HPカウンターキリ番「3414」リクエスト:For 鷹渡さま
お題:牧×三井で、
『旅行好きの牧さんに振り回されて休みの度に近場なりなんなり、どこかしら出かけてる2人だったけれど、夏の休みに出かけた旅行は「それる」と予報で言ってた台風に直撃され、挙げ句上陸してしまい身動きが取れなく成って散々な目あってしまう。それでもメゲず、滅多に無い体験だったと部の皆に話して呆れられてたりする2人...(笑)』
うーん。台風で散々なめに…というと、ドタバタになってしまうので、ちょっと詰まってしまいました。
結局なんだったんだ?な話になってしまいました。
お待たせしたのに、申し訳ありません。
嵐の夜?
「雨男…」
窓の外を見ていた三井が、ぼそりと呟いた。
「?」
牧は、寝転がっていたベッドから、半身をおこして、三井を見る。
三井は、窓の外をみたきり、こちらを向こうともしない。
かなり不機嫌そうである。
確かに、不機嫌にもなるだろうと牧は思った。
事の起こりは、夏の終わり。
ぽっかりあいたまとまった休日に、三井に二人で旅行に行こうと誘ったのは確かに牧だ。
牧も三井も、旅好きなので、休みになると互いに誘っては、どこかに出かけていたのだ。
今回は、どこかに行こうと牧が誘った。
しかし、場所を決めたのは三井のほうだ。
どこかで、情報を読んできて、長崎県の大村湾に面したテーマパークを指定したのは、三井だったのだ。
三井の希望にあわせて、飛行機と宿を確保し、帰りに三井の好きな温泉にも立ち寄るという予定を立てたのは牧だ。
当日の朝、台風が近づいているというニュースを聞いた。
しかし、どうやら大陸の方にそれるだろうという予報だった。
それを、裏付けるように、飛行機は問題なく長崎空港に着いた。
空港から、高速艇でテーマパークにも連絡便が出ていた。
テーマパークに入り、バスで宿泊予定のホテルに向かう頃から、雲行きが怪しくなった。
雨が降り始めたのだ。
ホテルにチェックインして、部屋に荷物を置き、一息ついたときには、外は土砂降りになっていた。
それると思われた台風が、九州に向かってきたのだ。
しかも、彼らのいる長崎に。
荷物を置いて、外に散策に出ようとしたが、あまりの土砂降りに外出を諦めて部屋に戻ってきた。
そして、数時間後。
窓の外は、相変わらずの土砂降り。
今日の予定は、全て中止になりそうだった。
三井は、溜息をついてソファに座り込む。
彼の前のテーブルには、園内の紹介マップが置かれていた。
こうなると、ホテルの中に時間を潰す施設が少ないのに気づく。
ラウンジにレストランくらいしかないのだ。
広い場内に点在するアトラクションも、こう雨足が強くては、出て行く気力すらない。
三井の好きな大きな風呂…も、このホテルにはない。
少し離れた、森にウェルネスセンターがあるが、そこまでが行けない。
そこには、ジャグジーや温水プールがあるはずなのだが、そこへ行くまでにずぶぬれになってしまうはずだ。
つまり、二人は部屋でこうやってごろごろするしか、することがないのだ。
「三井…。」
「んぁ?」
「ラウンジにでも行くか?」
「ラウンジ?」
「ケーキでも食いにいかないか?」
「お、おう」
唯一できることは、ラウンジのお茶くらいのものだったため、二人はラウンジに降りていった。
ラウンジで、のんびりケーキを食べている間に、情報を仕入れてみる。
どうやら、台風は、このあたりを直撃するようだ。
テーマパークは、少し前に臨時閉園となったらしい。
交通機関も全て運休を決めたようだ。
ホテルは、宿泊客がいるため、とりあえず営業するようだが、これ以降の宿泊客は全てキャンセルとなったようだ。
完全に、閉じ込められた状態となった。
牧は、一泊の予定だったが、急遽明日の宿泊を確保した。
台風がうまく過ぎ去ってくれなければ、ここに缶詰だからだ。
