HPカウンターキリ番「5414」リクエスト:For とも様
お題:牧×三で「クリスマス」
恋人はサンタクロースなんていう、ネタを考えたりもしましたが、何故かこんな話になってしまいました。
イブには間に合いませんでしたが、とりあえずメリークリスマスってかんじでしょうか?
とも様、長らくお待たせいたしました。お気に召すといいんですが…。
暖かい贈り物
「なぁ、牧」
クリスマスイブを翌週に控えた夜、ベッドの中で三井が尋ねた。
「ん?」
「お前って、いつまでクリスマスにサンタが来るって思ってた?」
「そうだな…。小学校に入ってすぐ位かな」
「そっか、結構早かったんだな。何でわかった?」
「確か、欲しいプレゼントについて、サンタクロースに手紙を書いていたんだが、その手紙を、たまたま親の読んでいた本の中にはさんであるのを見つけたんだ。それで、兄に聞いたら鼻で笑われてしまったな。それで、サンタクロースは親父だったとわかったんだ」
「ふーん」
「そういう三井は、どうなんだ?」
「え?俺?」
「あぁ、三井はいつ頃までサンタが来ると思ってたんだ?」
「んー。笑うなよ。高校に入るまでは、信じてたよ」
「え?中学卒業までか?」
「おう」
「そ…それは」
「なんだよ、おせーと思ってるんだろ」
「ま、まぁ…」
「うちの親が、結構凝ってたんだよ。いつもプレゼントには、訳のわかんねーフィンランド語のメッセージが付いてたし、ぜってーに暖炉のところにでっかい足跡つけてあるし…」
「そりゃ、本格的だな」
「だろ?参ったぜ。高校に入って最初のクリスマスは、ちょうどグレてた時でさ。つるんでた奴等にサンタなんかいねーって笑い飛ばされてショックだったんだ」
「そうか。そりゃ、ショックだったろうな。せっかくそこまで信じて来れたのにな。残念だったな」
「なんだよ。知らずにきたほうが良かったってのか?」
「少なくとも、中学まではしあわせなクリスマスを過ごせたんだから良いじゃないか。俺なんか、小学校卒業するまで、両親にいもしないサンタに手紙を書くように言われて、仕方なく知らない振りで欲しいものを手紙に書いていたんだからな」
「ま、まぁな…。お前のこと考えたら、俺は幸せだったんだな。少なくともサンタがきたって喜びもあったし…」
「そうだろう?大人は子供の夢を壊しちゃならないな」
「うん。あ、そうだ。お前、プレゼント何が欲しい?」
「は?」
「大人になったらサンタは、もうこねーから、今度は恋人や友達同士でプレゼントだろ?」
「そうだな。でも、これといってほしいものは、思いつかないな。三井は何か欲しいものあるのか?」
「おう!あるぞ」
三井は、がばっと起き上がり、自分の部屋に戻っていき、雑誌を片手に戻ってきた。
付箋を貼ったページを広げ、牧に見せる。
「これこれ!こいつ、気持ちよさそうなんだけどどう思う?」
三井の指差したものは、メリノウールの掛け毛布と敷き毛布だった。
「暖かそうだろ?それかこっちのがいいなって思ってるんだ」
もう一つ、指したのはムートンのソファカバーだった。
「あぁ。たしかにふわふわしていて、気持ちよさそうだな」
「だろ?」
「つまりクリスマスプレゼントは、このうちのどれかが良いんだな」
「いいのか?けっこう値が張るけど…」
「大丈夫だよ。こっちは無理だけどこの毛布くらいなら何とかなるよ」
「え!そうか。やった!これで、一人で寝ても寒くねーぞ」
「え?なんだって?」
「ん?だから、一人で寝るとさ、そろそろ寒いんだよ。だから、これなら寒くねーだろ」
牧は愕然とした。
最近、三井が、ほぼ毎日、自分のベッドでなく、牧のベッドに潜り込んでくるのは、実は、牧と愛し合うためでなく、一人寝が寒かったからだということに気が付いたからだ。
どうりで、牧がベッドに入るまで、いつもベッドに入らず、うろうろしていたはずだ。
それで、ある程度牧の体温でベッドが温もってから、三井がもぐり込んでくるのだ。
おやすみのキスをしてすぐに、寝てしまうのもそのせいだったのだ。
牧が呆然としているのを、三井は首をかしげて見ていたが、急に一つくしゃみをすると、寒いといって牧の横に潜り込んできた。
「牧、どうかしたか?」
「あ、いや、なんだか、三井にとって、俺は抱き枕かカイロ代わりじゃないのかとつい、思ったんだ」
「なんだよ、そんなこと!それだけじゃねーぞ。飯も作ってくれるし、何より、一緒にバスケしてくれるだろ?」
無意識に首をかしげて牧を見上げている姿が可愛らしくて、牧はうっと言葉に詰まる。
三井の話だけじゃ、恋人としての認識はなさそうではないか。
それでもこの可愛らしい仕草の三井を抱えて眠ることの幸せを手放すわけにはいかないと思った。
