━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
E-MAIL MAGAZINE, @LAETITIA<1>, 2000.6.29

□□□ □□□ ★彡  ■■■ ■■■ ■■■ ■ ■■■ ■ ■■■
□ □  □  ■   ■ ■ ■    ■  ■  ■  ■ ■ ■
□□□  □  ■   ■■■ ■■■  ■  ■  ■  ■ ■■■
□ □  □  ■   ■ ■ ■    ■  ■  ■  ■ ■ ■
□ □  □  ■■■ ■ ■ ■■■  ■  ■  ■  ■ ■ ★彡

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

             創刊のことば

 文芸グループ「ラエティティア」の機関誌として、メールマガジン「@ラエ
ティティア」を創刊します。「ラエティティア」は、メーリングリストを主な
媒体としたグループで、1998年2月に活動を開始しました。現在、百数十
名のメンバーが、日夜電子メールで対話し、互いに刺激を与えあっています。
機関誌の創刊で、内部的な刺激をさらに高めるとともに、外部の方々の声をわ
れわれの活動に活かしたい、そしてわれわれの活動の証と呼べるものを広く外
部に示したいと考え、機関誌の創刊に踏みきりました。
 インターネットは、加速度的に普及が進んでいるとはいえ、未知の部分や予
測不可能な部分の多い領域です。われわれの欲望は無限大に広がっていますが、
やれること、やって意義のあることを、ひとつひとつ確かめながら、真に新し
い文芸活動の場を模索していきたいと考えております。意見、要望、叱咤、そ
の他、読者諸氏との有意義なコミュニケーションがはかれれば幸いです。

                      2000年6月 荻原裕幸

┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ 「@ラエティティア」創刊号・目次
┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ ◆清水良典(文芸評論家)   ◇エッセー「たった」
┃ ◆なかはられいこ(川柳作家) ◇川柳「午後のお茶会」+エッセー
┃ ◆樋口由紀子(川柳作家)   ◇川柳「指の先」+エッセー
┃ ◆飯田有子(歌人)      ◇短歌「井の頭公園吟行二〇〇〇年五月」
┃                     +エッセー
┃ ◆江戸 雪(歌人)      ◇短歌「海辺」+エッセー
┃ ◆荻原裕幸(歌人)      ◇短歌「五月」+エッセー
┃ ◆小塩卓哉(歌人)      ◇短歌「箒と塵取り」+エッセー
┃ ◆勝野かおり(歌人)     ◇短歌「やまいだれ」+エッセー
┃ ◆加藤治郎(歌人)      ◇短歌「ボックス」+エッセー
┃ ◆黒瀬珂瀾(歌人)      ◇短歌「HYPER SYSTEM」
┃                     +エッセー
┃ ◆藤原龍一郎(歌人)     ◇短歌「幻歌」+エッセー
┃ ◆穂村 弘(歌人)      ◇短歌「爪」+エッセー
┃ ◆松平盟子(歌人)      ◇短歌「スリーズまたはサクランボ」
┃                     +エッセー
┃ ■編集後記 
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌─────────────┐ エッセー
│ 清水良典(文芸評論家) ├────────────────────
└─────────────┘                    
    たった 

  短歌はたった1行だからラクですねえ、と同僚でもある島田修三氏にいう
 と、彼はいつも怒って首を絞めてくる。小説の批評を仕事にしていると、そ
 ういいたいくらい分量がすさまじいのだ。13年も批評ばかりしてきたが、
 もともと僕は学生時代から小説を書いていた。最近また書きはじめたら、あ
 っという間に50枚、次にはおおっという間に150枚近くになった。
  しかし読み返すと、どうもダラけている気がして仕方がない。これも横着
 ながら「ラエティティア」の読者の端くれだからか。たった1行、たった1
 語、の覚悟が抜け落ちているのである。新聞の短い書評ではその緊張を感じ
 るときがまだあるから、肩と首をすくめて書いている。
  まだまだある、いくらでもある、というのは何事においても、じつは逆に
 ケチくさく貧しいのではないか。たった1語、たった1行の凛々しさで書く
 べきだ。といいながら、200字と頼まれたのに、やっぱりこうしてダラダ
 ラ書いている。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────────┐ 川柳とエッセー
│ なかはられいこ(川柳作家) ├──────────────────
└───────────────┘ http://www2u.biglobe.ne.jp/~myu2/

    午後のお茶会 

 駆け出すとさくらを喀いてしまいそう

 蛇口ひねると大切なお知らせです

 飛びなさいモデルハウスのスリッパよ

─ essay───────────────────────────────
親しいはずのひとたちとお茶を飲んでいます。親しいはずのひとたちは夫のこ
とや子どもたちのことを話しているようです。わたしはぼんやり窓の外を見て
います。そのへんの植込みからチェシャ・キャットが現れないかと。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌─────────────┐ 川柳とエッセー
│ 樋口由紀子(川柳作家) ├────────────────────
└─────────────┘
   指の先          