明日、宿泊予定だった温泉宿にも連絡を入れる。
交通機関が運休のため、そこに行けない旨を話し、キャンセルする。
ラウンジで、時間を潰すにも限界があり、かといって、外にも出られず、仕方なく二人は部屋に戻ってきた。
あとすることといえば、夕食をレストランでとるくらいなので、適当な時間に予約を入れておく。
「さて、夕食までどうするかな」
「どうって、なんもすることねーじゃんか」
「そうだな」
三井は、窓に張り付いて外をみている。
牧は、することもなく、ベッドに横になった。
そして、冒頭に戻る…。
「雨男…」
三井の言葉に牧は心外という風に眉を上げる。
「俺のことか?」
「だって、俺雨男じゃねーもん」
「俺だって雨男といわれたことはないぞ」
「じゃぁ、なんで、こんなに降ってんだよ!しかも台風だぞ!」
「たぶん、今日、ここに来るはずの人に超絶な雨男か雨女がいるんじゃないか?」
「ちぇっ…」
「とんだ災難だな」
「まったくだよ。勘弁してほしいぜ。せっかく、パンフみて予定してたとこ全滅じゃん」
三井が、牧の座るベッドに腰をかけた。
牧が、三井の肩をそっと抱きよせる。
三井は、別に抗いもせず、牧に凭れかかる。
「三井…」
キスしようと牧が三井に顔を寄せた時、三井がすっと立ち上がった。
「ばーか!やなんだよ。ほかにすることがねーからって、んなことすんのは」
「やだって…?」
「まだ、夜じゃねーだろ?不健康じゃん」
「不健康って…」
呆気にとられた牧を、無視して、三井は再び窓辺にたつ。
「明るいうちからサカってんじゃねーよ」
「暗かったらいいのか?」
「バッ…馬ッ鹿じゃねーの!お前、なんでそればっかなんだよ」
「そればっかりって…。ずいぶんだな」
三井は、牧の抗議を無視して、窓に張り付く。
窓の外は、方形に建てられたホテルの内側で、正面ゲートから出ているカナルクルーザーで乗り付けてチェックインできるように、船着場になっている。
つまりは、内運河とでも言うものが、ホテルの建物に囲まれた内部にあるのだ。
外側の部屋なら、海が見えるのだろうが、彼らの部屋は、内向きなので、船着場で雨にゆれるクルーザーが見えるだけだ。
「仕方ないな」
牧は、チャンネルを手に、テレビを見始めた。
どれともなくチャンネルを回している。
気象情報をやっているので、手が止まる。
どうやら、台風は、長崎の手前で足踏みをしているらしい。
いつもなら、さっさと通り過ぎるのが、強めの高気圧が日本海上にあるため、北上も出来ず立ち往生しているらしい。
つまりは、この、高気圧が移動するまで、ずっとこのままの状態が続くということだ。
牧は、溜息をつきながら、仕方なく回したチャンネルの番組を見始めた。
三井も、ベッドに戻ってきて牧の横に座りテレビを見始めた。
牧は、わざわざ、自分のベッドではなく牧のベッドに座る三井に、密かに溜息をつく。
無意識では寄り添ってくるくせに、それを言うと、また抵抗するのだろう三井に、攣れないものだと思う。
結局、何も出来ず、二人はテレビのバラエティ番組を見て、食事までの時間を潰した。
夕食をホテルのレストランでとり、再び部屋に戻ってきた二人は、結局またテレビをつけてベッドに腰掛ける。
窓の外は、暴風雨だ。
もう、暗くて船着場もよく見えない。
向かいの棟の部屋の明かりは、キャンセルされた部屋なのか、ほとんどついていない。
三井は、牧のベッドに登って、牧の隣に腰掛けている。
しかし、テレビを見ているわけではなく、窓の外を気にしているようだ。
牧は、三井が何を気にしているのか、首をかしげた。
その時、窓の向こうが光った。
稲光のようだ。
台風の中心が近づき、かなり外は荒れているようだ。
光が、窓の外に走った時、三井がびくっとした。
牧は、三井が、雷が苦手なことを思い出した。
