ポンペイの壁画からモナリザやゲルニカまで見れる希にみる美術館
 「大塚国際美術館」見学記



神戸淡路鳴門自動車道の大鳴門橋から見た美術館。
鳴門海峡、紀伊水道、瀬戸内海の播磨灘に三方を囲まれた岬の、小高い山の上に建っています。
すぐ下に海が見えて眺めも良く、空気がおいしい素晴らしい環境でした。


関西に行ったついでにうず潮で有名な徳島県鳴門市にある「大塚国際美術館」に行ってきました。

全国的にはまだ知名度はあまり高くありませんが(2003年3月に開館5周年を迎えたばかり)、ここは世界の名画約1,000点を写真に撮り、原寸大で陶器の板(陶板)に焼き付けて展示してある「世界初の陶板名画美術館」です。
美術館のパンフレットでは「陶板名画は約2000年以上にわたってそのままの色と姿で残るので、これからの文化財の記録保存のあり方に大いに貢献するものです。大塚国際美術館は技術はもとより構想においても世界初のそして唯一の美術館といえます」となっていますが、私はルーブル、オルセー(パリ)、故宮(台北)、メトロポリタン(NY)、テートギャラリー(ロンドン)等、世界の数々の美術館に行きましたが、確かにこんな美術館は見た事がありません。
世界25ヶ国190美術館の名品を複製とは言え、実物大で見れるのですから美術館好きの方なら一見の価値があります。お薦めします。

ところで、なぜ徳島の鳴門市にあるのに名前が大塚なのか?
誰でも疑問に思いますが、実はここは大塚製薬が創立75周年を記念して建てた美術館です。ボンカレー、オロナミンC、ポカリスウェットで有名なあの大塚製薬です(館内の休憩スペースには大塚製薬のドリンクの自販機が並び、美術館のミュージアムショップでも大塚製薬の製品を一杯売ってました。ミュージアムショップでレトルトカレーを売っている美術館は世界でもここだけでしょう^^;  大塚製薬は27年の歳月を費やして製作会社まで設立して美術陶板の技術を完成させたそうです。

次にもう一つの疑問、なぜ鳴門にこの美術館はあるのか?これは私も今回行くまで知らなかったのですが、大塚製薬の創業者は鳴門市出身なのだそうです。現に鳴門市には大塚製薬の工場や大きな竜宮城のようなゲストハウスがありました。しかも、陶板は鳴門の白い砂が原料だそうです。



それでは、展示物の内容をご紹介しましょう。
展示スペースは地下3階〜地上2階まで5フロアーもあり、国内最大。入館料も3,000円と異例の高さ。エントランスは尾形光琳の紅白梅図屏風で有名な熱海のMOA美術館のような長いエスカレーターを登った上にあり、エントランス(地下3階)を入るといきなり最初にバチカンのシスティーナ礼拝堂が再現された大空間「
システィーナホール」があります(写真左)。
ここにはミケランジェロの壁画「最後の審判」と天井画「天地創造」が高さ15m位はあると思われる空間に再現され(写真右)、圧巻です。こんな美術館は見た事がありません。これだけの空間を作って展示しようと考えたコンセプトが立派です。僕はあんぐり口を開けて見てしまいました。
ちなみに、2004年5月9日にこのホールで女優の水野真紀さんと後藤田議員の披露宴が約200人を招いて開催されました。大塚国際
美術館は2人のために初めてこのホールで披露宴を開いたそうで、真紀さんが提案した米粉で作ったケーキ入刀や、真紀さんが出演した「白い巨塔」の主題歌「Amazing grace」を流すなど心温まる内容だったそうです。

システィーナホール」は環境も良かったのですが、フレスコ画も発色が素晴らしく、陶板の継ぎ目がありますが全く気になりませんでした。この美術館は「環境展示」(教会や遺跡の壁画を環境ごと再現した展示方法)、「系統展示」(古代から現代までの西洋美術史の変遷を美術史的に理解できるように展示した展示方法)、「テーマ展示」(生と死、家族などテーマ毎に違う作家の作品を集めた展示方法)の3つの展示方法があるのですが、環境展示は素晴らしい出来でした。

