかに蟋蟀鳴けり

 切るまえの受話器ににじむ虫の闇 遺影のような微笑だろう

 みるみる蟻が湧き出だしたり艶めける数百のからだ覚めて残れリ

 蟷螂は生きているものしか食べないと鞍馬口地下鉄出口に聞きぬ

 沼のような大きな夜を剥いてゆく梨から指へつづくしたたり

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┌───────────────┐ 短歌
│ 野原亜莉子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

    羽化前夜

 届かざるおもひは在りていま蒼き蝶が目蓋に旋回をせり

 君とゆく金色の庭 蜜蜂の翅音はふいに遠ざかりたり

 胸ふかく一羽の蝶を棲まはせていつまでわれの一方通行(サンス・ユニック)

 燭影に叢がれる蛾の音も無き遊戯をわれは畏れてをりぬ

 雷鳴を窓辺によりて聴くわれに羽化前夜なる苦しみはあり

  ※( )内はルビ

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┌───────────────┐ 短歌
│ 横山未来子(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘
            http://www.geocities.co.jp/Bookend-Soseki/9828/

    約束                

 台風の重みのこれる雨のあさ黒揚羽布のやうによぎりつ

 つぎの秋には遠退くひとと ゆれやすき触角としてわが髪はあり

 建築現場に撒かれし水の低さにて交差せる細きひかりとひかり

 羽化ののちの両翅に水満ちわたりゆつくりと独りの日々を離れよ

 約束の熟るるを待てり秋の虫を囲ふ硝子は内よりくもりぬ

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┌───────────────┐ 私の好きな虫の歌・この一首
│ 伊津野重美(歌人)     ├──────────────────
└───────────────┘

 くるしみて忘れしゆゑに血の底のくらきかなかなくらき咽喉(のど)ふく

                               高橋正子

 苦しみのあまりに身に深く封じ込めた思いとは、如何なるものであろうか。
しかし、その忘れ去ったかに思われた昏き感情は、閉じ込めたが故にいっそう
激しいものとなり、躯内を巡る血の底から、幽闇の時を震わせる呪いのような
蜩の声で必死に抗う。そして、その「咽喉ふく」血みどろの思いは、封印され
た怒りと悲しみに、その存在を消し去ろうとした者の骨を喰らい蝕み続ける。
生きているかぎり、決して忘れることはできないのだと。

 ※引用作品の( )内はルビ

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┌───────────────┐ 私の好きな虫の歌・この一首
│ 富田睦子(歌人)      ├──────────────────
└───────────────┘

 天に愧ぢ愧ぢざるとはとまた問ひて邯鄲しきりに鳴く夜をゐる  
    
                               島田修三

 なぜ蝉にしても、秋の虫にしても、季節が変わった瞬間を正確かつ迅速にと
らえて、間違えることなく鳴き始めることができるのだろう。それは驚きだし、
また感傷も(特に秋には)感じずにいられない。
 作者が何を「愧ぢ」ているのかは分からないが、もんもんと悩む耳に虫達の
鳴き声がどのように響いたのかは想像できる気がする。

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┌───────────────┐ 私の好きな虫の歌・この一首
│ 西王燦(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘ http://www.mitene.or.jp/~nishio/

 十二月二十三日祝日の往還にして凍てたるいとど

                               塚本邦雄

 第十九歌集『魔王』。祝日は天皇誕生日。古歌に出てくる「いとど鳴く」は
コオロギらしいが、この歌の「いとど」は「竈馬」。この短歌の直前に「甲比
丹(カピタン)のカイゼル髭の看板がかたぶきて萱振町の寒風」という作品が
あるので、天皇誕生日の「いとど」がどのような顔をして凍っていたかは自明
であろう。類音変奏・アリタレ−ションの技法にも、学ぶところ多し。

 ※引用作品中の「いとど」は、原典では虫へんに車

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┌───────────────┐ 私の好きな虫の歌・この一首
│ 村田馨(歌人)       ├──────────────────
└───────────────┘

 神無月(かみなづき)の土の小床(をどこ)にほそほそと亡(ほろ)びのう
 たを虫鳴きにけり
                           斎藤茂吉『赤光』

 明治42年作、「細り身」の蟋蟀の連作からの一首。
 10月になり秋も深まってくると残り少ない命となった虫の鳴き声にいやが
上でも寂しさが感じられる。茂吉は昆虫や小動物を殺す歌を時々作っており、
『赤光』でも「山蚕」「油むし」「蛍」などを殺している。が、ここではそん
な殺意は微塵もなく、ストレートに蟋蟀の儚さがこめられている。神無月とも
なれば蟋蟀の寝床である土は朝晩冷えるであろう。まもなく、冬がやってくる。

 ※引用作品の( )内はルビ

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┌───────────────┐ 第3号感想
│ 三宅やよい(俳人)     ├──────────────────
└───────────────┘

 スクロールされてゆく画面の流れはフットワークのよさと同時に忘却とも隣
り合わせのようだ。「キーワード」を軸にした特集はこのネット特有の流れに
逆らって印象を定着させようとする試みに思える。スポーツを焦点に、詩の物
語性、川柳の内側にささる感覚、俳句の映像、短歌の柔らかな抒情と韻律とい
ったそれぞれの特性が際立った形で浮きあがる。同じ場を共有しながら各種競
技が展開されるスタジアムのようだ。オリンピック直後という時機を得て、各
々の作品の臨場感も充分だった。欲を言えば「この一首」に加えて「この一句」
のエッセイも読んでみたかった。

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│ メールマガジン「@ラエティティア」第4号
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│∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝  編集後記  ∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝∞∝

│▽着色した砂で万国旗を描き、その中を蟻が移動することで国旗の形が溶解
│していく柳幸典さんのインスタレーションを4年前に見た。移動と交通の展
│開があり、国や個人の自己同一性を問うていた。今回の言葉の中の虫たちも
│多くの問いかけをしているように思った。(久)

│▽なんだかひんやりとしてきました。そろそろセーターを出さなくては。今
│回のテーマは「虫」。空を飛び、地に潜り、水を潜り、壁を這う、虫。詩歌
│の世界との接点を探ってみたくて、テーマに選んでみました。(直)
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│あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。

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│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
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│ 発行日  2000年10月31日
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