学生時代の友人から電話を貰う。
「あ〜もしもし、久しぶり。応援団のYやけど」
「おお、どうしたと?」
「いや、五月の頭に結婚することにしたんだけどさ」
「へぇ、そうなのか」
「案内を送る住所を探すのが面倒でさ、直接電話で聞こうと思ってね…出れる?」
「そんな先のことは分からん」
「やっぱり。そんな先の行く末、分からんもんね」
「じゃあ、また」
「じぁあね」
電話で結婚式の案内をするYも凄いが、「二ヶ月も先のことは分からない」の一言であっさりと相手を納得させてしまうわしの生活も相当おかしいと思う。
*
親戚のババァ氏が家にやって来た。わしは親戚中から「ロクデナシのごく潰し」扱いされているのだけれども、その筆頭に立って批判しているのは他でもない彼女だ。わが身を心配しての説教は我慢できるが、「いいかげん目を覚ませ」「マジメに生きろ」等の無意味で執拗な忠告はうんざりする。目を覚ましてマジメに生きようとした結果がこうなってしまったのだから、仕方ないじゃないか。
さて、珍しいこともあるもんだと思って用件を問えば、「この度、息子が高校に進学するから、余っている制服よこせ」とのこと。なるほど、そういう訳か、と納得。
本来ならば、「どの面下げて拙宅を訪れやがるか、死に腐れ。ところで進学おめでとうございます」と温かい祝辞を捧げつつ塩を撒くところだが、ババァ氏の息子は母親に似ず聡明な子だ。ババァ氏のためではなく、息子の為に制服一式を進呈することにする。
と、その日の夜、別の親戚から電話がかかってきた。「見直した!」「えらい!」とやたらと小生を褒め称える内容で理解に苦しんだが、話を聞けばわしがババァ氏に対して「茶を出して見送りした」ことを賛辞しているのである。どうやらおしゃべりのババァ氏が本日の出来事を親戚中に言いふらしているようだ。
そうか、ババァ氏も良い所あるじゃねぇか。陰口しか言えない彼女も、わしの善行を言いふらすこともあるのだ。
と、ちょいと待ちやがれ。「茶を出して見送りする」ってそれほどに賞賛される行為か。つまりこれは「連続強盗殺人犯で強姦魔放火魔の男が、落し物の財布を交番に届けた」のと同程度の意味合いがあると思われる。
余程、わしは「ロクデナシ」扱い受けていることを実感した今宵は新春のみぎりを感じます。合掌。
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