卓球と温泉
卓球と脳このページは卓球レポート2000.1月号の内容をご紹介したものです。
「脳スポーツ外来」を、国立療養所西別府病院(当時の森照明院長)が2002.7月、開設しました。 
「健康のための安全なスポーツ、また、スポーツ競技の強化のための脳の役割は大きい。治療、指導を通して『脳スポーツ医学』を普及させたい」「スポーツ外来」の診療内容は、頭部の外傷の治療から、脳のメディカルチェック、スポーツによるリハビリやメンタルトレーニング、心理分析など多岐にわたる。「脳に関連した正しいスポーツの知識を伝えたい」と語る。診察には予約が必要で、毎週午後の希望日で調整。(大分合同新聞掲載)
問い合わせは同病院脳スポーツ外来(電話0977・24・1221)。

 卓球と脳 2000.1.(森照明) (佐藤智彦10回臨床スポーツ医学会発表 卓球選手3000人へのアンケートから
1.卓球選手は明るく、好奇心が強い
2.「かな拾いテスト」で「卓球をやっている人の数値は一般人と比較して明らかに高い。40代、50代の女性の高成績は特筆される。」
3.年齢が上がるにつれて、成績は下がる「ボケの傾向」がみられる中、卓球をしている人の低下のスピードは遅く、60代、70代の比較では一般の人との差が極端に開いている。

*.脳のリハビリにも卓球は最高。
*.卓球は脳の血流を増加させる。
*.卓球は脳を活性化しボケを予防する。
卓球レポート 2000.1月号に特集記事    

-卓球は脳に素晴らしい影響を与える-  2000年.1月 卓球レポートから  

詳細をご覧になりたい方は、卓球レポート2000/1月号をご覧下さい。 
「卓球は脳血流を増加させ、脳を活性化させる」「卓球選手は明るく、好奇心が強い」
「卓球は脳のリハビリに効果が高い」などの研究が、11月6日に東京の日本都市セン
ターで行われた「第10回日本臨床スポーツ医学会」で正式に発表された。
今回、これらを医学的に実証したのが大分医科大学の森照明先生と大分アルメイダ病院
の佐藤智彦先生。その「卓球と脳」に関する実践的研究の医学的な価値は高い。
また世界のスポーツ界、医学界全体を見ても「スポーツが脳に与える好影響」を科学的
に分析した研究例はかつてない。今回、本誌が取材した森、佐藤両先生は「スポーツと
脳」の研究に世界で初めて取り組んだパイオニアである。
         写真・文 手塚晴彦 

卓球選手は明るく、好奇心が強い

-11月に行われた学会で、森、佐藤両先生が「卓球と脳」について発表されたそうですが、どんな様子だったのですか。

 「日本臨床スポーツ医学会」(全国医学会)というのは日本の臨床スポーツ医学に関心のあるドクター約2500名で結成して
いる団体で、今回はそのうち約900名が参加しました。学会での発表演題数は特別講演も含め約200題でしたが、その中で私が
3題、佐藤先生が3題の計6題、卓球関連だけでも4題発表しました。一施設から発表する演題数では最も多いだろうと思っていた
ら、慶応大学が7題発表していて1位は逃してしまいましたが……(笑)。
佐藤 でも、一人で3題も発表したのは私たちだけでしたね(笑)。
 ええ、その通りで、卓球関連の発表もかなりインパクトがあったと思います。この学会はスポーツ医学の日本最高峰の学会で、
この学会で正式に発表したということは医学的に公式に認知される第一段階になります。抄録は公式記録として今後引用が可能です。
「かな拾いテスト」などで「卓球をやっている人間の数値は一般人と比較して明らかに高い」というデータを示したときなどは、会
場からかなりの反応がありました。

(中略)


