HPカウンターキリ番「4014」リクエスト:For ポエムさま
お題:牧×三井
普段と目先の違うものを目指してみたんですが…。
慣れない事はしないほうがいいって感じですか?
好きなんですけどねぇ…。ヒロイックファンタジーとスペースオペラ…。
Fly me to the space.
「暇だよなー」
銀河系宇宙連合辺境惑星巡視船『湘北』艦長三井寿は、ブリッジの自分の席で、大きな伸びをして周りを脱力させるような大あくびをした。
「まぁまぁ、艦長。周囲の士気を下げるような言動は慎んで欲しいな」
副長席で、呆れ顔で木暮が振り返る。
「でもよぉ、かれこれ10日だぜ。こんなに何にもねぇ星域で巡視活動だってよ。士気も下がろうってもんだろ?」
三井は、欠伸をかみ殺して滲んだ涙をふき取りながら、副長に零した。
はっきり言って、『湘北』は、宇宙連合のお荷物船だ。
『湘北』には、他の艦でトラブルを起こした連中と、それをフォローするために無理やり配属された気の毒な連中を詰め込んでいる。
まず、艦長の三井は、連合艦隊の巡洋艦に副長として配属されていたが、配属先の上司(艦長)のセクハラに逆切れして、大暴れした後、謹慎処分を受け、処分解除後、この小さな船の艦長を任されたのだ。
一度問題を起こした三井が、何故艦長になれたのかは、連合艦隊の一般構成員には謎であったが、彼は、やたら年配の提督クラスにウケがよく、出世コースを順調に歩んでいたことと、人事掌握中枢部にも多くのファンを持っていたため、あっさり復帰を認められたようだ。
(セクハラをした当時の上司の方は、反対に完全に失脚して、閑職に甘んじているようだったが…。)
副長の木暮は、何も問題を起こしていないのだが、三井と士官学校が同期ということで、問題児達のフォローの為に無理やり副長として配属された気の毒な御仁である。
ブリッジには、操縦士の宮城と、攻撃担当の流川がいたが、やはり彼らも喧嘩っ早く、かつての艦で問題を起こしていた。
同じく、ブリッジの通信士の彩子も、セクハラ上司をやりこめたことでこの艦に左遷されてきたのだ。
機関室にいる、桜木も同じく喧嘩っ早い男で、機関長の赤木の監視下にはいって首根っこを押さえられている。
とにかく、何も起こりそうにない、辺境の星間をのんびりと巡視している彼らは、確かに暇をもてあましていたのだ。
「あら?」
通信担当の彩子が不思議そうに声を上げた。
「どうした?彩子」
三井が、声をかける。
「微弱ですが、遭難信号が入っています」
「遭難?こんなとこに船がいるのか?」
三井が首をひねる。
「えぇ、近づいています。だんだん、信号がはっきりとしてきました。遭難している船は、宇宙連合艦隊の戦艦で、識別コードKA035X…、艦名は、『神奈川』です」
「なんだって?」
三井は、驚いて立ち上がり、彩子の元に駆け寄る。
「『神奈川』に間違いないのか?」
「えぇ、識別コードに照らして、該当する船は『神奈川』しかありません」
ブリッジの一同は顔を見合わせる。
戦艦『神奈川』は2年前の異星系間戦争に出撃し、かなりの功績を挙げながらも、帰還途中に同僚艦の操船ミスによる爆発に巻き込まれて、行方不明になっている艦だ。
「『神奈川』がなんでこんなとこにいるんだ?」
宮城が首をひねる。
『神奈川』が行方不明になったのは、この星域とはかけ離れた星域だったので、何故ここで遭難信号が出ているのか誰もわからなかったのだ。
「三井、どうする?」
木暮が三井に判断を促す。
