社会学2(中央大学)講義要目


第1講 社会学の新たな展開

パーソンズまでの古典的な社会学の特徴
・ヴェーバー,デュルケム,パーソンズに見られる保守性
・マルクス,ジンメル,ミードに見られる革新性
・どちらの立場においても牢固であった社会の実在
・前近代社会における特徴が残存していた近代の初頭

実証主義社会学と社会システム論への批判
・通常科学として確立したアメリカ社会学の特徴
・制度,集団,地位,役割から理解される個人と実証されたデータの政策的な利用
・現状の社会の構造的な継続を前提とした静態的な技術としての社会学の保守性
・はたして社会学とはそれだけのものだったのかという疑問

さまざまな社会学批判の登場
・ミルズ『社会学的創造力』における「抽象化された経験主義」と「誇大理論」
・グールドナー「西欧社会学の危機」,「社会学の再生」
・フランクフルト学派による批判理論
・現象学的社会学,エスノメソドロジー,シンボリック相互作用論

社会学批判の時代的な背景
・1950年代までの世界と60年代以降の世界
・公民権運動,学生運動,住民運動,新しい社会運動の時代へ
・安定の時代から変革の時代へ
・社会の存在や構造を前提とした静態的な理論から批判的な動態的な理論へ
・もうひとつの背景としての第三世界の台頭と欧米先進国社会の相対化
・ポストモダンの時代へ

社会学の変化と展望
・さらなる近代化としての社会的なつながりからの離脱
・欧米の支配的な近代社会の構造からの離脱
・もはや自明とはいえなくなった社会の実存
・ミクロな個人の視点から改めて構築せざるをえなくなった社会と社会学

第2講 現象学的社会学による批判

現象学とは何か
・哲学の一流派としての現象学──メルロ=ポンティとフッサール
・エポケーと現象学的還元
・「現象学的」社会学という意味
・社会が現れている現象の場へ戻るという意味
・マルクスとジンメルに通じるところ

シュッツによるヴェーバーとパーソンズへの批判
・日曜社会学者としてのアルフレッド・シュッツ
・ヴェーバーの「理解」社会学の徹底
・パーソンズとの往復書簡──行為への着目とその主観的意味へのこだわりの違い
・社会化,集合化,客観化,間主観化する前の主観的な段階への注目
・あくまで諸個人の主観的な現象の場から間主観的な社会の成立へ
・有意性構造

バーガーとルックマン
・『現実の社会的構成』
・ヴェーバーとデュルケムの統合
・社会的な現実は,最初からそこにあるのではない
・社会的な現実は,諸個人の,主観的で,ミクロな,日常的な,行為から構成される
・商品の交換,心的相互作用からのアプローチとの共通点

現象学的社会学が提起した領域
・主観的な意味への注目
・ミクロな社会過程への注目
・日常的な常識への注目
・基幹的な影響力と様々な流派の形成――エスノメソドロジー,象徴的相互作用論,構築主義
・観念論的な意味理解への傾斜――マルクスと行為論

第3講 現象学的社会学の可能性

現象学的批判が切り開いた新しい社会学の領域
・視点として有効であった現象学的社会学
・具体的な成果としては,何をもたらしたのか
・シンボリック相互作用論,ゴフマンの社会学,エスノメソドロジー,構築主義

シンボリック相互作用論とゴフマンの社会学
・シカゴ学派としてのシンボリック相互作用論
・ブルーマーによる相互作用と意味の重視
・やはりシカゴ学派の訓練から始まったゴフマンの独自の社会学研究
・「相互行為秩序」への注目──「共在の技法」,「儀礼としての相互行為」,「スティグマ」,

エスノメソドロジーと会話分析
・ガーフィンケルの奇妙なゼミでの実習
・エスノ・メソッド(人々の,方法)への注目
・サックスの会話分析──会話の順番と交替の秩序
・録音データ,スクリプトデータ,ビデオデータ

構築主義の社会学
・ラベリング理論の提唱者としてのキツセ
・『社会問題の構築』──何が,どうやって,問題と見なされていくか
・「クレイム申し立て」の研究──ラベリング理論との符合
・現実は単にそこにあるのではなく,つねに構築されて存在するということ

意味学派の適用領域
・医療現場,相談センター,法廷
・ロボット工学との共同
・ミクロな権力の作動する場所──ジェンダー,教育現場

第4講 社会システム論の革新

機能主義から社会システム論へ
・社会システム論の源流──人類学における機能主義
・マリノフスキーの機能主義──個人の欲求を満たす機能
・ラドクリフ=ブラウンの機能主義──社会の存続のための機能
・パーソンズの社会システム論における機能的要件

