都市社会学U(都立大学社会学分野専門科目:後期)講義要目


第1講 都市の現代的展開

1.1 世界の都市研究
・シカゴ学派からロサンゼルス学派へ
・グローバル化と世界都市からプラネタリ・アーバニゼーションへ
・エッジ・シティとゲーテッド・コミュニティ
・フェミニズムとポスト・コロニアリズムによる批判

1.2 改めてルフェーブルの都市論へ
・ルフェーブルの『都市への権利』,『都市革命』から「空間の生産」へ
・「内破」と「外破」,全般的な都市化と都市社会の成立
・ルフェーブル空間論への注目──ハーヴェイ,ソジャ,ブレナー,シュミット
・惑星規模での都市化

1.3 プラネタリ・アーバニゼーションとポスト・コロニアリズム
・資本主義世界経済の空間的な展開とアーバニゼーション
・同心円状の領域都市から,ネットワーク状の飛び地都市へ
・郊外都市の拡大と自立化,すべての機能が包括された住宅地開発
・ユーロセントリズムから途上国都市へ──「ordinary city」,「ヨーロッパの地方化」
・ポスト・コロニアリズムによるプラネタリ・アーバニゼーション批判


1.4 日本都市の経験のグローバルな意義
・グローバルサウスとは異なる産業化と都市化の達成
・欧米先進国とは異なる政治経済制度の実現
・社会主義国とは異なる民主主義の形
・その意義と課題


第2講 日本都市の歴史的分析のために

2.1 日本における近代の都市化
・日本における近代と前近代
・大航海時代への参入と拒絶
・江戸中期における内部的発展
・明治維新から明治地方自治制=明治憲法体制の確立まで──村落の時代
・日本における第一次都市化と大正デモクラシーの時代──都市の時代
・天皇制ファシズムへの暗転

2.2 戦後日本の都市化
・敗戦から高度経済成長へ
・日本における第二次都市化から住民運動と革新自治体の時代へ
・石油ショック以降の安定成長からバブル経済の興隆へ
・グローバル化のもとでのバブル崩壊から失われた10年へ

2.3 日本都市の分析枠組

・都市システムと都市の社会的世界
・都市システムを構成する経済システムと政治行政システム
・経済システムを規定する資本主義世界経済
・政治行政システムを構成する国家の地方制度と地域政策
・社会的世界としての集団とネットワーク
・社会的世界と政治行政システムを媒介する住民組織と地方自治体


第3講 明治地方自治制の成立

3.1 維新政府の課題と近代化への2つの道
・明治維新から村落を中心とした明治地方自治制の成立まで
・資本主義世界経済の中での日本と明治維新の課題
・富国強兵,殖産興業への2つの道の対立=自由民権運動
・自由民権運動との対立の中で成立した地方自治制と明治憲法
・国家を中心とした中央集権的な近代化の道を選択した日本の決断

3.2 地租改正から自由民権運動へ
・村落を中心とした地方制度の変遷
・戸籍法と壬申戸籍の作成──戸長の設置と大区小区制の設定
・地租改正と地租改正反対一揆→士族民権から豪農民権へ
・「竹やりでどんとつきだす2分5厘」
・地方三新法(郡区町村編制法,府県会規則,地方税規則)による旧村と寄合の復活,税制の集権化
・税率改正阻止にむけての府県会を舞台とした国会開設の請願運動
・豪農民権の高揚と国会開設の詔

3.3 自由民権運動の成果と課題
・江戸中期以降に発展した村落自治の否定と反発
・明治政府が得た教訓と成果
・日本的統治の特質──天皇による庇護的配慮への権威主義的包摂
・芸術品と言われる明治地方自治制の成立へ

3.4 豪農民権期の村落構造
・幕藩期部落(=旧村,大字,自然村)の社会構造──地主小作関係
・豪農=手作地主を中心とした旧村部落の社会的世界
・豪農層を中心とした地域共同体の存在

3.5 松方デフレ政策による不況
・松方デフレ政策の意図と結果
・豪農層の分解と大地主=寄生地主層への上昇転化
・豪農民権から貧農民権,激化事件へ──福島事件,加波山事件,秩父事件

3.6 明治の合併と市制・町村制の成立
・山縣有朋とモッセによる地方自治制度の模索
・明治の合併を強行し,行政村を設置
・制限選挙制と行政区──区長及び区長代理の設置
・寄生地主制にもとづいた明治地方自治制のしくみ
・初期議会での激しい対立と日清戦争開戦による解決

3.7 この国のかたち
・社会的なリーダー層を政治的な代表者とはせずに行政への協力者に留めようとする仕組み
・政治的な統合ではなく,行政的な統合の優越によって生まれた独特の政治意識=政治的闘争の異端視と弾圧
・行政的な恩恵の獲得に限定されてしまった政治の役割――利益誘導型政治の確立とそれへの批判
・この時期までの都市の状況――名望型支配ではなく,有力者連携型の支配か?


