社会調査論2(中央大学)講義要目



1.聞き取り調査の方法

1.1 社会調査の方法
・社会調査の3つの方法
・聞き取り調査,書かれた資料の収集と分析,サーベイ調査
・それぞれについてのより具体的な方法とノウハウ
・2つの段階における聞き取り調査の方法の違い
・聞き取り調査と書かれた資料の組み合わせ方
・サーベイ調査の詳細

1.2 聞き取り調査──その要領と準備
・対象者の探し方
・対象者への依頼の仕方
・メモの取り方,ICレコーダーの使用
・基本的な原理
・何を聞きたいのか,何を期待するのか
・自分を何者と理解してもらうか
・何を知りたがっていて,何が聞きたい人間なのか
・全体的な流れと確認のポイント
・まずどう切り出すかだけを考える

1.3 聞き取り調査──決定的に重要な最初の一言
・自分の説明と聞きたいことの説明,そして最初の設問
・重要なことは相手が気持ちよく話してくれること
・話したいことしか話さない対象者
・聞きたいことよりも話してくれることを優先するということ

1.4 聞き取り調査──その意義と限界
・聞き取りとは何か──調査者の問いかけにたいする対象者の反応であること
・聞き取りで確認できること──問題の所在と文書資料の所在
・事実や現実にたいする主観的な理解と意味づけの表明であること
・聞き取りではそれ以上のことは決して実証できないということ
・視察とよく似た聞き取り調査の調査者にとっての意義

2.聞き取り調査にもとづく事例研究――ケースと出来事

2.1 何かを確かめようとする段階での聞き取り調査
・事例研究の方法としての聞き取り調査
・少数の対象にたいするトータルでインテンシブな聞き取り
・ケースと出来事
・ある事実にたいする少数の人々の体験を詳細に確認するケースに関する事例研究
・事実にたいするトータルな認識の獲得
・出来事に関する事例研究
・客観的な事実にたいするある程度の数の人々の主観的な体験や解釈を集めること
・多様に体験されている事実の首尾一貫した説明の試み
・具体的で特殊な形態をもった普遍性の洞察
・しかしあくまで量的な意味での検証ではないこと

2.2 聞き取り調査による事例研究──ケースの場合
・ケースの事例としての生活史研究
・中野卓編著『口述の生活史』
・タマスらシカゴ学派における古典的な活用
・典型例としての『ジャック・ローラー』
・一人の人物の人生のトータルな理解
・主観的な世界の叙述と解釈を目的とした聞き取りの方法
・主観的に意味のある客観的な事実を発見するための方法としての聞き取り調査

2.3 聞き取り調査による事例研究──出来事の場合 
・出来事の事例としてのライフコース研究
・T. ハレーブン『家族時間と産業時間』
・多数の対象者にたいする組織的な聞き取り調査
・それを可能にした従業員の履歴データ
・工場内の社会関係の歴史的変遷に関する実証研究
・客観的事実に関する主観的記憶の間違いがもつ意味
・聞き取り内容と書かれた資料とを照らし合わせることの意義

3.聞き取り調査の文書資料等による確認

3.1 あてにならない人の話
・到底客観的な確実性を持ちえない人の話
・記憶の曖昧さ,勘違い,現在の立場の影響
・別途確認する方法を考えること
・他の人による確認と他の方法による確認

3.2 書かれた資料による確認と照合
・書かれた資料の確実さとしての資料批判の余地
・大事なのは一致ではなく,不一致であること
・主観的な間違いが生じる合理的な説明の模索
・そこからもたらされる社会学的な知見

3.3 確認可能なデータから確認不能な事実へ
・調査におけるデータは常に観察された特殊で個別的な事実であること
・客観的に誰もが確認可能な「ぶつ」が求められる調査と実証
・だからといってそれがすべての事実ではないこと
・重要なのは直接には観察も確認もできない「事実」であること
・あらゆる認識と科学に共通する原理──社会調査という営みも全く同じであること
・そこで重要になる各学問分野における理論

4.サーベイ調査の原理と集計の基本

4.1 サーベイ調査の意義
・限られたことを大量に聞くことの意義
・大量であることとその意義──代表性と誤差の評定
・無理を承知で標準化する質問文と回答選択肢
・それゆえ質的な事情の理解を前提としていること
・それでも不可欠な全体的な分布の確認と一般的な変数間の関連の確認

4.2 調査票による測定とデータの構造 
・調査票の回収とマトリックスデータの構成
・1ケースをn個の変数で示すということ──代数幾何学の世界
・n次元空間における点の集合として示される行列データ
・ランダムではなく特定の集群をなして分布する諸ケース
・分布の偏りと変数間の関連を分析すること──n次元方程式の解
・ただし注意すべき属性変数と数量変数の違い

4.3 定性的な変数と定量的な変数
・カテゴリカルな世界と量的な世界
・カテゴリカルな世界をとらえる度数分布とクロス集計(比率)
・量的な世界をとらえる平均と分散,相関係数,多変量解析
・定性的な変数と定性的な変数の関連──比率の差の検定,クロス表とχ2検定
・定性的な変数と定量的な変数の関連──平均値の差の検定,分散分析
・定量的な変数と定量的な変数の関連──相関係数,多変量解析
・測定の仕方によってある程度,相互に変換可能であること