パーソンズの構造・機能主義と社会システム論への批判
・構造があって,そこに機能があるという社会システム論
・均衡的で,静態的な,自己組織性を持つシステムとしての社会
・固定的な社会システム論への批判

ルーマンの機能・構造主義と社会システム論
・パーソンズのダブルコンティンジェンシー
・ルーマンにおける現象学的視点──たえざる偶発性への対処
・構造ではなく機能が先にくる機能・構造主義
・無限に存在する可能性と複雑性の縮減

機能的等価性と社会学的啓蒙
・メタ理論としてのルーマンの社会学理論←→現実的検討の道具としての理論
・つねに別の可能性がありえたという認識をもたらす機能的等価性の概念
・つねに新しい何かを構想する理論の力=社会学的啓蒙
・ありえる社会の別のかたちへの希求

第5講 マルクス主義社会学の展開

源流としてのフランクフルト学派
・フランクフルト社会研究所とナチズムの台頭
・ルカーチ,ホルクハイマー,アドルノ,マルクーゼ,フロム
・理性への信頼から管理化にたいする批判へ
・実践における主観や意識,無意識を含めた人間の心理や性格への注目

第一世代批判理論の可能性と限界
・批判的理性への信頼とナチズムによる絶望
・美学的な感性への着目とニヒリズム的な現実認識へ
・ポストモダン的な人間観の萌芽と近代的な理念への批判
・ニーチェをへてフーコーへ←→カントからハーバーマスへ

ハーバーマスのコミュニケーション的行為の理論
・フランクフルト学派の末裔としてのハーバーマス
・原点としての『公共性の構造転換』
・公論による公共圏の創出
・パーソンズ,ルーマンのシステム論との対峙
・ミードの社会学からコミュニケーション的行為の理論へ

生活世界の植民地化
・合目的行為の制度化の領域としてのシステム──経済システムと行政システム
・コミュニケーション的行為による社会化の領域としての生活世界
・日常生活における戦略的な行為領域の増大=生活世界の植民地化
・コミュニケーション的行為による公共圏の創出へ──討議的民主主義の提案
・自由かつ十全な討議による合意形成を可能にする法的制度への着目
・素朴なマルクス主義者としてのハーバーマス←→ニーチェ的なフーコーや闘技的民主主義のムフ

第6講 構造主義の挑戦

構造主義という思想
・実存主義,マルクス主義,機能主義から構造主義へ
・ソシュールの構造言語学とレヴィ=ストロースの構造人類学
・構造主義の革新──実存ではなく関係が重要
・構造主義の急進性と保守性
・社会学と構造主義──ニーチェからフーコー,ブルデューへ

ブルデューの転身
・晩年のブルデューにたいする日本での戸惑い
・華麗なフランス社会学を代表するブルデューのイメージ
・文化資本と文化的再生産理論家としてのブルデュー
・上流階級文化の再生産論者としてのイメージ

一般的なブルデュー社会学の理解
・文化資本と文化的再生産
・上流階級にふさわしい文化的素養=ハビトゥス
・文化資本による文化的再生産の達成
・文化資本による階層的格差の維持と再生産

ブルデュー社会学の原点
・原点としてのアルジェリア調査
・資本主義のハビトゥスの発見
・ハビトゥスを通した象徴的支配の貫徹
・神は細部に宿る──具体的な歴史過程にこだわるフーコーの系譜学

第7講 新しい社会学と古い社会学

現代社会学の特徴
・マクロな制度からミクロな関係へ
・制度の論理から諸個人の意味へ
・社会を前提することから批判することへ
・そうでない別のあり方へ

現代社会学の2つの背景
・欧米先進国の社会を前提にはできない世界へ
・社会を無視したり,社会に拘束されない個人のあり方へ
・社会の中で一時も安心できない個人のあり方──「再帰性」
・社会への希求と不信

個人化,個別化と現代社会
・共同体から市場交換の世界へ
・社会の中に埋め込まれた段階から脱埋め込みへ
・抽象化され,制度化され,システム化された人との関係
・脱埋め込みされたことによる困難──「再帰性」の高まり
・脱埋め込みから再埋め込みへ

それでも人はひとりでは生きていけない
・ひとりでいられるような感覚
・事実としてはひとりではいられないということ
・避けることのできるようになった身体的な関わりの煩わしさ
・人と人との関わり,社会の形態という問題