システィーナ礼拝堂の椅子に座って見ているとボランティアの学芸員の方が来て、そこにいる人たちに説明してくれ、しかも館内を40分位丁寧に案内してくれました。広い館内を40分ではとても案内しきれないので、案内は地下3階の環境展示と古代、中世の系統展示だけですが、最も特徴的な環境展示を案内してくれるので十分でした。ある程度入館者が集まると案内してくれるようで、案内が始まるまでシスティーナ礼拝堂の椅子に座って待っていればよいのです。


左からフランス/ノアン=ビィック村の「聖マルタン聖堂壁画」(12世紀)、ポンペイの壁画「秘儀の間」(BC70-50年)。イタリア/パドヴァ村の「スクロヴェ−ニ礼拝堂壁画」(13世紀)。パリのオランジュリー美術館の「モネの大睡蓮」を屋外に再現した屋外展示。デジカメが85万画素でしかも画像が小さいので現物の魅力には遠く及びませんが、良くできてました。


写真上は環境展示の数々ですが、どれもこれも感心しました。特にスクロヴェ−ニ礼拝堂壁画は素晴らしく、広くて音が反響する空間の内部に賛美歌が静かに流れていて、本物の礼拝堂の中にいるようでした。現在、実物は地震の影響で修復中で見学できないそうなので、ありがたみがあります。



さて、系統展示ですが、古代、中世、ルネッサンス、バロック、近代、現在に分かれていて約1,000点の作品が展示されています。



ギャラリーの内部は上の写真(左)の通りですが、陶板はあまり淡い色調の再現には向いていないようで、淡い色はくすんでしまっていました。特にコローの森を描いた風景画、ターナーの霧につつまれた風景画等、同系統の色を微妙に使いしかも輪郭がはっきりしていない絵はまさに写真。現実に引き戻される残念な出来でした。また、ゴッホのようなタッチが特徴の作品も写真ですから再現性は低かったです。しかし、フレスコ画や光がはっきりと描かれ、しかも輪郭がはっきりしている作品は十分見れました。
僕は原画ではないのですから比べてもしょうがないと途中で気づきました。これだけの数の名画を系統だってしかも実物大で見れることに大きな意味があるのです。ルーブルにある「皇帝ナポレオン1世と皇后ジョセフィーヌの戴冠」(高さ6.2m幅9.79mも)なんてルーブルに行かない限り見れませんよ。また、ピカソの「ゲルニカ」(写真上右)のような門外不出(原画はスペイン/マドリッドのレイナ・ソフィア美術館)の絵を実物大で見れるのもここだけです。




今回見た環境展示という方法はニューヨークのメトロポリタン美術館の中国ギャラリーや日本ギャラリーにもあってその時も感心しましたが、今回は壁画である点が最大の特徴で、何回も書きますが良くできていました。
複製でもここまで楽しめるなんて正直言って意外でした。大きな美術館なので駆け足で見ても3〜4時間はかかりますが、わざわざ遠出する価値はあります。
日本美術が無いのが残念でしたが、美術館好きの方なら是非一度行ってみて下さい、おもしろいですよ!(私は大塚製薬にはなんの義理もありませんよ、念のため ^_^)
交通機関の案内や詳しい内容は
「大塚国際美術館」のホームページを見て下さい。

美術館へのアクセス(1999年5月現在)

車: 神戸淡路鳴門自動車道の鳴門北インターから鳴門公園方面に5分強。神戸からだと渋滞していなければ1時間強だと思います。
バス: 神戸/三ノ宮から高速バスで約1時間半(高速のバス停/鳴門撫養=なるとむやからタクシーで10〜15分位)。
山陽本線の神戸駅の5つ先にある舞子駅にある高速舞子バスセンターからは約1時間位。
JR徳島駅からは美術館の入り口まで路線バスで1時間20〜30分位(途中に徳島空港口のバス停がありますが、空港からは1時間弱で着き実は一番早い)。
JR: 徳島駅からJR鳴門線で鳴門駅まで行って(45分)路線バスに乗り換える方法もありますが、1日14本(午前中は4本)しかないローカル線なのでたまたま時間帯が合えば使えます。

紀伊水道側の海岸から見た美術館の遠景(左端の小山の上にある四角い建物で、右端が鳴門海峡にかかる大鳴門橋です。いい所でした。海岸の磯では鳴門名物のわかめを地元の主婦がとってました。関西方面の方なら観光ついでに日帰りで十分行けるロケーションだと思います)


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