都市社会学T(都立大学社会学分野専門科目:前期)講義要目


第1講 都市の歴史的展開

1.1 前近代の都市
・四大河の都市文明
・古典古代の都市国家──国家という意味と都市という意味
・中世の自治都市──西洋史の一単元としての都市(国家ではなく都市)
・都市=市民=民主主義という西欧的伝統の存在

1.2 近代以降の都市化と資本主義の変遷
・前産業型都市と産業型都市
・近代都市の歴史的展開──都市化,郊外化,第三世界の都市化,世界都市
・資本主義の蓄積体制との対応
・資本主義蓄積の3つの形態──帝国主義段階,フォーディズム,ポスト・フォーディズム

1.3 帝国主義と都市化の時代:18世紀〜1929年
・初期資本主義の蓄積体制──産業革命と製造業の発展
・帝国主義にもとづく世界市場
・ロンドンとイーストエンド──工場と労働者の時代
・シカゴと推移地帯──移民労働者の展開
・工場労働者,移民,貧困,スラム,社会解体

1.4 フォーディズムと郊外化の時代:1929〜1973年
・都市の郊外化,ハワードの田園都市
・社会解体的イメージからの転換
・国家のケインズ政策による資本主義の制御と福祉国家の時代
・フォーディズム=大量生産・大量消費にもとづく先進国の繁栄
・国家を単位とする経済発展の中核としての都市

1.5 ポスト・フォーディズムと世界都市の時代:1973年以降
・第三世界の都市化と従属
・グローバル化による先進国フォーディズムの崩壊
・反都市化と都市再生への取り組み
・多国籍企業の拠点としての世界都市
・国家単位の都市化からプラネタリー・アーバニゼーションへ


第2講 都市社会学の歴史的展開

2.1 ロンドンと労働者の貧困
・都市社会学成立前史としてのロンドン
・世界の工場としてのロンドンの光と影
・ブースのロンドン調査

2.2 シカゴと都市社会学の誕生
・実験室としての都市=シカゴ
・パークの人間生態学
・バージェスの同心円地帯論
・ワースのアーバニズム論
・シカゴ学派都市社会学の特質──労働者や移民の生活世界への視点

2.3 シカゴ学派都市社会学への批判
・イデオロギーとしてのアーバニズム←第三世界の都市化
・カステルと新都市社会学
・新都市社会学の特質──都市内外の構造的側面への注目
・労働力の再生産と集合的消費
・都市政策と都市社会運動,都市政治

2.4 ポスト・フォーディズムと空間の生産
・集合的消費の都市から再び生産の都市へ
・ハーヴェイと都市空間
・都市の成長戦略
・都市再開発とジェントリフィケーション
・世界都市と第三世界の都市における格差の拡大
・都市下層,移民,エスニシティ


第3講 都市と都市化

3.1 都市の定義
・都市を特徴づける3つの視点──地方自治法上の市の要件:人口5万人以上,6割以上の市街地集中,都市的施設
・人口の量と質──ワースの定義:a relative large, dense, and permanent settlement of socially heterogeneous individuals
・職業と生活様式──ゾンバルトの定義:「比較的大なる人間の居住地にして,その生活物資を他者の農業労働の生産物に
                    あふぐもの」

・権力と支配──鈴木栄太郎の定義:「人・物・心の社会的交流の結節機関を蔵するところの聚落」
        矢崎武夫の定義:「種々な形態の権力を基礎に、水平的・垂直的に構成された人口」,
                「政治・軍事・経済・教育・宗教・娯楽の相互に関連した統合機関」
        藤田弘夫の定義:「都市は(政治的、経済的、宗教的)権力の拠点」

・ルフェーブルの「都市的なるもの(the urban)」

3.2 都市化,郊外化,反都市化,再都市化
・クラッセンの都市サイクル仮説
・資本主義発展の3つの段階との対応
・国や地域によって異なる事情

3.3 都市の2つの側面
・都市社会学の対立する2つの系譜
・資本主義世界システムに規定される側面
・国家によって規定される側面
・自治体としての都市
・都市に暮らす人々の世界

3.4 都市の分析枠組
・都市を枠づけるもの
・都市システムと社会的世界
・都市の社会構造
・空間をめぐる矛盾と闘争


第4講 都市の社会構造

4.1 都市システムと社会的世界
・シカゴ学派都市社会学と新都市社会学の視点の違い
・カステルの集合的消費をめぐる都市計画・政策と都市社会運動・都市政治
・ワースのアーバニズム論における第一次的接触と第二次的接触
・鈴木榮太郎の機関と人の二元的構成
・システム論と現象学的社会学→ハーバーマスのシステムと生活世界

4.2 機関と都市システム
・鈴木榮太郎の聚落社会の2つの機能:生活協力と共同防衛
・生活協力としての経済システム:企業,市場,貨幣,生産,消費,流通
・共同防衛としての政治行政システム:議会,行政,法,政策
・経済学と政治学,行政学
・社会学のレーゾンデートル=社会的世界