自ら社会を構成するという覚悟
・避けられないことなら,どうするか
・自ら好ましい形態を選ぶということ──再帰的な自己決定
・どうやったら選べるか←現代社会学の魅力
・もうひとつの軛──すべてを選べると思うと選べなくなること
・選べないことにたいする受容=再帰的な運命の選択←社会学的知識の効用

第8講 共同体の再発見

再帰的近代を生きる2つの道
・自らの社会的位置づけをどう選び,どう納得するか
・運命を受け入れるか,拒否するか
・リバタリアニズムとリバタリアン
・コミュニタリズムとコミュニタリアン

共同体の復権──Social Capitalへの注目
・ニューリベラリズムへの不信
・個人主義,自由主義,合理主義の相対化
・現実の人間は,本当に個人として存立しているのか
・他人との関係の中に存在している個人
・社会関係資本への注目──パットナムとコールマン

パットナムのソーシャル・キャピタル論
・政治学における社会関係資本への注目
・イタリアの民主主義に関する研究
・信頼,規範,ネットワークとしてのソーシャル・キャピタル
・アメリカにおける政治的,市民的,宗教的参加の低下と職場などでの社会的つながりの低下
・アメリカにおけるコミュニティの崩壊と再生

コールマンのソーシャル・キャピタル論
・方法論的個人主義にもとづく合理的選択論者としてのコールマン
・ミクローマクロリンクのための概念としてのソーシャル・キャピタル概念
・潜在的な将来的利得のために,直接には個人的な利益にならない投資を行うことで形成された社会的な資本
・個人の行為によって形成され,個人の行為に影響を与えるリンク要因としての概念
・社会的なものを重視し,それに投資する個人とそれに支えられて存在する共同的な利得

復古か,構築か
・パットナムの立ち位置とコールマンの立ち位置
・コミュニタリアンとリバタリアン
・どちらにしても,共同的なものに支えられる社会
・違うのは,その理由づけだけ
・宿命として信じるか,合理的利得として活用するか
・今,誰がその存在の必要性を説いているか──国家と市民社会

第9講 国家から社会へ

欧米における社会を鼓舞する国家の登場
・1970年代までの福祉国家と社会民主主義
・1980年代以降の新自由主義の台頭
・クリントン政権におけるNPOの台頭とブレア政権におけるサードセクターへの注目
・ギデンズの第三の道=新自由主義と社会民主主義の間
・生産優先主義から生きることの政治=諸個人の社会的実践の持つ生産性へ
・人々の社会的実践をうながすという役割を持つ国家

クリントン政権におけるNPOの台頭──アメリカの場合
・レーガンによる福祉の切り捨てとNPOの台頭
・免税措置を勝ち取ったNPOにたいする寄付による公的サービス提供主体の選択
・格差を前提とした富めるものの選択という現実
・新自由主義を前提としたNPOによる政府の相対化という意味での市民社会の活性化

ブレア政権におけるサードセクター──イギリスの場合
・サッチャーによる新自由主義改革とブレアのニューレイバー
・コンパックとサードセクターの活用
・政府の支援義務とサードセクターの独自性の尊重と運動の保障
・公的サービス提供への社会的企業の活用
・ミドルクラスの社会参加と社会的排除との戦い

国家と市民社会──欧米の伝統において
・国家による市民社会への支援と社会の豊穣化へのよびかけ
・欧米における国家の伝統──夜警国家,道具的国家
・市民社会におけるリベラリズムの伝統
・社会に介入する国家の新鮮味=革新性
・リバタリアニズムからコミュニタリズムへ

第10講 社会から国家へ

国家と市民社会──日本の伝統において
・欧米においては革新的な意味をもつ国家から社会への働きかけ
・日本においてはどうなのか
・つねに国家によって指導,監督されてきた日本の社会
・戦後の民主化,自由化と社会の弛緩

日本における国家と社会
・明治維新と大日本帝国の特質
・日本における国家の特質=道具的ではなく倫理的な存在としての国家
・国家とは何であるか=社会を責任をもって導く国家官僚機構
・社会とは何か=公的な意識などない市井の人々

日本における社会と社会学の位置
・社会の変遷──群衆,民衆,大衆,労働者,労働運動,社会主義
・社会を対象とする社会学の悲哀
・米田庄太郎と建部遯吾
・日本にはただ国家があるだけで,社会などない──戸田貞三と国家
・社会と社会主義と社会学の同一視

社会的つながりをいかにして取り戻すべきか
・国家による社会への支援がもつ日本における危険性
・支援に留まらなくなりがちな国家の側の意識
・国家に依存してますますつながりを失いかねない社会の側の意識
・われわれはどうすべきか