断煙一日目 ≪本日スタート≫
カートン(10個セット)で購入したタバコを紛失した。おい、嘘だろ。夢なら覚めてくれ。改めて買い直すのも悔しいので、約二週間の断煙草を行なうことにする。ただし貰いタバコ、拾いタバコ、シケモクの類を吸うことは可。つまるところ“つもり”期間であり、買ったつもり、吸ったつもりの妄想期間15日。
個人的には禁煙状態によって陥る胸掻毟阿鼻叫喚狂人咆哮の世界を体験してみたい所存であります。
タバコを紛失したことにより、日記のネタが得られた上に新世界を経験出来るとは、おれはなんという果報者か。嬉しいなぁクソタレ、おれのタバコを拾ったやつは出てこいクソタレ。
初日につき、ニコチン禁断症状はまだ発せず。余裕で耐えられる範疇だ。
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過去に一年間だけ禁煙したことがある。わしが健康的な空手家であった時分の話しであり、マジメに強さを追求していた頃の話だから、この時はまったく労せずにタバコを止めることが出来た。一週間で一箱吸う程度のライトスモーカーだったのも幸いしたのだろう。
当時は栄養バランスには細心の注意を払い、毎日高価なプロテインを飲み、炭酸ジュースも断ち、酒も節制を務めていた。そんなことが出来たのも一年間限定、つまり選手として引退するまでの期間限定であったからだ。しかし反動というものは恐ろしいもので、一年が過ぎた後はアホのようにタバコを吸い、アホのようにコーラを飲みまくり、アホになり、現在に至る。
そもそも選手時代は煙草を吸うこと自体禁止されていたのだが、根が非マジメであるわしはトイレに隠れてしばしばタバコを吸っていた。20歳になってこそこそタバコを吸わなくちゃならないのも妙に情けない。
ある時、後輩を引き連れ、飲み屋街をさ迷っていた時のことだ。わしらはバッタリとコーチに出くわした。幸い後輩の発見の方が早く、「あっ!」と奇声を挙げたものだから、わしはその一言で瞬時に状況を察し、コーチに方へ振り返りつつも手に持っていたタバコをしれっと捨て、ビシリと直立不動の態勢をとった。伊達に反射神経は鍛えられちゃいないのだ。
心の底で自画自賛しつつ、軍隊口調での改まった挨拶をしたところ、驚いた。挨拶の言葉と一緒に白い煙がもっさりと口から漏れてきたからだ。人間、驚いたり、咄嗟な行動を取った時には本当に「息を飲む」ようで、わしは状況を察した瞬間から期せずしてずっと息を止めていたようなのである。
ちなみにその時咄嗟に考えた言い訳は「いやァ寒いですね」だ。10月の九州で息が白くなるかよ。
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