隊長の戯言


 
2003/1/29 (木)

 銀歯が取れた。瞬間接着剤で再接合しようと思ったが寸前で踏みとどまり、歯医者に赴くことにする。
 馴染みの歯医者に行くとなにやら改装工事が行なわれているようで、臨時の移転先を探すのが大変だった。
 移転した歯医者は歯科医の実家らしく、民家の戸を開けていざ中に入れば治療台はなんと居間にある。視界にはキッチンが見え、非常に家庭的な雰囲気が漂っている。というか、家庭そのものだ。
 院内に流れるBGMは流し台の上に置かれてあるラジカセからの垂れ流し。CDの演奏が終わると、再び「PLAY」ボタンを押さなくちゃならない。CDを入れ替えようとする初老の医師に
 「大変ですね」
 と言うと、
 「何かいいCDがあったら持ってきてよ。なるべく演奏時間の長いヤツ」
 との言葉。
 一瞬バリバリのデスメタルやハードロックが流れている歯医者を想像したが、それも一風変わっていていいかもな、と思う。ビートに合わせてノリノリでドリルを振り回す老医師。たいへん良い感じだ。

 携帯電話がついにぶっ壊れた。表示画面の上部が表示されないのである。三年近く使ってきた携帯電話なので、致し方ない。いや、それどころか壊れたのは喜ばしいことだ。これで心おきなく買い換えが出来る。そもそもわしは、次々と携帯を買いかえる人種が嫌いなのである。モノは最後まで大切に使いきれ。
 と、思ったのだがこのような状態でも何とか使えないことはない。メールを読むにも画面をスクロールすればいい話しだし、着信履歴や発信履歴も辛うじて表示圏内にある。
 そこで買い替えの踏ん切りをつけるためと、携帯電話に対する今までの慰労と敬愛の念を表すために壁に思いっきり叩きつけて差し上げたら、携帯電話みごとなまでに完全に直る。
 モノは最後まで大切に使うべきだ。


2003/1/28 (水)

 ゴロマキ権藤のモデルは花形敬だったということを先日知り、思わず感動した。と、思わず書きたくなってしまったので書いてしまいました。それだけです、はい。

 昼夜逆転生活が続いており、どうも調子が悪い。逆転と言っても360度の逆転で、つまりは午後九時就寝、午前三時起床という一般常識的見地からの「健康的生活」となるのだが、これが小生にとっちゃァすこぶる調子の悪い生活となる。牛三つ時以降はもっとも頭が働く時間なので、私的には都合が悪いのだ。

 冬眠期間もじきに解けそうだ。冬眠期間に気を養い、充電期間に金を貯め、活動期間に気と金を一気に放出するのがわしの一年間の生活形態だけれども、今年度は充電期間を割愛することにした。冬眠は大事だ。欠点はスーパーの特売日が時々わからなくなること。曜日はおろか、今はまだ一月中旬だと思っていた。


2003/1/23 (金)

 うわッ。これはムチャクチャ欲しい。喉から手が出るほど欲しい垂涎グッズ。
 「帽子」は大変忠実に再現されているし、「灰皿」なんかは実用的で良い。「香水」などはぜひともステキな女の子にプレゼントしたいところだ。
 肉食・魚食・野菜食の三バージョンが用意されているのにも心底から敬服と畏敬の念を持たされる。この企業の研究開発部、営業部ならばぜひとも働いてみたいものです。

 

 http://www.partyzakka.com/bn/ak/uc50/

*

 武蔵盗作訴訟でモメておりますな。
 製作者側には同情する。賛同はしないが、同情する。
 わし自身、映画の脚本を書いてみて騒然としたことがある。思いつく限りの着想が既成の作品の枠を脱しきれず、どこか見たこと聞いたことのある筋・流れ・オチから脱却出来ないのである。
 
 ところで現在1年間に出版される本の総タイトル数は約7万冊にも上るそうだ。うち、完全なオリジナル作品はどれだけあるのだろうか。99%の作品は数種の「箱」に分類され、またその箱の中にも「小さな箱」がある。例えるならばエロ小説が一つの大きな「箱」であり、純愛もの、緊縛もの、教師もの、痴漢ものがそれぞれ小さな「箱」となる。「箱」に収まらない作品を描くのは大変困難だ。意識せずとも既存のテーマや情景を準えてしまうことも多々ある。「武蔵」が意思的にやったのか、無意識的にやったのかはわからないけれども。
 よって音楽家の言う「全てのメロディーは出し尽くされた」って言動は分からないでもない。独創とはそれだけ難しいのだ。
 