牧は起き上がって、ベッドを出る。
なんだか無性に喉が渇いたのだ。
キッチンに行き冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのペットボトルを取り出しコップに注いで何杯か飲み干す。
「何やってんだよ、牧。寒いだろ。早く寝ようぜ」
三井が、キッチンの入り口に寒そうに立っている。
「あぁ、すまない。急に喉が乾いたんだ。すぐ行くよ」
ペットボトルを冷蔵庫に戻し、キッチンの明かりを落として、三井の肩を抱いて牧の部屋に戻る。
牧が先にベッドに入ると、三井が脇に潜り込んできた。
明かりを消して、三井の額にキスをする。
「お休み、三井」
「うん、おやすみ」
その夜、三井の寝息を腕の中に聞きながら、牧はまんじりともしない夜を明かしたようだ。
翌日、牧は何か決心したようで、その日からしばらく緊急のバイトに出かけることにしたようだ。
部活の後、三井たちと分かれてバイトに出かけ、日付が変わるころに戻ってくる。
三井は、牧がなかなか先にベッドに入ってくれないので、寒いベッドに入る気になれず、結局、抱きごこちのいい大きな熊のぬいぐるみを抱えて牧の帰りをソファで待っている日が続いていた。
ぬいぐるみを抱いていると、結構暖かいということを三井は知っているようで、そうやって生身の暖かい牧が戻ってくるのを待っているのだ。
「なぁ、牧。このごろ、急にバイトし始めてどうしたんだ?まさかプレゼントが重荷なんじゃ?」
「そうじゃないよ。ちょっと思うところがあって、バイトを始めたんだが、目標額もたまったし、今日でバイトは終わったよ」
「なんだ、そうか」
そういうと、ほっと安心したように、三井は息を吐いた。
牧の懐で眠るのは暖かくて、寒がりの三井のお気に入りだ。
最近は、少し眠る時間が少なくなったので、ちょっと寝不足気味だったのだ。
明日から、元通りということで、三井は嬉しかった。
クリスマスイブの夜。
牧が、大きな少し大きな包みを抱えて部屋に戻ってきた。
今日は、土屋達のパーティーに呼ばれている。
大学の近くのカラオケで、ぱぁっと騒ぐらしい。
この時期に、こうやって男ばかりで集まるということは、メンバー全員恋人にあぶれてしまっているということなのだが、彼らは半ばやけくそで、このパーティーで鬱憤を発散しようとしているようだ。
牧と三井もこの中に紛れ込むことになっている。
土屋の誘いを断るのも、後々のことを考えると恐ろしいということもあるからだ。
牧は、なるべく早く部屋に戻れるように祈りながら、部屋の鍵をかけた。
そして数時間後。
ようやく土屋達から解放されて、牧と三井が戻ってきた。
「やー。楽しかったぜ。土屋達ハイテンションなんだもんなぁ」
三井が、鍵を開ける牧の背中に額をくっつけて呟く。
「そうだな。妙な明るさで乗りまくっていたな」
鍵を開けて、三井を部屋に促す。
パーティーでもらったプレゼントをテーブルにおいて(これはどうやら、三井の希望で、にごり湯系の入浴剤らしい)、三井は大きな伸びをした。
「三井、先に渡しておくよ。メリークリスマス」
牧が、部屋から大きめの包みを持ち出してきた。
「あ、サンキュ!牧」
牧から包みを受け取って、三井は嬉しそうに微笑んだ。
「あ、そうだ!」
三井も部屋に走っていくと、包みを持って戻ってきた。
「これ、俺から」
「ありがとう、三井」
お互いに包みを開けてみる。
三井のプレゼントは、手触りのやわらかいセーターとマフラーと手袋のセットだった。
牧の方は、ムートンのソファカバーだった。
「わぁ!牧、こっちにしてくれたんだ」
ふわふわの毛皮を抱きしめて三井が嬉しそうに呟いた。
「これで、ソファも寒くないだろ?それから、三井、プレゼントありがとう。やわらかい手触りで暖かそうだよ」
「うん!」
さっそく三井は、ソファにカバーをかけて、その上に転がっている。
「うわー、気持ちイーぜ」
満足げに三井は、手触りを楽しんでいる。
牧は、毛布だと三井が一人で寝てしまうことに気がついてから、必死で目標額の設定をあげて、こちらのソファカバーにしたのだ。
この冬は少なくとも、牧の懐に三井が潜り込んできてくれるだろうことに、少しだけ安堵しながら、ソファに転がる三井の頭を撫でた。
「三井、そろそろ風呂に入ったらどうだ?」
「うん、そうする」
起き上がって、三井が着替えの支度をしている間に、牧は、バスタブに湯を張りに行った。
「一緒に入っていいか?三井?」
「…しかたねーなぁ。今日だけ特別だぞ」
「それはありがたい」
三井の額に軽くキスをして、三井の肩を抱いてバスルームに促す。
恋人たちの甘いクリスマスイブはこれから始まろうとしていた。