「と、とりあえず、警戒しつつ目的の船に接近する。流川、相手が攻撃してきたらいつでも反撃できるようにしておけ。宮城も、バリアを前面中心にすぐに張れるように準備しておけよ。彩子、『神奈川』に呼び出しかけろ。どういうことかしつこく問い合わせろ」
緊張でか、幾分青ざめた三井は、一行に指示を出し、艦長席に戻った。
「機関室、桜木いるか?」
艦内ホンで機関室を呼び出す。
「おう、ミッチー。なんだ?」
「遭難船を救助すっことになるかもしんねぇから、船外活動の準備しとけ。相手は戦艦らしいからな。火力携行の上、接艦し相手に乗り込むことになっから、腕に覚えのありそうな水戸達あつめとけ」
「おう、わかったぜ!」
指示を終えて、ブリッジ前方のモニタを凝視する。
「あれは…」
木暮が呆然と呟く。
モニタに大破した戦艦が映し出された。
大破してはいるが、連合艦隊の2年前に新造された戦艦の形状を留めており、船腹に確かに『神奈川』の文字が見える。
「彩子、応答はねぇのか?」
「はい、2年前の暗号コードでも送信してますが何にも…」
「生存者がいないのかもしれないな」
木暮がぽつりと呟いた。
三井の顔色は、一層青くなる。
「せ、接艦準備…。生存者捜索にあたる。木暮、指揮を頼む。俺もあっちに行って来る」
「三井?艦長自ら行かなくても」
木暮が不審そうに尋ねるのに、三井は俯き加減で呟くように答えた。
「…頼む。行かせてくれ…。あれには牧が乗ってたんだ…。」
『神奈川』の副長は、三井と士官学校同期の牧紳一だった。
彼らの同期の中で一番の出世頭で、2年前の戦争でもかなりの功績を挙げ、無事帰還していればかなり階級も上がるはずだったのだ。
当時、同じ艦隊の駆逐艦で副長をしていた三井は、目の前で起こった戦艦同士の爆発事故を、信じられない思いで見つめていた。
三井と牧は、当時付き合っていた。
この戦争が終われば、二人で長期休暇を取り、のんびりと旅行しようと話し合っていたのだ。
その、甘い夢が目の前で崩れていく恐怖を三井は経験し、一時は狂気に身を委ねかけたのだが、士官学校の後輩である宮城や桜木、流川たちに励まされて、ようやく半年ほど前に艦隊に復帰することができたのだった。
復帰した艦で、セクハラにあって逆切れし、謹慎の後、先月この辺境に送られてきたのだ。
『神奈川』に接艦し、緊急ハッチをこじ開けて、大破した戦艦に三井達は乗り込んでいった。
スペーススーツを着ていたが、どうやら艦内は生命維持装置が部分的にまだ作動しているらしく、通路の所々に隔壁がおりている。
「誰もいねーぞ」
桜木が、警戒しながら三井に声をかける。
「水戸、生存反応はないのか?」
三井は、震える声で、桜木の喧嘩仲間で、一緒に艦に乗り込んでいる水戸に尋ねる。
「このあたりには、ないなぁ…」
「ミッチー、ブリッジに行ってみようぜ」
桜木はそう言うと、喧嘩仲間の野間と水戸をつれて、先に進んでいく。
「センパイ?」
ついてきた流川が、青ざめている三井を、心配そうに覗き込む。
「お、おう、大丈夫だ。ブリッジに行くぞ」
三井は気を取り直して、上に進んでいく。
ブリッジ近辺は、完全に生命維持装置が作動している。
三井は、淡い希望を抱きながら、ブリッジに急いだ。
「じい!?」
一足先にブリッジに駆け込んだ桜木の声が聞こえた。
桜木は、牧のことを『じい』と呼んでいた。
三井は、慌ててブリッジに駆け込む。
「牧!」
「三井?どうしてここに?」
ブリッジには、ただ一人、三井の恋人であった牧が残っていた。
「どうしてだと?それはこっちが聞きてーよ!何で、『神奈川』がこんな辺境にいんだよ!」
三井は、安心して、腰が砕けそうになりながら、照れ隠しもあってまくし立てた。