卓球は脳を活性化し、ボケを予防する

 表5は、全身反応時間のテストで、卓球をした後は反応時間が早くなることを実験したものです。やり方は「被験者が光源を見て、光がついたらすぐ跳び上がり」その反応速度を見るというテストです。初めに何もしていない人たちにこのテストをしてもらい、同じ人たちに1週間1日30分卓球をしてもらった後、同じテストをしてもらって変化を見ました。この表の中の症例1というのが1番目の人の結果で、赤い棒が卓球をする前、黄色い棒が卓球をした後の反応時間を示しています。この人は、初めは光を見てから跳び上がるまでに、約0・37秒かかっていたのですが、1週間卓球をした後に同じ検査をしたら約0・34秒に早くなっていることが分かります。2番目、3番目、4番目の人の結果からも、反応時間が早くなっている様子がはっきりと分かります。この実験は、まだ症例が少ないのですが、卓球が目から入った情報を一瞬のうちに判断し行動する能力を高め、脳の働きを良くする効果があることが分かります。
 この他にも「寝かせてある棒を一定時間内に幾つ立てられるか」などの敏捷性テストを、卓球する前と後で比較するなど「卓球をした後に能力が上がる。卓球は脳にいい」という実験を幾つも行っており、今後それらの研究を学会で発表する予定です。

卓球は脳の血流を増加させる

 3番目の研究成果は、卓球をすると小脳、中脳、脳幹部、前頭葉の血流が増加することを発見したことです。頭の「血のめぐりがよくなる」のだから結果的に頭の働きに好影響を与えますし、脳のリハビリにも良いわけです。
 実は、あらゆるスポーツにおいて、今までに脳と血流の関係をSPECTという機械を使って定量的に調べたデータはありませんでした。脳の研究データは数多くあるのですが、「スポーツと脳」の分野では、私たちが調べたデータが世界初なのです。これは「卓球が好きで、脳の仕事をしており、しかもスポーツと医学が分かる」アルメイダ病院の佐藤先生がいたから初めてできたことなのです。
佐藤 表6を見てください。これは62歳の右側にマヒのある男性患者に卓球をしてもらい、脳血流を調べたものです。卓球療法の前と比べ後の方には明らかに血流の増加が見られます。
 表7は53歳の男性国体選手で、これは森先生です(笑)。血流が悪い状態を黒から青、良くなるに従って黄から赤の色で表し、それを脳のCTスキャナと同じような約1センチのスライス幅で血流という形で画像に表したものです。10分間の打球後、顕著に脳血流が増加しています。
 血流の増加には個人差があり、また体調によっても変わります。注意しなくてはいけないのは、体調が悪い人や、普段運動してない人が準備運動もなく急に激しい運動をすると脳血流が逆に減る可能性があることです。軽い運動であればよいのですが、激しい練習に慣れていない選手が倒れる寸前まで運動すると血が筋肉の方にいってしまい、脳貧血の状態になることもあります。これは心臓も同じで、あまり過激な運動をすると、心筋梗塞を起こしたり、脳貧血で倒れたりして危険です。
 一般の人が行う運動は、健康に適した運動量があり、これを「にこにこペース」と言います。これは体にあまり負担をかけない状態で運動を10分以上続けるペースです。こういうやり方であれば脳血流も増え、健康増進になります。一方、スポーツの一流選手たちは、自分が運動するペースを心得ています。例えば、森先生のように国体に出場しているクラスの選手であれば、激しい練習をしても体がそのペースを理解して効果を挙げることができます。ところが、ペースの分からない初心者がいきなり激しい練習をするのは危険なわけです。運動選手であっても、各人のレベルに合わせて徐々に練習強度を上げていくことが必要です。
 4番目は脳のリハビリに卓球が最適だという研究を発表したことです。
佐藤 私はもともと野球が専門だったので、森先生のように卓球がすべてという人と違い(笑)、逆に卓球の良さを客観的に見ることができると思っています。そうすると、卓球は健康を回復するためのリハビリには最高なんですね。何と言っても手軽で、楽しい。用具の手配がしやすく、場所もとらない。いつでも、どこでもできる。雨が降ってもできるし、年齢もあまり関係ない。脳に支障が出て、体が不自由になったとき、車イスでもできるし、立ったままでもできる。そしてレベルアップが目に見えてできる。これは非常に大きなことなんですね。
 人間は向上することが自分自身で分かると意欲を持って物事に取り組みます。単調な運動では、すぐあきてしまう。ところが卓球の場合は、患者の目の色が違う。また、難易度の点でも非常にいい。徐々に段階を上げられる。初めはボールをころがして、それをラケットに当てる運動から始めることもできる。そのようなことで、卓球を始めた患者は驚くほど早く上達します。意欲の面でも、上達する度合い、スペースの面でも、卓球は脳のリハビリに非常にいいんですね。
 卓球は脳の血流を増加させますし、卓球リハビリは神経線維を成長させ、回復を促進させます。