第4講 日本における近代都市の成立

4.1 明治地方自治制の確立と動揺
・日露戦争の勝利と日比谷焼討事件
・労働争議と小作争議──大正デモクラシーの時代
・軍需産業を中心とした大工場と労働組合運動の台頭
・都市雑業層の堆積とスラムの形成→都市の民衆騒擾

4.2 大正デモクラシーの基層構造
・農民層の2つの分解──寄生地主の子弟と小作貧農層の都市流出
・大地主層→旧帝大→知識人(左翼思想)と俸給生活者
・小作貧農層→工場労働者(労働争議)←→都市雑業層(民衆騒擾)
・労働争議に触発されて起こった小作争議

4.3 労働運動の台頭と弾圧
・大正デモクラシーの帰結――男子普通選挙制と治安維持法の成立
・労働運動と左翼思想の弾圧→運動の過激化と知識人たちの離反
・労働者たちの適応=労働者としての連帯から都市自営業者への個別的な上昇へ
・都市雑業層から都市自営業者層へ

4.4 日本の都市と労働者
・都市に出た小作=貧農の系譜──雑業層から労働者へ
・労働運動の弾圧と日本の労働者の選択
・いまだ確定していなかった都市の統治機構


第5講 町内会と天皇制ファシズム

5.1 都市自営業者層の台頭と町内会の成立
・大正から昭和にかけての都市化と地域社会の危機
・町の会の成立と都市自営業者層の台頭
・共同防衛と全戸加入原則の成立
・全戸加入の民主的性格=日本における大衆民主化の一形態
・町会結成の担い手となった都市自営業者層

5.2 社会調査による町内会の発見
・関一の大阪市政と後藤新平の東京市政
・大阪市社会部と東京市社会局による社会調査の実施←米田庄太郎と戸田貞三
・『町会規約要領』,『東京市町内会の調査』,『東京市町会に関する調査』
・行政による町会の発見→町内会の育成と整備

5.3 町内会の整備と天皇制ファシズムの成立
・戦時体制の高まりとともに急務となった都市の地域社会統合
・「部落会町内会整備要領」による部落会町内会の整備
・天皇制ファシズムの末端機構としての国民細胞組織=町内会・隣組の確立
・軍隊ならびに隣組における都市自営業者層の活躍

5.4 なぜ,自営業者は戦争に協力したのか
・都市自営業者の社会的系譜
・自由民権運動と小作貧農,労働組合運動と労働者,都市自営業者と町内会
・町内会を担うことで初めて天皇制国家から臣民として認められた都市自営業者層
・日本における大衆民主化の形態←→労働組合,労働運動,労働者政党
・実は近代的な組織であった町内会


第6講 戦後改革と日本の民主化

6.1 GHQと戦後改革
・敗戦,占領,戦後改革と日本の民主化
・東京裁判と軍部,財閥の解体――生き残った天皇と官僚機構
・GHQによる日本社会理解
・民法改正と農地改革――村と家(「封建遺制」)の解体

6.2 地方自治制度の改正
・憲法における「地方自治の本旨」→地方自治法
・地方自治体における大統領制の導入――知事公選と機関委任事務の成立
・後の革新自治体成立の制度的前提の確立

6.3 封建遺制とみなされた町内会の禁止
・町内会禁止令におけるGHQの判断と進歩的知識人による町内会批判
・にもかかわらず,禁止下でも存続し,講和後復活し,圧力団体化していった町内会
・松下圭一らによる『大都市における地域政治の構造』=町内会による旧中間層のボス支配
・GHQや知識人たちの判断は正しかったのか

6.4 なくならなかった町内会
・封建遺制ではなく,大衆民主化の受け皿として近代的な側面をもっていた町内会
・戦後復興から高度成長期にかけての都市の社会的世界──大企業と中小企業,雇用者層と自営業者層という二重構造の継続
・農民と自営業者層を基盤とした保守政党と大企業雇用層を中心とした革新政党による55年体制の成立
・大企業を中心とした高度成長期における町内会を通じた都市自営業者層の行政下請的な地域参加と社会的上昇
・二重構造による格差の是正と敗者復活の可能性の確保→格差の拡大を抑えた類稀な高度成長の実現

6.5 戦後民主化論の陥穽
・家や村の共同性の廃棄=近代化でよかったのか?
・自立した個人の自発的で自由な結合としての民主的な共同性はいかにして可能なのか
・それは古い共同性をすべて廃棄された個人が自立してはじめて実現するものなのか
・近年の個別化し,個人化した社会における共同性への注目──コミュニタリアン,ソーシャル・キャピタル
・戦後民主化=伝統的なものの排除になってしまった悲劇