 また、俳句という世界がある。これはさらに切実だ。十七文字だけで構成される世界。しかもその十七文字はイロハ四十七文字という世界に制限される。
 俳句に限界を感じた人は既に江戸時代にいた。ところがこの俳諧人はそこまでで終わらなかった。その限界性を実際に探ったのだ。具体的に言えば、四十七文字の十七乗の計算を行なったのである。一瞬で回答が得られる計算機のある現今では簡単な話しだけれども、今より二百年もの昔でしかも西洋数学が普及する以前のことだから、こいつはなかなか凄い。
 んで、はじき出された結果というのが、
 
 2穣664杼9365垓0695京2193兆4963億2219万2687 通り、
 だとさ。
 この“兆”を超える天文学的数値を一見したところではピンとこないのだけれども、さらに突っ込んで検証すれば次の様になる。
 百万人が一昼夜に一万句の俳句を作りつづけるとして、それを書き終えるには七二九兆八○七三億九四〇万三ニ六九年一一月一六日かかると言われる。これは日本の全人口が一日につき一万句づつ書いたとしても七十三兆年かかる訳だ。意味のない十七文字の羅列を含めて、の話しだけれども、それにしても限界の二文字には相当縁遠い。
 たかが四十七文字、されど四十七文字。四十七文字×一七通りの俳句も数学的見地からすれば無限大の可能性を秘めている。音楽も文学もさらにそれ以上の可能性があるということか。


2003/1/22 (木)

 そこで雪辱戦である。
 
 本日、珍しく雪が積もった。九州では一年に一度あるかないかの大雪だ。わしは冬を嫌う一方で雪はやたらめったらと好きなのだけれども、ひとたび積もれば居ても立ってもいられず慌てて飛び出し雪と格闘、果ては極限の躁状態となり道行くおっさん、散歩のおばはん、登校中のガキ、イヌ、電柱、自販機に及ぶまで「オハヨウ、オハヨウ」っと節操なく声をかけてしまう。
 一昨年の大雪の際は、日も昇らぬうちから近所の山頂目指しえっちらおっちらと歩いた。山頂までには墓場を通りぬけねばならず、しかもこのような薄暗い中で凍結した山道を克服しつつ昇って行くヤツはおるまい、と思って行動に及んだのである。何事も初快挙は気持ち良い。
 しかし途中何度か転落死しそうにながらもようやく辿りついた山頂には、腰の曲がったヨレヨレの老人が満足げに立ち尽くしており、くしゃくしゃの笑顔で「オハヨウサン」と言われたという屈辱の思い出がある。
 高齢社会の展望は極めて明るい。
 本日は四回コケて復讐を果たす。

 昨年のこの時期にも雪が積もった。あれは一月の第二週目だったとはっきり覚えている。強烈な思い出があるからだ。
 引越し屋の仕事が休みだったのにも関わらず、小生は緊急出動させられた。なんでも遠方の社員が大雪のために来られなくなったとのコト。
 本日はこんな具合だが、客がどうしても今日中にやってくれと言っている。タカ君、悪いが行ってくれ。男ならやり遂げてくれ。そう言われれば引くに引けず、わしはチームリーダーとして丘陵の住宅街へ向かったのである。
 凍結した道路での4tトラックは非常に怖い。チェーンを履かせたにも関わらず、坂道においてはズルズルと滑り、発進の際には度々タイヤが空回りする。立ち往生するたびに、近所の住民がわらわらと現われ、雪を溶かすお湯を持ってきてくれたり、タイヤの下に引く毛布などを差し出してくれたのは、非常に感動させられたが、このような始末では引越しなど出来るはずもないのである。トラックの移動は元より、冷蔵庫を運んでいる最中に足を滑らせ潰され圧死、という可能性も多いにあり得る。
 必死の思いで客の下に辿りつくと、やっぱり「今日中にやれ」とのたまう。無理だ。やれ。不可能だ。やらないと困る。
 そうこう必死に交渉しているうちに、ついに本社からの「本日全面営業停止」との連絡が入り、そこでようやく説得できたのである。
 会社に戻って上司からさずかった一言、
 「タカ君は条件が悲惨であればあるほど本領発揮してくれるな。これからも頼む」
 冗談かと思っていたが、その数ヶ月後には、40歳のリストラサラーリマンのアルバイトと二人きりで政治家Kさん一家の引越しをメシなし休憩なしの十六時間ぶっ通しでやり、途中でサラリーマンが倒れて一人きりで完遂したという素晴らしい思い出がある。本社にはその業績が伝わり、以降「インドからやって来た野人」との称号まで頂いたのはクソタレ的に喜ばしい。
 