どうするのかと、牧が様子を見ていると、三井は、牧の傍にぴったりとくっついてきた。
「三井?」
声をかけると、三井はやけくそのような声で何だと応える。
そして、窓の外が再び光ると、牧にしがみついてきた。
牧は、三井を守るように抱き返してやる。
テレビを見ながら、しがみつく三井を抱きしめて、牧は、どうしたものかと考える。
このまま押し倒すと、きっと三井は臍を曲げるに違いない。
成り行きに任せるしかないかと、あきらめた心境になる。
窓の外は、稲光が乱舞しているようで、暴風雨もピークかと思われた。
「三井」
「なんだよ」
「風呂に入ったらどうだ?このままでは、停電になるかもしれないぞ。その前に入ったほうが良いんじゃないか?」
「う、そ、そうする」
三井が、こわごわ牧から離れて、急いで支度をしてバスルームに駆け込む。
牧は、窓のカーテンを閉め、稲光がみえないようにして、三井の戻ってくるのを待った。
三井がカラスの行水のような速さで戻ってきた。
「早いな」
普段が長風呂の三井だったので、牧が驚いて呟く。
「う、うるさい」
三井は、窓の外を気にしながら再び牧のベッドに戻ってくる。
「じゃぁ、俺もさっさと入ってくるよ」
牧がそう言って、バスルームに立っていくのを、三井はそわそわと落ち着かない様子で見送った。
牧が、もともとカラスの行水なのだが、いつも以上に急いで風呂を使い、バスルームのドアを開けると、ドアの前に三井が蹲っていた。
「三井?どうしたんだ?」
牧が慌てて声をかける。
「な、なんでもねー」
そう言いながら、三井はぷいっとベッドに戻る。
三井は、どうやら一人で待つのが心細く、牧の気配のするバスルームのドアの前にいたようだ。
牧が、荷物を片付けて、ベッドに戻ってくると、三井が再びしがみつく。
もう、稲光は見えないのに、三井は必死にしがみついてくる。
「三井?」
「何だよ!」
「いや、そう、力を入れたら疲れるんじゃないか?」
「い、いんだよ!これで!」
三井は、意地になってしがみついている。
「…まぁ、三井が良いならそれでいいんだが」
牧が、呆れて、テレビでも見るかとチャンネルを変えようとしたとき、いきなり部屋の明かりが消えた。
無論テレビも切れた。
「う、うわっ!」
「停電だな」
暗闇の中で、しがみつく三井の背中をぽんぽんと叩いてなだめていると、非常灯が点いた。
廊下で、停電で、自家発電をしているが、これ以上の明かりがつけられない旨のアナウンスが入っている。
「さてと」
仕方がないので、寝るかと、牧が三井を伴って一旦ベッドを降りる。
ベッドカバーを外し、自分のベッドの中に入る。
三井も、自分のベッドではなく、牧のベッドに入ってくる。
「…」
「な、なんだよ!」
「いや、暗くなったから、もういいのかなとちょっと考えたんだが…」
「ばっ!馬鹿!何言ってんだよ!それしか考えらんねーのかよ!」
しがみつきながら言われても、困るんだがなと、牧は思ったが、これ以上三井の機嫌を損ねる危険をおかしたくなくて、結局黙っていた。
そして、すぐに寝入ってしまった三井を抱えながら、牧は溜息をついて、自分も眠るべく意識を手放した。
結局、翌日朝には、電気は復旧したが、風雨は夕方まで続き、結局何も出来ない2日間を過ごした後、ようやく再会した飛行機で東京に帰ることになった。
東京に戻り、大学に出て、土屋達にどうだったときかれて、楽しかったと三井が強がったのは言うまでもないが、牧も、それなりに二人きりでのんびり出来たので意外に楽しかったのだ。
「また、行こうな」
牧は、三井に声をかける。
「うん。でも、台風のときはもういいや」
三井は正直にこたえる。
「まぁ、それはそうだな」
牧も笑いながら答えたが、本当は、震えながらしがみつく三井が可愛くて、もう一度そんな目にあってもいいと、心の中では考えていたのだが、それは、三井には内緒である。