 じゃがいもが煮くずれていく指の先

 手繰り寄せるものがあるから爪を研ぐ

 アンケート用紙に川が流れている

─ essay───────────────────────────────
イラン映画の「運動靴と赤い金魚」を観て、久し振りに感動し、心がさわやか
になった。ストーリーはいたって簡単明瞭。よく川柳で「平明で深い句」がい
いといわれるが、たぶんこれだろう。如何せん、それが一番難しい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 飯田有子(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘ http://www.hi-ho.ne.jp/arico/wake/

   井の頭公園吟行二〇〇〇年五月   

   ・猿回しの猿が跳んだ。千葉君が「じいちゃんに似てる」とつぶやいた
 太陽の弟子なる猿よファイティング・ポーズをとりて死にたる祖父よ

   ・題詠「南」
 善き人の抱擁へ南へ急ぐごと枝々ぬけてゆきたる風か

   ・「清美さんのピアノねえもうだめだった」
 砕かれたピアノのことを言うときに君のうしろの若葉が騒ぐ

─ essay───────────────────────────────
シューマイ職人なんですって言うと
みな もじもじするの
わたしが
てっぺんにグリンピースをのせるところ
想像しちまうのね
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 江戸 雪(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘                  
   海辺

 チョコレート悪の味して昼さがりわれをかすめてゆく鳥のあり

 砂の山えぐりてゆけり海は今ゆらゆら昏く歓喜を欲す

 海の辺に野芥子のように眠りたるわれらの髪の湿りておりぬ

─ essay───────────────────────────────
小学校まで私は当り前のように優等生だった。それが、いつからだったか、悪
い子になっていっぱい反抗した。とても楽だった。だから今も私は悪い子だ。
1歳の子どもが午睡している間にビールなんか飲んだりもする。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 荻原裕幸(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘ http://www.ne.jp/asahi/digital/biscuit/

   五月

 神々が電気分解されてゐる日本の極である「君」と「きみ」

 政治家の夏めく声でかたられる国家がここであるわけがない

 いらだちのまへに和解の声はなち五月のひとところが緩みをり

─ essay───────────────────────────────
ニュースの間の一瞬、キャスターの表情が、意味を読みとれない微妙な歪みを
見せる。心底困惑する事件が多いのだろう。むろん困惑ではすまない。ぼくた
ちはつねに、世界に対する明確なポジションを要求されている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 小塩卓哉(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘                  
   箒と塵取り

 さっきまでは川の流れのようだった堰き止められて渦巻く我も

 包蔵するもの皆なべて出してみろ保健室今日も生徒で溢るる

 僕ら皆十七だからと薄笑う奴らに手渡す箒と塵取り

─ essay───────────────────────────────
このところどうしても職場のことを歌にしてしまう。少子化、核家族の影響は
ジャブのように効き最近の高校生の変化は著しい。まあ歌で自分を慰撫してい
るのだが、できた歌が我ながら空恐ろしいこともあったりする。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────┐ 短歌とエッセー
│ 勝野かおり(歌人) ├──────────────────────
└───────────┘                  
   やまいだれ

 声を止め呼ぶ名前などもひとつほどありたる頃の夕陽のあかさ

 どしゃ降りの雨をみあげて濡れておる傘は斜めにさすものなれば

 酔い果ての 否 痴れ果ての目交に屹立したるツインタワーよ

─ essay───────────────────────────────
最近、しみじみ「酒をやめるぞ」と思う。っつーか、やめっちまわねえとまず
いんじゃねぇか、こりゃってなとこで。いや別に健康面とかそーゆーんじゃな
くって。あははは、記憶をなくすよーになってきたんだな、まずいよなぁ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 加藤治郎(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘ http://www.people.or.jp/~jiro/

    ボックス

 友だちのままでいることくるしくて火傷しそうな橋が架かった

 ふたりきりとむとむと鳴るとむとむとこれは自分でつくった爆弾

 ぼくたちは世界に冷えたシェルターを見つけた終りに二曲歌って

─ essay───────────────────────────────
今年の3月に引っ越した。
新しい住所は、名古屋市南区の鳴尾。
「鳴尾」は、摂津国の歌枕であるが、私の住んでいる鳴尾と関係あるのかない
のか。調べてみたいと思っている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 黒瀬珂瀾(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘ http://www.d1.dion.ne.jp/~karan/