 雪辱とは文字通りのことだ。


2003/1/21 (水)

 歯茎の腫れがひき、ようやく上の歯と下の歯が接触できるようになった。
 呆けたように始終ポカンと口を開けっぱなしにしているのはなかなか辛いもので、親知らず、歯茎、顎の三重苦。それが数日も続くと顎の疲れは限界となり、終いにはティッシュを噛み締めて生活し続けた。

 およそ五日間、おかゆと豆腐だけで暮らすという修験者生活に突入し、湯豆腐、冷やっこでそれぞれポン酢・醤油・辛し醤油・ワサビ醤油・マヨネーズあえ形態を駆使しながらも、なんかとか本日塩サバ解禁に至った次第で、コイツが相当に美味い。ちなみにコンニャクは痛くて食えなかった。

 計らずも極限の貧乏生活のおかげで、親知らずは気合で治せる、ということが学習できた。おかげさまである。と、言いたい所なのだけれども、実際の所は生理痛薬「セデス・ハイ」とウイスキー一本、焼酎一升瓶二本に費やした費用の方が高く付いたような気がしないでもない。もっとも五日間に渡って酩酊状態を持続できたことは大変よろしいことであり、深くは考えないことにする。
 
 明日はようやくコンニャクが食えるだろう。了。


2003/1/17 (土)

 完全に生えきっていたと思っていた親知らずが再び成長し始めた。超悶絶急の痛みは何とも耐えがたく、この二日間で食ったメシは食パン一枚のみ。
 今更手術する資金的余裕などあるはずもなく、湿布を貼ってただひたすら耐え続ける。
 本日はとある組織のとある会議に出席せねばならなかったので、スーツを着て出席。小生、目が悪いのであるが、あいにく度付きサングラスしか持ち合わしておらず、スーツ、サングラス、顔面湿布の三点セットで会議に臨んだ。発言するにしてもそもそも歯を噛み合わせることすら出来ぬので、すべては相当マヌケな発音になる。
 「しょうれしゅ(そうです)。しょの件に関ひまひては、現じゃい計画通りにコトがしゅしゅんでいましゅので、詳ひくは後日に改めて詳細を発表させて頂きましゅ」
 
 バカである。平均年齢50歳のオッサン会議で何が哀しくてこんな口調で喋べらなくてはならぬのか。滴るヨダレを拭いつつ、必死に発言したものの、「そうか、分かった。ところで何処で殴られた?」で片付けられると、泣きたくなってくゆ。ばぶばぶ。

 
 耐えがたい痛みに屈し、薬を飲むことを決意する。自然療法を信奉するわしは薬は口にしないことにしているのだけれども、今回ばかりは仕方ない。薬局の鏡にチラリと映るおのれの姿を見て、やや驚く。優男風の男性にはぜひ試して頂きたいのだけれども、黒スーツとサングラス、そして顔面湿布の三アイテムがあれば、誰でも「近寄りがたいヒト」になれてしまう。ちなみに痛み止めの薬が分からず、生理痛の薬を買ったが、尚恥ずかしい。
 空きっ腹ではあったものの、即刻その場で生理痛薬を四錠飲むと(通常は食後に二錠)、さすがに効果はテキメンである。何しろここ十年来薬を飲んだ記憶がないのだ。ややもすると、痛みが急速に引く…までは良かったが、薬が効きすぎて真っ直ぐ歩けなくなった。足元がふらつくのである。
 生理痛薬でラリラリになりつつ、晩飯を買いに行く。ヨレヨレフラフラと歩きながら、豆腐を3丁、コーンスープにクロワッサンを購入。
   
 今日は素晴らしい日だった。こんな日はさっさとクソして寝るに限る。



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