4.4 単純集計とクロス集計
・集計分析の基本
・単純集計結果にもとづくデータの全体構造の理解と問題の発見
・基本的な分析方法としてのクロス集計
・タイプの違いとそれらの全体的分布を示す方法として
・変数の関連を確認する方法として
・すべては単純集計とクロス集計でわかるということ

5.測定と尺度構成の決定的な重要性

5.1 質問文による測定と尺度の構成
・質問文による測定
・名義尺度,順序尺度,間隔尺度
・カテゴリカルな世界を量的に測定する尺度の構成
・職業威信スコア──富永健一編『日本の階層構造』
・尺度の一次元性の確認
・因子分析による各次元の解釈を含む尺度──主観的幸福感

5.2 測定と尺度構成の意義
・適切な尺度構成によって初めて可能になる多変量解析
・単なる類型的な分布の記述から個々の変数の規定力の評価へ
・しかし測定と尺度が適切か否かが決定的に重要
・そこにこそ必要な質的な検討と評価

6.サンプリングの理論と実践

6.1 サンプリングの手法
・いろいろな抽出方法
・大変便利な確率比例抽出法
・なぜそんな便利なことが可能なのか
・第一次抽出を比例配分すると第二次抽出数を一定にできることの証明

6.2 サンプリング理論の原理
・母集団,ランダムサンプリング,標本,推定,検定,有意水準
・母集団における真の値とサンプルにおける観察値
・観察値から真の値を推定
・サンプリング誤差によって間違える確率の評定

6.3 統計的検定の原理──平均値の差の検定
・平均値の差の検定を例に――小学校6年生の身長の男女差
・t=t1−t2(男子平均=t1.女子平均=t2)という統計量を設定
・無限回サンプリングした場合に設定した統計量がどのように分布するかを考える
・差がないと仮定した帰無仮説(検定の際に棄却を目的に立てる仮説)を前提とした分布
・実際に得られた観測値はその分布からどれくらい稀なことと推定されるか
・その分布が知られるためには,いくつかの条件が存在するということ
・統計的検定の原則――統計量の算出,帰無仮説の設定,分布の推定,有意水準の確定

7.統計的分析の原理

7.1 基礎的な分析の原理──擬似相関とエラボレーション
・相関関係の探索──クロス表,一元配置の分散分析,相関係数
・擬似相関の発見──第三の変数による統制
・二重クロス集計──年代と政治的有効性感覚←学歴
・二元配置の分散分析──有効性感覚尺度と年代・学歴
・偏相関係数──有効性感覚尺度,年齢,教育年数

7.2 クロス表とχ2検定
・関連がないという帰無仮説→周辺度数にもとづく期待値との差の2乗の和=χ2値
・サンプル数とセル数についての調整
・自由度によるχ2分布にもとづく検定
・χ2検定の制約とクロス集計の限界

7.3 分散分析の原理
・一元配置の分散分析の原理──平均値の差の検定との違い,F分布と相関比(イータ二乗)
・F=級間平均平方(カテゴリーを分けることで説明された分散)/級内平均平方(説明されない分散)
・やはり必要なサンプル数とカテゴリー数による調整
・相関比(イータ二乗)=級間平方和/全平方和
・二元配置の分散分析によるエラボレ−ションと交互作用の発見
・分散分析の制約──χ2検定と同様

7.4 回帰分析の原理
・相関と回帰――相関は記述のための指標,回帰はどれだけ説明できるかの係数
・最小二乗法による回帰直線と回帰係数の推定
・回帰直線の傾きとしての回帰係数とそれによって説明できた分散の比率としての決定係数
・分散分析のイータ二乗に対応する決定係数
・重回帰分析における決定係数とそれぞれの要因の影響力を示す標準偏回帰係数
・標準偏回帰係数に相関係数をかけて求められる寄与率
・これによってついに達成された複数の変数の独自の説明力を分離して示す数学的操作の意義
・さまざまな回帰分析――ダミー変数の使用とロジスティック回帰

8.統計的分析の様々な手法

8.1 パス解析の原理
・回帰分析モデルとの違い
・時間的な前後関係がはっきりしている場合のモデル
・地位達成の研究

8.2 因子分析の原理
・背後に存在すると想定される変数=因子を導き出す方法
・学力を分析する方法として発達
・因子の解釈に無理のない対象に使用すべき
・因子負荷量を新しい変数とした分析=尺度としての利用

8.3 クラスター分析の原理
・近いものを集める類型析出の方法
・何らかの距離の測り方が重要──ユーグリッド距離
・どこでいくつのクラスターに分けるかはあくまで分析者の判断
・結果が解釈可能であることが重要

8.4 その他の分析手法
・ロジスティック回帰分析
・林の数量化理論
・ログリニア分析
・リズレル
・多次元回帰分析