4.3 社会的世界における集団とネットワーク
・システムとは異なる人々の生活世界としての社会的世界
・体制,制度,団体と組織,集団,ネットワーク,フォーマルグループとインフォーマルグループ
・家族,ジェンダー,エスニシティ
・ボランタリーアソシエーション,地域住民組織と市民活動団体

4.4 都市の意味──空間とコミュニティ
・都市システムと都市住民の社会的世界
・両者を媒介するものとしての空間とコミュニティ
・都市システムにとっての空間
・都市住民の社会的世界にとっての空間
・カステルの都市社会運動と都市政治──空間をめぐるシステムと社会的世界

4.5 都市研究の課題領域
・資本主義世界システムと国家による規定
・都市社会運動と都市政治
・都市の空間構造
・社会的世界の諸現実
・社会的世界に依拠しつつ都市システムを論じる都市社会学の独自の立場


第5講 都市空間の探究

5.1 都市空間分析の展開
・地帯構造論からGIS(地理情報システム)へ
・バージェスの同心円地帯論
・ホイトの扇状地帯論
・ハリス=ウルマンの多核心理論
・社会地区分析への展開
・東京の社会地図

5.2 都市空間分析の課題
・GISにおける技術的発展→記述から説明へ
・空間と社会の関係をどうとらえるか
・資本主義の蓄積体制と空間をめぐる問い=アーバン・クエスチョン
・フォーディズムの下でのカステルによる労働力の再生産と集合的消費
・グローバル化とルフェーヴルによる空間の生産──ソジャとハーヴェイによる空間論的転回

5.3 フォーディズムの課題としての集合的消費
・フォーディズムの時代:大量生産と大量消費,ケインズ政策による完全雇用
・中間層の標準的な大量消費にもとづく経済成長──アメリカの1950〜60年代,ヨーロッパ,日本の60〜70年代
・消費する中間層の住宅地開発にもとづく郊外化の時代←ハーヴェイの空間的回避
・労働力再生産と生産基盤整備との矛盾=生活の論理と資本の論理の矛盾
・労働力再生産と集合的消費の問題として現れたアーバン・クエスチョン→カステルの新都市社会学

5.4 グローバル化とポスト・フォーディズム
・新国際分業の進展=グローバル化による都市空間の変化
・製造業の第三世界への流出と先進国のハイテク,サービス産業化──高付加価値,知識基盤型,創造的革新的
・情報通信手段の発達にともなう資本のグローバル化と投資=投機の対象としての都市空間へ
・ハーヴェイによる「時間による空間の絶滅」,「空間的固定と回避」,「資本の第二循環」

5.5 都市空間をめぐる現代的課題
・フォーディズムの時代における都市社会運動と都市政治──60〜70年代の住民運動と革新自治体の時代
・ポスト・フォーディズムの時代における都市再開発と投機=投資の対象としての都市空間へ
・バージェスが切り開いた社会的世界における空間の生きられ方
・ルフェーヴルの空間理論──社会そのものとしての空間=空間の社会的生産


第6講 都市コミュニティの探究

6.1 コミュニティ・スタディの視点
・労働者生活研究とコミュニティ・スタディ
・エンゲルス,ブース,シカゴモノグラフの蓄積
・都市住民の社会的世界の解明
・ライフドキュメント,ライフヒストリーなどの質的なデータの活用

6.2 推移地帯とスラムのモノグラフ──帝国主義段階での都市化の時代
・タマスとズナニエツキ『ポーランド農民』
・アンダーソン『ホーボー』,ショウ『ジャックローラー』,ゾーボー『ゴールドコーストとスラム』
・クレッシー『タクシーダンスホール』,スラッシャー『ギャング』
・ホワイト『ストリート・コーナー・ソサエティ』におけるチックとドック,賭博と100%デカ

6.3 郊外生活とコミュニティ──フォーディズムの下での郊外化の時代
・ウォーナー『ヤンキーシティ』
・ガンス『レビットタウナー』,『都市の村人たち』
・日本における町内会研究,市民意識研究,コミュニティ研究

6.4 都市再開発とコミュニティ──ポスト・フォーディズムにおける再都市化の時代
・ズーキン『ロフトリビング』
・アンダーソン『ストリート・ワイズ』
・日本におけるホームレス研究,外国人労働者研究,エスニック研究


第7講 都市と市民

7.1 都市と市民生活
・都市とコミュニティを媒介する市民生活の探究
・鈴木榮太郎の聚落社会の二つの基本的機能──「生活協力」と「共同防衛」
・日常的な生活協力の領域──世帯,家族,近隣,友人,集団,組織,事業所
・非日常的な生活防衛の領域──政治,行政,運動
・市民生活における円滑な生活協力を保障する共同防衛を日常的に担当する行政システムの役割

7.2 行政と市民団体
・政治行政システムと社会的世界の連関
・共同防衛を目的とした市民団体の台頭──労働組合,生活協同組合,防犯協会……
・共同防衛をめぐる政治行政システムと市民団体との関係の歴史
・帝国主義と都市化の時代における自由主義と夜警国家
・フォーディズムと郊外化の時代における福祉国家の成立
・ポスト・フォーディズムの時代における新自由主義とNPO・市民団体への委託と協働

