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獣医療におけるイヌ・ネコの血液型判定について

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獣医療におけるイヌ・ネコの血液型判定について
日本小動物獣医師会 獣医事部
JSAVAニュース No.98、Nov,2002.
一部take加筆

 近年獣医療において輸血等の血液製剤による治療を必要とする疾患が増加している。本邦
の獣医療では、輸血に先立ちクロスマッチ程度の検査は広く用いられているものの、血液型判
定は一般に行われていないのが現状である。米国では血液型判定・クロスマッチ検査はほぼ
ルーチンとなっており、簡便なキットとして用いられている。イヌ・ネコの血液型とその判定、ク
ロスマッチ等についてはCurrentVeterinaryTherapyに記してあるので、その概要を以下に示
す。

「適合輸血確保のための血液型判定および交差適合試験」
(GigerによるKirk’s Current Veterinary Therapy第13巻、pp396−399,BonaguraJ.
編著、2000:日本小動物獣医師会要約)

 近年、コンパニオンアニマルに対する輸血治療の役割が重要になってきており、血液製剤の
利用が急増している。このような現状において、安全かつ効果的な輸血のための血液型判定
および交差適合試験の必要性が認識されている。

 イヌの血液型:イヌの血液型は赤血球抗原に関連した12種類のグループシステムが報告さ
れており、いわゆるDEA:Dog Erythrocyte Antigenに分類される。DEAは例えばDEA1、2や
DEA3のように表され、それぞれについて陽性と陰性が存在する。中でもDEA1.1は最も抗原
性が強く不適合輸血により同種抗体反応を生じ、二度目の感作の場合には急性の溶血反応
が起こる。したがって輸血に際してはDEA1.1の陽・陰性を調べるべきであり、米国では簡便な
検査用キットが用いられている。なおDEAl.1以外の血液型についても判定すべきという見解
があるが、筆者はDEA1.1のみで良いと考える。

犬の血液型とその頻度
血液型
パーセンテージ
陽性
陰性
DEA 1.1*
  1.1(A1)
33-45
55-67*
  1.2(A2)
7-20
35-60
DEA 3(B)
5-10
90-95
DEA 4(C)
87-98
2-13
DEA 5(D)
12-22
78-88
DEA 7(Tr)
8-45
55-92
* DEA1.1 陰性の場合のみ、DEA1.2の陽性・陰性対照となる。
* DEA1.2 陰性はDEA1.1も陰性。

 ネコの血液型:ネコではABグループシステムが用いられており、A、B、AB(1%以下で非常に
希なタイプ)、3種の血液型に区分され、新生仔同種溶血現象や輸血の際に重要となる。またA
アレル、Bアレルの組み合わせは独特であり、出現頻度には地理や品種による違いがある。
輸血に関してはイヌと違い自らのではない血液型抗原に対する同種抗体を自然に獲得してい
る。特にB型のネコは溶血力の強い抗A型抗体を持つため、急性の輸血反応、新生仔同種溶
血現象など致死的な反応を起こす。逆にA型ネコの抗B型同種抗体は一般的に弱い。なおネコ
にもA、B、AB型分類用のキットが利用可能となっており、輸血の際のドナー・レシピエントにつ
いての判定と交配の際の血液型判定を行うべきである。

猫の血液型分布
雑種猫・地域別 A型(%) B型(%)
北東部
 99.7
0.3
中北部
99.6
0.4
南東部
98.5
1.5
南西部
97.5
2.5
西海岸
 95.3
4.7
純粋猫・品種別
アメショー
 100
0
アビシニアン
84
16
ヒマラヤン
94
6
ペルシャ
84
16
ペルシャ
100
0
ジャパニーズボブテール
84
16

 血液のクロスマッチテスト:輸血におけるドナーとレシピエント間の血清学的な適合性はク
ロスマッチテストによって示される。クロスマッチテストにはメジャーとマイナーがあり、前者はド
ナー細胞に対するレシピエントの血漿中同種抗体について、後者はその逆について調べる。イ
ヌでは自然に備わる同種抗体がないので初回の場合省略したりするが、2回目以降のクロス
マッチは重要となってくる。また、ネコでは自然に同種抗体が備わっているため、初回からクロ
スマッチテストが必要である。特にA型ドナーとB型レシピエントにおけるメジャークロスマッチテ
ストは、強い不適合を起こす。

 輸血の代替法:腎不全や痛症例に対する輸血の代替法としてヒトエリスロポエチンがある
が、抗体産生を誘導するためその赤血球産生作用が阻害されることがあり、現在ではイヌ・ネ
コ用の組換えエリスロポエチンが検討されている。また、米国では迅速な酸素運搬能力を持つ
超高純度ウシヘモグロビン(オクシグロビン)溶液に関する治療が確立されている(日本には無
い)。

 以上米国における現状についての記述の要約であるが、イヌ・ネコ両方におしいて血液型の
判定により安全かつ効果的な血液製剤の利用が可能となることは理解に難くない。本邦の獣
医療においても、血液製剤等の利用が増加する傍ら、ルーチンに用いることの出来る簡便な
血液型判定キットの開発が強く望まれるところである。