脳のリハビリにも卓球は最高

佐藤 表8は卓球療法により運動機能が回復するのを示した表です。縦軸がどのような動作ができるようになるかを示し、横軸が1M(月)単位の時間推移を示します。黄色い横棒で示しているように、初めのうち患者は座位(車イスなど)で、ボールをころがしたり、ラケットに当てるのが精いっぱいですが、短期間でバウンドするボールを打てるようになり、立ち上がってラリーができるようになっていきます。こうなれば退院ということになります。
 表9は脳の機能が回復するのを示した表で、縦軸が回復の程度、横軸が記憶力や会話力などの各項目を示します。卓球療法をスタートさせた時点の折れ線グラフが赤線ですが、各項目の数値は低いものです。しかし、3カ月後の状態を示す黄線、半年後の状態を示す緑線になると、脳の働きがかなり回復していることが分かります。  卓球は、患者が遊びながら自分自身の動きを出せ、意欲、集中力、注意力を高めます。脳卒中患者の理学療法の一手段として学会で認知されるようになってきました。

−難しい内容のお話を『卓球レポート』の読者用に分かりやすく説明していただき、ありがとうございました。今後はどのような研究をされていく予定ですか。

 私たちは「卓球と脳」の研究を進めてきましたが、「スポーツと脳」の研究はまだまだ未開拓で多くのテーマがあります。私は「スポーツと脳障害」「スポーツと脳の運動処方」「スポーツと脳の強化」の三つに大きく分けて検討しています。今回、日本臨床スポーツ医学会の脳外科部会でも「高齢者や脳疾患患者の運動療法」に取り組むことになりました。これには当然卓球も含まれます。また「脳の強化」ではメンタルトレーニングや脳内活性物質(エンドルフィンなど)、神経・筋伝導速度、脳代謝などの研究も挙げられます。さらに強くなるためには脳の五感を鍛える、たとえば卓球の遊澤選手(東京アート)がスポーツ選手の中で一番と注目された動体視力などのスポーツビジョンの研究も大切と思います。今後とも各分野の研究者と協力して進めたいと考えています。
佐藤 これからの日本社会を見るとき、卓球のいろいろな効用は時代にマッチしたものだと思います。高齢化社会におけるボケ予防や卓球リハビリなどもそうですが、受験勉強で眠くなったときの眠気覚ましやコンピュータを使って疲れたときに、卓球のボール突きや、素振り、壁打ちをしたりするのはマッサージ効果もあり、よい気分転換になりますね。
 私は先日、日本卓球協会からの依頼で、アジアジュニア選手権の日本チームのチームドクターとしてインドに行ってきました。ビックリするようなこともあり、楽しみながら選手の支援をしました。日本のジュニアは3位だったのですが、技術的には優勝した中国、韓国と遜色がなく、体力、精神力を伸ばしていけばさらに上のメダルを狙える可能性があります。私たちがやっている健康を通しての普及活動と、トップを狙う強化活動の両輪がうまく噛み合い、日本の卓球界がさらに盛り上がっていくことが今の夢です。