7.3 国や地域による形態の違い
・労働組合,町内会,市民団体
・ヨーロッパにおける労働組合と労働者政党による福祉国家の建設
・アメリカにおける民族集団の組織化とマシーン政治の展開
・日本における労働組合と労働者政党の弾圧と行政下請的な市民団体=町内会の成立

7.4 自治と協働の時代へ
・それぞれの事情のもとでの行政権力の肥大化と福祉国家の成立
・福祉国家による財政危機から新自由主義への展開
・それぞれの事情のもとでの市民と行政の関係
・事業化する市民活動──自治か,協働か,補完か


第8講 都市の政治と権力

8.1 地域権力構造論の展開
・ハンターとダールのCPS論争
・『コミュニティの権力構造』(1953年)と『統治するのは誰か』(1961年)
・声価法と争点法,一元的な権力構造と多元的な権力構造
・ミルズの権力エリート論(1956年)

8.2 行政権力の肥大化という課題
・軍産複合体とアメリカにおける民主主義の危機
・日本における行政権力の優越→開発主義国家の概念
・アラブ諸国,中国,ロシアにおける国家資本主義の成立
・アングロアメリカにおけるその後の権力構造論の展開

8.3 ポスト・フォーディズムにおける成長戦略
・70年代以降のアメリカにおける経済政策の転換
・アメリカにおける分権的な経済政策の展開──都市間競争と誘致合戦
・成長マシンとしての都市──Logan and Molotch (1987) Urban Fortunes
・urban growth machine, urban growth coalition, urban regime
・地域=都市経済の成長を目的とした政策形成,成長戦略,公私連携

8.4 都市管理者主義から企業家的都市へ
・Harvey (1989): from managerialism to entrepreneurialism
・資本主義的な発展を規制する自治体から促進する自治体への転換
・敵対的な行政と企業の関係から共に経済成長を目指すパートナーへ
・グローバル経済の推進力としての地域=都市形成を目指して──regional motorとしての都市
・New Urban Politcs, new regionalism, local economic development, urban regeneration
・国家のリスケーリングからプラネタリ・アーバニゼーションへ


第9講 グローバリゼーションと都市

9.1 第三世界の都市化
・先進国とは異なる特質──過剰都市化とプライマリー・シティ
・プル要因ではなく,プッシュ要因による都市化
・旧宗主国としての先進国や開発援助の影響力
・収斂論からデサコタ,メガ・シティ,プラネッタリー・アーバニゼーション,ポスト・コロニアリズムへ

9.2 先進国における世界都市化
・フリードマンの「世界都市仮説」
・サッセンのグローバル・シティ論
・ロンドンとニューヨークにおける製造業の衰退と生産者サービス業の台頭
・中間層の解体,サービス業の二極化,移民労働力の流入
・ポスト・フォーディズム段階における新国際分業とハイテク,IT産業,知識基盤産業,フレキシブルな蓄積

9.3 東京の世界都市化?
・80年代におけるニューヨーク,ロンドン.そして東京
・製造業を基盤とした金融バブルの興隆と崩壊
・90年代後半以降の日本経済の衰退とポスト・フォーディズムへの対応の遅れ
・90年代以降の外国人労働者,エスニシティ,ホームレス,非正規雇用,貧困,格差
・バブル期における都心の人口減少とその後の再都市化?(都心回帰)

9.4 グローバル化と格差の拡大
・NICs,NIEsの成長──韓国,台湾,香港,シンガポール,メキシコ,ブラジル,ギリシャ,ポルトガル,スペイン,ユーゴスラビア
・中国,インド,中東諸国の台頭
・グローバル化と不平等の拡大
・社会的な排除と包摂
・市場資本主義と国家資本主義の対立


第10講 都市と不平等

10.1 ポスト・フォーディズムとネオ・リベラリズム
・フォーディズムにおけるケインズ政策と福祉国家の崩壊
・ポスト・フォーディズムにおけるグローバル化と新自由主義的改革
・市民と行政の協働,公私連携,企業家的都市,金融ビックバン,規制緩和
・格差の拡大と不平等
・都市における不平等の拡大──ホームレスと移民

10.2 都市下層の現実
・都市下層研究の再見──労働者の貧困から社会的排除へ,スラムからアンダークラスへ
・日本の都市における90年代以降のホームレスの再顕在化
・ホームレス研究の展開
・ホームレスの生き抜き戦略の解明と政策的包摂の困難

10.3 日本における外国人労働者の現実
・日本における移民研究の困難=外国人労働者受け入れの奇妙な現実
・基本的に日本には存在しない移民
・日本人移民の子孫に限定された入管法の改正
・研修生,技能実習生,留学生,就学生による事実上の労働力確保

10.4 移民たちの空間戦略
・移民研究の変遷──同化からボーダーレスへ
・アントロプロネアーとしての移民
・移民たちの生き残り戦略
・ディアスポラとしての空間戦略