***猫糖尿病治療の新しい進展***

NIDDMとヒト組換え型インスリンについての情報
Deborah S. Greco, DVM, PhD, ACVIM
訳:竹内和義

はじめに
 最近の調査では、多くの猫が人のインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)に類似した糖尿病に
発展(50-60%)する事を示唆している。NIDDMの場合、インスリン分泌不全と同時に末梢でのイ
ンスリン抵抗性が認められる。猫の糖尿病は肥満が重要な要素となっているが、同様に人の
NIDDMへの発展のリスクファクター(危険因子)としてしばしば論じられている。

NIDDM発症病因の現在の仮説
 末梢のインスリン抵抗性(肥満に起因した)と血清LAPP(amylinまたはislet-amyloid
polypeptide)上昇に起因した、膵ベータ細胞へのインスリン生成の慢性的刺激亢進(有る場合
と無い場合がある)などが挙げられている。LAPPはインスリンと一緒に生成されるが、インスリ
ン分泌が障害されるとインスリンおよびLAPPがベータ細胞内で蓄積されてしまう。末梢での
LAPP濃度の上昇はLAPPの重合性変化を招来し膵島細胞内でのアミロイド形成を促す。この
膵島アミロイドの沈着は、ベータ細胞でのさらなる糖認識障害や代謝物質の拡散をまねき、最
終的にベータ細胞の壊死や細胞外へのアミロイドの放出を促進させる。

去勢雄猫は雌猫より1.5倍糖尿病発症率が高い。体重増加(>6.8 kg),と年齢(>10 years)と同時
に去勢は危険因子となる。多食が認められるのは12%の猫にすぎない。慢性胃腸障害の兆候
とともに歩行異常などが認められる。最も一般的な非ケトン性糖尿病の身体検査所見には、
無気力、不機嫌、沈鬱、脱水、被毛粗剛、筋肉虚弱などが含まれる。初診時に35%が肥満が
認められ、肥満の猫ほどNIDDMの罹患率が高い。また、糖尿病性ニューロパシーは筋電図や
神経伝導性などを検査すると非常に高い発症率が認められた。

ストレス誘発性高血糖症によって血清グルコースが300-400mg/dlにまで上昇することがあ
る。尿糖の発現は腎尿細管疾患の場合が認められることがあり、希にストレス誘発性でも起こ
る。したがって、糖尿病の診断は3つの診断基準を基本に進める必要がある。すなわち、臨床
症状、絶食時の高血糖および尿糖である。また、フルクトサミン値が正常値(<350 mg/dl)で
あるかどうかは糖尿病とストレス性を鑑別するのに役立つ。

高繊維食による研究

13匹のうち9匹が高繊維の摂取によって血糖コントロールが有意に改善された。繊維の増強
は、消化管からの糖分の吸収率を遅延させ、なおかつ食後の血糖変動を最小に押さえる効果
がある。

アルギニンは猫のインスリン生成の指標となる。糖は人においてインスリン生成の指標とな
る。もし研究対照猫の血糖が>540 mg/dlを維持していればこの猫は糖尿病に発展する。

NIDDMの猫の治療
NIDDMの治療は
  • 肝臓からのグルコース放出を抑える
  • 消化管からのグルコース吸収を抑える
  • 末梢でのインスリン感受性を増強させる
  • 膵臓からのインスリン分泌を促進させる
等を主眼とする。
 グコースによる毒性変化を改善させるためには、短期間のインスリン療法(30日)を経
口血糖降下剤投与と同時または前に行うと、血糖硬化剤の反応が改善する。

スルフォニル尿素
 インスリン分泌を促進させ、インスリン抵抗性を改善させ、この中のいくつかの薬は肝臓から
のグルコースの放出も抑制する。これらの薬は、インスリン放出を促進させる事により膵臓の
アミロイド沈着を増加させる可能性もある。グリピザイドglipizide(2.5-5mg BID)またはグリ
ミペライドglimiperide(1-2 mg SID)を2-3ヶ月投与しても血糖値が200 mg/dl以下にならず
臨床症状も安定しない場合は、投薬を中止する必要がある。消化器系の副作用を防止するに
は食事と一緒に投与すると良い。
**日本販売:グリメピリド:アマリールAmaryl(アベンティスファーマ)、錠1,3mg

アルファーグルコシダーゼ阻害薬alpha-glucosidase inhibitors
 全身性に吸収されず、線維素の消化を妨げることにより消化管からのグルコース吸収を低
下させ結果的に食物源性のグルコース生成を減らす。
アカルボスAcarbose(12.5-25 mg/cat with meals)はインスリンと併用すると血糖コントロ
ールを良好にするすばらしい薬剤である。
**日本販売:アカルボース:グルコバイGlucobay(バイエル)、錠50,100mg