牧は、三井の質問に、ぽつぽつと答えはじめる。
僚艦同志の接触爆発事故に巻き込まれそうになった、『神奈川』は、牧の咄嗟の機転で緊急ワープを行ったのだという。
しかし、一瞬遅く僚艦の破片が『神奈川』を襲い、航行不能にしてしまったらしい。
ワープから抜けた時点で、身動きも取れなくなり、通信設備も壊れてしまい、遭難信号を出して宇宙空間を漂うだけとなってしまった。
それを、『湘北』の探知機が聞き取ったようだ。
「他の奴はどうしたんだ?」
「あぁ、かなり被害が出たんだが、生存者は居住区のスリープカプセルの中で救助を待っているよ」
ワープの操作の行き先が、爆発に巻き込まれたことによりずれてしまい、辺境に出たことで、いつくるかわからない救助を待つには、コールドスリープで長い年月を過ごすしかないと判断した艦長は、生存者をカプセルに入れた。
しかし、そのメンテナンスや、救助の手が入ったときの為に誰かは、コールドスリープに入らず、待っていなければならないということで、全員でくじ引きをすることになったのだという。
「籤運が悪くてな」
牧が、一人で救助を待つことになったのだという。
「馬鹿野郎…!」
三井は、牧にしがみついた。
「心配かけたな、三井…」
牧にしがみついて泣き出した三井の背中を、牧は愛しそうに撫でてやる。
恋人二人を残して、桜木達は居住区を捜して、コールドスリープのカプセルの入ったコンテナを見つけた。
ブリッジに戻り、三井の判断を仰ぐ。
我に返った三井は、赤面しながら、コンテナをスリープを解除しないまま運び込むように指示する。
「そんなに大勢を養うほど、ウチの艦はでかくねーんだよ。とりあえず、貨物室に運び込んで宇宙連合に連絡だ」
惑星巡視船『湘北』が、戦艦『神奈川』の生存者を救助して母港のニュートーキョーに戻ったのは、ワープを繰り返しても1ヶ月後となった。
コールドスリープから解かれた『神奈川』の乗組員達は、無事帰還していれば2年前に与えられていたであろう功績を称えられ、それぞれが昇級していった。
中でも、機転を利かせて艦の全滅を防いだ牧は、副長クラスである少佐から艦長クラスの大佐に2階級特進し、自分の戦艦を持つことを許されたのだ。
牧に与えられた戦艦は、最新鋭で、ドックからでてきたばかりの『神奈川・改』である。
艦長には、自分の艦の主だったスタッフを指名する権利が与えられている。
牧は、自分の艦の副長に三井を指名した。
そして、期間までの1ヶ月で馴染みになった『湘北』の問題児達もほぼまとめて引き受けると、中央に連絡したため、『湘北』の辺境探索の任務は、急遽終了することになった。
連合艦隊中枢は、三井のこれからと、英雄となった牧の依頼を無下にするわけにいかず、ほぼ、牧の思い通りの人事を了承したのだった。
「まき」
「ん?」
「もう、勝手にどっかに行くなよ」
三井が、ホテルのスイートのソファに腰掛けた牧に凭れかかり、牧に声をかける。
「あぁ、三井のそばにいるよ」
牧は、三井にキスして答える。
乗船準備が待っているが、牧は、せっかく与えられた休暇をのんびりと過ごしていた。
傍らに、三井を連れてリゾートにやってきている。
三井は、目の前で牧の艦が事故に巻き込まれた時に何もすることが出来ず、狂いそうになったことがトラウマとなったのか、絶えず、牧の存在を確かめるように手を握ったり、身体を凭れさせたり牧に触れてくる。
かわいそうなことをしたと、牧は思うが、これからは二人とも同じ艦に乗ることになったので、少しは三井も安心するだろう。
恋人と、新しい艦。
二つの望むものを手に入れた牧は、幸せそうに傍らの三井を抱きしめた。