   HYPER SYSTEM

 天と地は不幸である、と幾万のmailが走る 吾の傷より

 宵闇に systematic 光り出す systematic 君が欲しくて

 潔癖症にパイプひしめく君のなか ヘルメス・トート・トリスメギストス

─ essay───────────────────────────────
サイバーネット空間にこそ、これからのシンクロニシティが存在する。自然か
ら与へられる美しい感動と同価値のものが、最先端テクノロジーとシステムの
中に見出されるはずだ。それは壮麗な廃墟であり、創造の神である。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌───────────┐ 短歌とエッセー
│ 藤原龍一郎(歌人) ├──────────────────────
└───────────┘ http://www66.tcup.com/6617/2nvbtkb.html

   幻歌    

 真夜中の渋谷にガメラ降り立ちてその眼に涙ためていたとか

 スペイン坂上りてシネマ・ライズまで耳に響める都市の潮騒

 PARCO PARCO極彩色に腐乱して強酸性の蜜を零せよ

─ essay───────────────────────────────
渋谷を歩くと仙波龍英を思い出す。パンテオンもシネマ・ライズも渋谷公会堂
もPARCOも、仙波龍英という極度に個性的な表現者の臭気を濃密にまとっ
ている。生身は消滅しても、幻臭としての仙波は不滅のようだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 穂村 弘(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘                  
   爪

 ラエティティア脱退希望者の生爪をたいへんかわいそうに剥ぎおり

 猿轡外したとたん叫びだす零時三分五十二秒現在の痛みを

 カメレオン発狂のごと七色に輝きながら云うさようなら

─ essay───────────────────────────────
こうして眺めていると、一口に爪といってもいろいろあるものだなあ、と感心
する。長い爪、丸い爪、煙草のヤニ臭い爪、持ち主が偲ばれるような美しい爪。
共通点といえば、どれも血にまみれて赤くなっていることくらいだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────┐ 短歌とエッセー
│ 松平盟子(歌人) ├───────────────────────
└──────────┘                  
   スリーズまたはサクランボ                   

 パリという棘に満身刺されたる小声の日々をcerises cerises

 切実にこの目がさがす初夏のマルシェの燦々サクランボの緋

 半袖のこころに擦過傷負えばひりりと日本をいやがっている

─ essay───────────────────────────────
追憶の甘美さに浸る人間を、私は基本的に好きでない。そんな私が一年間滞在
したパリの記憶に引きずられるのは、そこが甘美でなく痛かったからだ。小山
なすcerises(サクランボ)は痛さを際だたせる眩しさがあった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

┌──────────────────────────────────
│ メールマガジン「@ラエティティア」創刊号
├──────────────────────────────────
│   編集後記

│▽はなれていても通じあえるときがある。紙をはなれても文字と文字がひび
│きあう空間がある。どこからか、説明のつかない精神の深みからわきおこっ
│てくるかけがえのない発信に、こころをかたむけていきたい。(久)

│▽ことばが、音になり光になり届けられるということは、とても根源的なこ
│となのかもしれない。紙を使わない雑誌の誕生に関わることになった。「短
│歌」を軸に、これからどんな展開をしてゆくのか…。とにもかくにも未知へ
│の第一歩をお届けします。それぞれの画面でことばが輝いていますように。
│(直)
├──────────────────────────────────
│▼感想募集!
│面白かった作品、ご意見、ご希望、その他、「@ラエティティア」について、
│あなたの声をお聞かせください。今後の誌面づくりに活かしたいと思います。

│▼読者をご紹介下さい!
│「@ラエティティア」の読者をご紹介ください。お名前とメールアドレスを
│お知らせくだされば、バックナンバーを配信して、ご本人に許諾を確認した
│のち、配信リストに追加させていただきます。

│▼転送でご覧の方へ
│購読希望の旨をメールでお知らせいただけば、メールの発信元へ、最新号か
│らオリジナルをお届けします。

│▼すべてのメールはこちらへどうぞ
│ mailto:ss@imagenet.co.jp
├──────────────────────────────────
│ 発行頻度 不定期刊
│ 購読料  無料
│ 本文形式 テキスト形式
│ サイズ  40KB以下
├──────────────────────────────────
│ 発行人  荻原裕幸 加藤治郎 穂村弘
|      (SS-PROJECT http://www.imagenet.co.jp/~ss/ss.html )
│ 編集人  小林久美子 東直子 
|      (直久 http://www.ne.jp/asahi/tanka/naoq/ )
│ 発行所  ss@imagenet.co.jp
│ 配信所  laetitia@ml.asahi-net.or.jp
│ 発行日  2000年6月29日
├──────────────────────────────────
│(C)2000 LAETITIA & SS-PROJECT
│※著作権については一般の印刷物と同様の扱いにてお願いします。
│※転送は自由にどうぞ。ただし編集および改竄は一切ご遠慮ください。
│※メーリングリストへの転送は管理者の承諾を得た上でお願いします。
│※ウェブへの全誌面転載はご遠慮ください。
|※掲載したURLは2000年6月29日現在のものです。
| 変更される可能性があります。
└──────────────────────────────────