サイアゾリジネジオンThiazolidinedione複合体
 インスリン依存性グルコース消費を促進させ、糖新生と糖分解機序を減弱させて肝臓からの
グルコース放出を阻害する。

トログリタゾンTroglitazone(RezulinR"
 猫には効果がない。転位(遷移)金属?(transition metals)、バナジウム、クロミウムなどを含
む化合物は糖尿病のマウスやラットに投与するとインスリン用作用のある物質である事が示さ
れている。最近の人の研究では、1000ugのピコリン酸クロミウムを180例のNIDDMに1日1回
投与した結果、糖尿病の症状が改善しヘモグロビンA1cの血中レベルが正常化する事が判明
した。

最近の調査では転位金属はインスリンリセプターをバイパスし細胞内の代謝を活性化すること
が示唆された。インスリンと違いバナジウム、クロミウムなどは正常動物では血糖値を低下さ
せない。

我々の研究室では、低用量の経口バナジウム(一般にバナディルの商品名で入手可能、Fuel
-½capsule SID on food)は初期の猫のNIDDMの血糖値およびフルクトサミン値を低下させる
事がわかった。200 ug/cat のクロミウムの1日1回投与も同様に試験した。ベーコンはクロミ
ウムを多く含有している。

参考資料
治療薬マニュアル2003、医学書院より


ヒト組み換え型インスリン

ヒト組み換え型インスリン猫の第一選択のインスリンとして推奨されている。これは、多くの動
物由来のインスリン製剤が製造中止になってしまったためである。牛由来のインスリンが最も
猫に近い構造で、A鎖の1つのアミノ酸が違うだけである。牛豚混合インスリンは90%が牛で10%
が豚である。長時間作用型インスリン(ウルトラレンテ)は吸収性が悪く作用が弱い(他のイン
スリン製剤に比べ単位あたりの)ため最大容量(2 U/kgまで)上限用量の投与が必要である。

猫では、インスリンの初期投与量は0.2-.05U/kgであり、インスリンの代謝速度が速いため
1日2回投与が望ましい。著者は、レンテまたはNPHのBID、または牛PZI(U-40 Blue Ridge
Pharmacies: 1-3 U/cat)のSID投与法を好ん用いている。猫へのウルトラレンテインスリン
製剤の投与はしばしばあまり良い結果が見込まれない。長時間作用型のインスリンは生物学
的活性が低いためである。

良くコントロールされている糖尿病の猫は6ヶ月毎にモニターを実施する必要がある。また、コ
ントロールが不安定な場合は3ヶ月毎に必要である。血清フルクトサミンは自動検査キットで検
査でき長期間の(3週間以上)評価が可能である。血清フルクトサミン値が<450mg/dldl (<400
umol/L)を示せば良好な血糖コントロールが出来ていることを示す。グリコヘモグロビン(猫の
正常値は<3.0 or <0.8%)は検査時点より70日以上の期間の血糖コントロールの状況を反映す
る。

猫は特に低血糖に陥りやすい。著者は、激しい低血糖を発現したU型の糖尿病猫以外では、
ソモジー効果についての報告は出来ていない。この「気がつきにくい低血糖」の妥当な一つの
理由としては、自律神経障害がある。かなり適切な血糖コントロールが得られ、一般的にその
最低ラインは150 mg/dlで最大ピークとの差は200mg/dl位が理想的である。

消化管からのグルコース吸収を阻害する物質(アカルボス)またはインスリン感受性を増強さ
せる物質(バナジウム、メトフォルミン、トログリタゾン)はインスリンと併用することによりヒトの
血糖コントロールを改善させる目的で併用する事が可能である。

インスリンの注射をする部位に関してはオーナーと良く相談する必要がある。腹部に注射した
場合のインスリンの吸収性は大腿部に行う場合より速い。四肢にインスリンを注射した場
合は運動量や四肢の動きに影響されインスリンの吸収が不安定になる。著者はインスリンの
注射部位として腹部外側および胸部を推奨する。これによって、頸部によく見られる線維症
や血流障害がさけられる。

グルコメーターは高度に敏感である。検査所のデーターと近似なグルコース値を得るには静脈
血を採取する事がメーカー側では推奨している。全血によるグルコース値は血清グルコース値
より低値となる。PCVが高い場合はグルコース値は低下する。糖尿病猫の場合は腎不全を併
発していない限り等張尿性や低張尿性の状態ではない。