第7講 日本都市の戦後的展開――高度成長と住民運動の時代

7.1 高度経済成長期における日本都市の社会構造
・日本経済の二重構造──大企業と中小零細自営業
・高度成長を支えた社会的構成──大企業中心の経済成長と地方=村落と中小零細自営層の犠牲と底上げ
・底上げと保障を可能にした体制──自民党保守行政を支えた地方と都市中下層による「民主的な」利益誘導政治
・本来民主的な政治による利益誘導が「民主的」に見えなかった理由

7.2 公害問題の勃発と住民運動の展開
・公害の発生――水俣病,イタイイタイ病,四日市ぜんそく,ヘドロ,光化学スモッグ
・住民運動の展開──自由民権運動,大正デモクラシーに続く3度目の広範な大衆の異議申し立て
・戦後導入された首長の公選制を活用した都市住民
・京都蜷川,東京美濃部,神奈川長洲,横浜飛鳥田,神戸宮崎,川崎伊藤
・住民運動への保革両サイドからの対応としての革新自治体とコミュニティ施策
・その結果,敗戦後に課題として残されていた都市自治の社会的構成はどうなったか

7.3 革新自治体による対応
・住民運動の多様な現実と市民運動としての評価の優越
・被害民の悲惨,基盤としての旧中間層,市民層の台頭→コミュニティ施策への批判
・旧態依然とした行政の対応への反発
・革新自治体による対話と参加の行政の展開←憲法の実現,行政の科学化計画化
・横浜,世田谷,神戸における都市官僚制の成熟――町会は町会,市民は市民という対応

7.4 コミュニティ施策による対応
・国民生活審議会コミュニティ問題小委員会報告『コミュニティ――生活の場における人間性の回復』と自治省によるモデル・コミュニティ施策
・武蔵野や三鷹をモデルとし,都市社会学者によるコミュニティ論にもとづく政策形成
・コミュニティセンターの建設と管理をめぐる新しいコミュニティ組織の奨励
・期待された町内会の退潮と市民の台頭
・結果はどうであったか――市民は去り,町会は残り,なにも言わなかった行政

7.5 「都市官僚制」と「町内会体制」の確立
・住民運動への保革両サイドからの対応がもたらしたもの
・結果としてあまり変わらなかった地域住民組織の実態と洗練されていった行政の住民対応
・市民による自治は実現したのか──政策的意向の実現とコミュニティ組織からの撤退
・旧中間層は衰退したのか──むしろ確立していった都市自営業者層の行政的,政治的基盤
・こうして70年代に確立していった「都市官僚制」と「町内会体制」
・政策的に包摂されただけの市民層と行政と政治の2つのルートを確立した都市自営業者層──切り捨てられたのは誰か
・中小零細自営部門の民主的な利益誘導にもとづく平準化の実現
・80年代における保守回帰と市民層の保守化


第8講 日本都市の現代的展開──政治改革と分権改革

8.1 ようやく安定した日本都市の社会的構成
・「大企業体制」と「町内会体制」の成立
・大企業雇用層の特権としての日本的経営による安定的雇用の保障
・均質的に整備された公教育制度にもとづく社会的上昇の希望=大企業体制
・敗者復活を可能にした都市自営業者層の世界=町内会体制
・地方=村落と都市自営業者層に配慮しつつも,大企業=市民優先の保守政治の展開

8.2 確立と同時に不安定化していく都市の社会的構成
・石油ショックからいち早く回復し,世界を席巻した80年代の日本経済とバブルの崩壊
・大企業の多国籍企業化と徐々に分解していった都市自営業者層
・日本的経営の放棄(『新時代の日本的経営』),下請関係のグローバル化,日常買回り品への大企業の進出→大店法の廃止
・非正規雇用の拡大,敗者復活の無効化と希望格差社会の到来,都市下層の再見
・1票の格差と選挙制度改革,地方への無駄な公共投資への批判

8.3 90年代政治改革と地方分権改革
・90年代以降の制度改革──政治改革と地方分権改革
・地方,村落の定数の削減と都市部の定数の拡大,小選挙区制への移行
・これまで優先していた地方,村落の切り捨てと都市市民層への基盤のシフト
・肥大化した保守の分解にもとづく政権交代可能な二大政党制への模索
・地方分権改革への要求と政,官,財,学,それぞれの思惑
・財界からの財政削減と地方分権への要求,学界による官界の改革=機関委任事務の廃止と自治事務と法定受託事務への再編,国地方係争処理委員会の設置
・官の逆襲としての平成の大合併,財界と政界の結託にともなう学界の孤立
・分権改革なのに縁遠くなった自治体,ポスト・ファーディズムの下でのリスケーリングにはならなかった改革

8.4 21世紀日本の課題と都市
・ポスト・ファーディズムの下での新しい経済戦略は──東京オリンピックからSociety5.0とDXへ
・少子高齢化には──『国土のグランドデザイン』と地方創生
・いよいよ崩壊が始まった町内会体制には──NPO,ボランティア団体の活用
・予測される第四の大衆的な異議申し立てと日本の国家,都市のゆくえ
・ひとつの展望──自治体ケインズ政策の試み