創作 二十五歳の蹉跌 高森 繁
(1)
「あれっ? ああ! やっちまった」
工事の遅れにイラつく現場監督の鬼瓦が
「ひたすら掘り続けろ。ハカいったら、きょうの労賃、五割増しだ」
ってハッパをかけるから、ツルハシを目いっぱい振り上げて掘りまくったら、トラブル勃発(ぼっぱつ)で作業はストップした。
「カッキ~ン」
渾身(こんしん)の一撃が、明らかに石ころのそれとは違う金属音を響かせると、
腰の高さまで掘り進んだ穴底の端っこ辺りから、みるみる間に水がわき出てくる。僕と相棒は
慌てて「ここか?」「そこだ!」と片足を泥水の中に突っ込み、必死に水道管の止血作戦に出たが、時すでに遅し。いや、人の靴底で穴がふさがるほど
、吹き出す水の圧力はヤワじゃなった。
昭和四十七年春、人口規模は十六万人と、何か中途半端な北海道M市クズ鉄屋通り。昼飯もそこそこに済ませ、僕たちは社長が胸を張って名乗れという「地球整備士」稼業に汗していた。
「ねじり鉢巻きに、ニッカポッカの地球整備士? 笑わせますよね」
土をかき出す相方の声も上の空。(五割増し、五割増し)と欲丸出しの呪文を唱えながら、夢中で掘り続けていたら、水道管に穴をあけてしまった。
あふれ出る水の勢いの半端ないこと。あっという間に、穴ぼこに水はたまり、二、三分もしないうちに、車道にまで流れ出した。僕たちも、
「やべえ、やべえ」
と叫びながら、必死に泥水の海から脱出した。
一番悪いのは「水道管あるぞ情報」を出さなかった鬼瓦だ。いや、やっこさん、はなっから地下埋設物調査をしていなかったかも。
ヒトのいい社長はどんだけ市役所に、断水被害の補償をしたのか、ご同情申しあげるばかりだ。